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真面目な話の後で2

砂糖小さじ一杯

「アリア嬢は、俺が贈った品は気に入ってくれましたか?」


 ファルトに問われ、アリアは自分のドレスを見下ろしてみた。


 若草色の――アリアの目と同じ色のドレス。冬仕様なので胸元や袖口までしっかり覆われており、裾から繊細なレースが覗いている。ユイレ伝統のドレスは装飾も少なめでシンプルなものばかりだが、ランスレイ伝統のドレスは布で作った造花やレースなどをふんだんに使い、華やかに飾り立てているのが特徴だ。


 このドレスも身につけているアクセサリーも全て、ファルトから贈られたものだ。さままざまなものを贈られるのだが、アリアにはどれが自分に似合うのかよく分からない。そのため、城で世話になっている侍女たちに毎日のコーディネイトをお任せしているのだ。


(侍女たち曰く、「マクスウェル侯爵は大変ご趣味がよろしい」ってことだけど)


「その……毎日たくさんの素敵な贈り物をくださりありがとうございます。ただ何分私はドレスや宝飾品などに明るくなく……どれも本当に素敵なのですが、どんな組み合わせがいいのか分からないので、侍女の皆さんにお任せしているのです」

「シスターならばそれも仕方ないことですね」


 ファルトは気を悪くした様子もなく答え、テーブルに肘を突いて目を細めた。彼の杏色の目が、自分の贈り物で着飾っているアリアをしげしげと観察してくる。


「でも、どれもあなたによく似合っていますよ。選んだ甲斐があったというものです」

「ファルト様が自ら選んでくださったのですね」

「はい……といっても、俺は男だから女性の装飾品にそこまで詳しいわけでもありません。実家の母にせっつかれながら助言をもらったのですよ」

「まあ、お母様が」


 そうしてファルトが語ることによると、彼の両親と兄たちはファルトに爵位を譲った後、領地の隅っこでのんびりと過ごしているという。彼らの住む場所もこの島内。息子が普段王都にいるのでその間領地はファルトの父や兄たちが管理し、ファルトが王都での仕事に専念できるようにしてくれているのだという。


(素敵なご家族ね)


 家族を失ったアリアにとっては羨ましいばかりだ。政略結婚とはいえ、いずれ彼の家族に挨拶に行くだろうから、その時に仲良くなりたいものだとしみじみ思った。


「母に聞かずとも、あなたの好みが分かれば一番なのですが……ああ、そうだ」


 いいことを思いついた、とばかりにファルトは手を打ち、満面の笑みでアリアを見つめてくる。


「今度、一緒に街へ行きませんか?」

「街……ですか?」


 はっとアリアは息を呑む。

 この話の流れによって提案された、「街へ行こう」というお誘い。それの意味が分からないアリアではない。


「そう。今までは俺があなたの好きそうなものを選ぶばかりだったのですが、一緒に店へ行ってあなたがどんなものを好むのか、知りたいのです。それに――」


 テーブル越しに見つめてくるファルトの視線が、甘く優しくなる。


「いずれ俺たちは結婚します。ランスレイでは、結婚を約束した者たちは結婚式までに、揃いのアクセサリーを準備することになっているのです。知ってましたか?」

「……は、はい。ジャンヌ様や侍女の皆様から伺っております」


 アリアは急ぎ答える。


 ――再会したジャンヌの左手首に、繊細なブレスレットが光っていた。アクセサリーを身につけない主義のジャンヌにしては珍しいと思って問うたところ、エルバート王子から贈られたものなのだと嬉しそうに教えてくれたのだ。


 指輪、ブレスレット、ネックレス、ピアス。何でもいいので、将来を約束した者たちは同じデザインのアクセサリーを身につけて結婚式に臨むのだという。


 ジャンヌの場合、ブレスレットはエルバート王子の一存でデザインが決められ、ある日ひょっこりと贈られたという。アリアは自分もそんな感じになるのかな、くらいにしか思っていなかったので、ファルトの提案に驚いた。


「……一緒に選んでもいいのですか?」

「もちろん。……ああ、エルバート殿下とジャンヌ公女の場合は、王族の婚姻になりますからね。家紋を入れるとかデザインに指定があるとか、結構細かいんです。だから殿下が陛下方と相談してデザインを決めて、ジャンヌ公女に贈ったのですよ。俺の実家はそこまでしきたりとかも細かくないんで、とりあえずマクスウェル家の家紋さえ入れていれば大丈夫です」

「まあ……そうなのですね」

「だから、色やデザイン、どんなアクセサリーがいいのかはアリア嬢と相談して決めたいんです。……だから、いいですか?」


 ファルトに問われ、アリアはうっと身構えてしまう。


 ……最近気づいたのだが、アリアはファルトのこの姿勢に弱い。「だめですか?」などと控えめに問いながら、少しだけ弱気な感じでアリアを見つめてくる。いつものようにグイグイと引っ張ってくるならまだしも、下手に出られると戸惑ってしまう。ここで断ると、迷える子羊を見捨てた薄情者になってしまうような気さえするのだ。


(……ううん、断るのは後ろめたいから、だけじゃない)


「……私も、ご一緒したいです」


 それが、アリアの本心だから。

 アリアは笑顔で、ファルトの「お願い」を受け入れた。









「ルシアン、頼み事がある」

「今度は何だ。顔は洗っただろうな」

「仕方ないから洗っている。『不潔です』なんてアリア嬢に言われたら、俺は心臓発作で死んでしまうかもしれないからな」

「そうか。それで、俺に何を頼む気だ?」

「明後日、アリア嬢と一緒に城下町デートすることになった。結婚式までに準備すべきアクセサリーを選びたいんだ」

「……ああ、それは確かに必要だな。さては、俺に当番を代わってくれと?」

「そういうことだ。エルバート殿下には理由を述べて、アステル様と時間調整をして公務を回してくださることになった」

「ならば俺も従うしかあるまい」

「悪いな、ルシアン」

「……ファルト」

「ん?」

「ちゃんと、守ってやれよ。……たとえ何があっても」

「……。……ああ、もちろんだ」

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