連合軍の聖魔道士たち
翌日、アリアたちの今後の配置が命じられた。
「サンドラ・オーランシュはもちろんだが、ジャンヌ公女。そなたも剣の心得があると聞いているが、間違いないか」
ヴィルヘルムに問われ、昨日の疲労っぷりが嘘のように全快したジャンヌはしゃんと答える。
「はい。サンドラにはまだまだ及びませんが、今後もいっそう精進いたします」
「よい。ではそなたらは、女性騎士として活動してもらう。職務以外では三人で行動してもよいが、行軍中などでは公女や令嬢などの身分は一切考慮しない。いいな」
「はい」
「もちろんでございます、ヴィルヘルム様」
「そなたたちの指揮は、シャルロットに一任する。……シャルロット」
「はい」
ヴィルヘルムに呼ばれて前に進み出たのは、うら若い少女だった。まだ十代の半ばぐらいだろう彼女はサンクセリア人らしく、背が低くてほっそりしている。
だが鎧を纏った彼女は戦乙女の面差しをしており、ジャンヌとサンドラの前でお辞儀をする姿も洗練されている。元は、貴族の令嬢なのかもしれない。
「シャルロット・ミーゼルです。若輩者ですが、女性騎士の指揮官を担っております。よろしく頼みます、ジャンヌ、サンドラ」
「はい、シャルロット様」
「よろしくお願いします」
ジャンヌもサンドラも、シャルロットよりも年長であるが礼儀正しく応対している。これから二人はシャルロットの指揮下に入るのだから当然である。
「そして……シスターアリア。名前は、アリア・ロットナーだったか」
「はい、父がサンクセリア人、母がユイレ人でございます」
「……そうか。そなたの父君も我が国の民なのだな。……そなたは聖魔道士だと聞いている。よってそなたはフィーネの元につき、彼女の指示に従って救護を担当せよ。……フィーネ」
「はい、ヴィルヘルム様」
次に呼ばれたのは、昨日ジャンヌの部屋ですれ違った若い聖魔道士だった。
今日も真っ白なローブ姿の彼女はアリアの前で上品にお辞儀をする。
「フィーネ・トラウトです。よろしくお願いします、アリア」
「はい。未熟者ですが、よろしくお願いします、フィーネ様」
そうしてアリアたちはそれぞれのリーダーに従って別行動を取ることになった。次にジャンヌやサンドラと話ができるのは、仕事が終わってからだ。
「ではまず、アリアにも聖魔道士用のローブを渡しますね」
そう言ってフィーネは、聖魔道士用の詰め所だという建物に案内してくれた。一見普通の民家のようだ。
フィーネ曰く、この宿場町も最初は帝国軍の酔っぱらいたちに乗っ取られていたそうだ。そんな連中を連合軍が追い出したため、宿場町の町長が積極的に物資や建物を提供してくれるようになったのだという。
(ヴィルヘルム様はそうやって、各地で味方を増やしているのね)
連合軍のメンバーは五百人程度だと言っていたが、協力者はアリアが思っている以上に多いのだろう。
民家は一部屋のみの平屋だった。建物内にはフィーネよりもさらに年下だろう子どもたちがおり、床に座って薬の調合や包帯の準備などをしていた。
フィーネは部屋を見渡し、ぱんぱんと手を打って皆の注目を集める。
「みんな、聞いて。今日からユイレ解放まで、私たち聖魔道士団に新しい仲間が加わります。ユイレ大公国のシスター、アリア・ロットナーさんよ」
「……初めまして。よろしくお願いします」
アリアがおずおずと挨拶すると、子どもたちからも「うん、よろしく」「お姉さん、年いくつ?」などとの声が上がった。衛生兵としての仕事をしているが、本来ならば表で遊び回っていてもおかしくないくらいの年頃だろう。
「……みんな、お若いのですね」
新しいローブを探すフィーネに問うてみると、フィーネは頷いた。
「そうなのです。この子たちのほとんどはサンクセリア人ですが、大人の聖魔道士は亡くなられており――素質のある子が連合軍に入ったら、私が教育することになっているのです」
「そうなんですね……」
「年は、一番若い子だと今年で十歳。十代前半の子がほとんどで、あそこにいるシェイリーが十五歳、私がもうじき十八歳になります。アリアさんは……もう少し上でしょうか?」
「はい。今年で二十歳になります」
