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女騎士の贖罪

 サンドラ・オーランシュは猿ぐつわを噛まされ体も縛られており、その紐の先端を先ほどの側近が持っていた。


「サンドラ・オーランシュの主張とシスターアリアの証言を照合した結果、発言に偽りがないことが判明しました」

「ああ、ご苦労」


 ヴィルヘルムは手を振って側近に応え、床に跪いたサンドラを目を細めて見下ろす。


「……サンドラ・オーランシュ。そなたはユイレ公女ブランシュの命令に従い、シスターアリアを脅迫した。……間違いないな?」


 ヴィルヘルムの言葉に、サンドラはこっくり頷く。紫金髪の巻き毛が顔の前面に掛かっているので、その表情を読み取ることができない。


(サンドラ――)


 アリアは何も言えず、床に跪くサンドラを見ていた。


「結果としては、そなたの行動ではシスターアリアをユイレに戻らせることにはならず、ブランシュ公女の命令に反したとしてオーランシュ子爵家の者は皆、殺害されたのだな」


 びくっとサンドラの体が震える。


 命令違反と判断されたサンドラは、家族を殺害され、その遺骸と対面していたはずだ。

 ユイレから戻る船上で、サンドラは「家族と会う」と青ざめた顔で言っていた。


(あの時から、サンドラは分かっていたのね……)


「サンドラ・オーランシュの証言によりますと」


 サンドラを連れてきた側近が、資料らしき紙束を手に発言した。


「ブランシュ・ユイレは昨年の初冬、アリア・ロットナーとファルト・マクスウェルの婚約が確定した際、サンドラ・オーランシュを呼び出して春になるまでにアリア・ロットナーをユイレに連れ戻すよう命じたとのことです」

「なるほど……さては、ジャンヌ公女の報告にあった人形の事件とやらも?」


 ヴィルヘルムの指摘に、こくっ、とアリアの喉が鳴る。


「はい。なるべくアリア・ロットナーを傷つけることなく、自発的にユイレに戻らせるために行動を起こしたそうです。しかし期日になってもアリア・ロットナーが戻らないため、ブランシュ・ユイレは人質に取っていたオーランシュ子爵家五名を殺害し、ジャンヌ公女ならびにアリア・ロットナーの帰国を依頼する文書を送ったのではということです」

「そうなると、グレゴリー・ユイレ大公の死も絡み合いそうだな。テオドール皇子にとっても大公は邪魔だったのだろうが、大公が死去すれば相続相談のためならばランスレイに対して公式に公女やシスターの帰国を依頼することができる。自分にとって必要な駒である公女とシスターさえ戻ってきたならば、ランスレイを襲撃することも躊躇わない……か」


 下衆め、と王子様らしからぬ悪態が聞こえた気がする。


「とはいえ、もしサンドラ・オーランシュの計画が成功していたならば、ブランシュ公女はシスターアリアに聖女の任務を押しつけ、今以上に行動を早めていたことだろう。そうなったら、ハインたち密偵も間に合わなかったかもしれない。ユイレが崩壊していた可能性も高い。……そうならなかったのは、運がよかっただけ。サンドラ・オーランシュ。そのこと、承知であるか」


 サンドラは頷く。

 ちらと見えた彼女の赤茶色の目は、心なしか潤んでいるようだ。


 ヴィルヘルムは、再び問う。


「そなたは、罪を負う覚悟はあるか」


 サンドラは頷く。

 とたん、我慢ならずアリアは身を乗り出してしまった。


「ヴィルヘルム様! お待ちください!」

「シスターアリア、発言を許した覚えはない」

「っ……しかし……」

「やめなさい、アリア」


 いつになく厳しい声でジャンヌが命じる。

 アリアはぐっと唇を噛みしめ、ふらふらと椅子に戻った。


(サンドラが、罰を受ける……)


 サンドラだって、辛い思いをしたのに。

 大切な家族を全員惨殺されたというのに。


 ヴィルヘルムが側近に手で指示を出す。

 側近はサンドラの口と腕を封じる布を取り払い、ヴィルヘルムは己の腰に提げた剣を抜き、呆然とするサンドラに渡した。


「選べ、サンドラ・オーランシュ」

「……は」

「全ての咎を背負い、罪人としてここで死ぬか。もしくは――」


 ――サンドラを見下ろすヴィルヘルムが、笑う。


「――これまでの己と潔斎し、一人の騎士として新たに、ジャンヌ公女並びにシスターアリアに忠誠を誓うか」

「ヴィルヘルム様……!」


 声を上げたアリアを見る、ヴィルヘルム。

 その双眸は優しくゆるめられている。


「言っただろう。私は使える人材は使いたいと。……さあ、どうする? ここで潔く死を選ぶか、血に濡れても泥にまみれても、我が軍の駒として生きるか」


 皆の視線を浴び、サンドラはしばし硬直していた。

 赤茶色の目に浮かぶのは、驚き、戸惑い、そして――


「……ヴィルヘルム様の仰せの通りに」


 サンドラの凛とした声。

 その左手が自分の長い髪を掴んで持ち上げ、ヴィルヘルムの剣が首筋に当てられる。


 ザクッ、という重い音。

 床にはらはらと舞った髪の束を、彼女の背後にいた側近が布で受け止める。


 サンドラの左手には、艶やかにうねる紫金髪の束が。

 彼女の髪は首筋で切りそろえられ、耳の下で揺れていた。


「……ジャンヌ様、アリア様――そしてヴィルヘルム様に、永遠の忠誠を」


 自ら髪を切り落とした女騎士は剣を構え、静かに誓いを立てた。

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