そんな話をしているうちに、ローブが見つかったようだ。
「聖魔道士は基本的に後方支援で、ヴィルヘルム様も重宝してくださっています。この白いローブを身につけていれば、周りの人たちも私たちの所属をすぐに判断してくれますし、負傷者がいる場合に私たちを捜す目印にもなるのです」
「なるほど……」
「それで、ローブですが……ごめんなさい、アリアさんにぴったりの丈のものが見つからなくて……」
備品のローブは、小さめサイズかとても大きいサイズしかなかったようだ。小さめサイズは子どもたちやフィーネのように小柄な人用で、アリアが着ると太ももまで見えてしまう。よって長い裾を縫うということで、大きめサイズを選んだ。
「普段の行軍中は、私たちの仕事は多くありません。しかしこれからだと――ユイレ解放戦は、負傷者ゼロというわけにはいかないでしょう」
床に座り、アリアはフィーネの説明を聞く。
「今までにも数度、帝国軍と交戦したことがあります。基本的に、私たちは後方に待機します。負傷者が運ばれてくるので彼らの治療をするのですが――場合によっては、前線まで馬を駆らなければなりません。馬は乗れますか?」
「はい。軍馬は難しいのですが、通常の馬であれば」
「それは、有り難いですね。実は私は一人では馬に乗れないので、いつも誰かに乗せてもらっているのです。聖魔道士といっても、若い子には前線に行かせられません。よってこれまで前線に出るとしても私とシェイリーくらいでした。……そのため」
そこでフィーネが言いにくそうに口を閉ざしたので、アリアはせめてもの年上の威厳を示そうと、フィーネに微笑みかけた。
「もちろん、私が前線に参ります。ユイレ城下町であれば、ある程度の地理も頭の中に入っております」
「ええ……ありあがとうございます、アリアさん」
その後、簡単な説明を受けてからフィーネに連れられて外に出る。先ほど、落馬して骨折した兵士がいるとのことだ。
(お手並み拝見、ということね)
診療所に案内されたアリアは、ベッドに横になる青年兵士の足をじっくり診察する。
(大きな骨は折れていない。でもひどい内出血だから、細かい骨が折れて内部で筋肉を刺激しているみたいね)
フィーネは側の椅子に座り、アリアの様子を眺めている。彼女に認められ、ヴィルヘルムからの信頼を得なければならない。
(……大丈夫よ)
アリアは兵士の患部に触れ、そっと魔力を流し込む。
まずは、骨。ぽっきり折れた骨を再生し、肉を傷つけないようにくっつける。筋肉の内出血を抑え、膿を排出するよう兵士の体に働きかける。
聖魔道は基本的に、「聖魔道士が負傷者の体の治癒力を高める」ものであるため、負傷者本人の体力がもたなければ聖魔道は成り立たない。そのため、身体欠損などの重傷の場合には、聖魔道を使えないこともあるのだ。
負傷した足を癒そうと思ったら、負傷者の生命力全てを強引に引き寄せてしまい、逆に死なせてしまう――そういうこともあり得るからだ。
時間を掛けて兵士の足を癒やし、最後に異常がないかをチェックする。
「……終わりました。ちょっと体がだるいと思うので、ゆっくり休んでくださいね」
よく休むよう指示するのも、聖魔道士の役目である。治ったからといってそこらを走り回られたら、いきなりばたっと倒れる。
実はこれも、幼い頃のジャンヌで経験済みだった。
(昔、ジャンヌ様は何度も怪我をなさって、その都度私のところに治療に来たっけ)
兵士は何度も礼を言って、仮眠室へと運ばれていった。
それを見届けたフィーネが立ち上がり、にっこりと微笑んだ。
「見事でしたよ、アリアさん」
「いえ……今回のような骨折ならまだしも、もっとひどい怪我の場合は私の力では追いつかないことがあるのです」
「そういうのは私がするから、大丈夫です。私やシェイリーでは手が回らないところを中心にお願いしようと思うので、よろしく頼みます」
フィーネはなんてことないように言う。
つまり、フィーネの聖魔道はアリアのそれを勝る効果であるのだ。
(……頑張らないと)
アリアは顔を上げ、大きく息をついた。
(ファルト様、あなたと再会するために)




