トキちゃんのスキル
「おーい、生きてるかー」
右側から話しかけられている。黒い部屋、ケテルか? てか、毎日来るのか。
「生きてr」
右を向くと、トキちゃんがいた。
「なん、でトキちゃんが……」
「靈、トキ、よく来てくれた」
「お前、なんでここにあいつがいるんだよ! あいつを巻き込まなくったって!」
ケテルの胸ぐらを掴み、睨み付けながら声を荒げる。ケテルは冷たい目を向けてくる。
「あんた、やめろ!」
その言葉が僕を我に返す。そして、あいつが僕に対して叱るように言う。
「私はね、あんたがこっちにつくからついてきた! 分かる? だから、別に巻き込まれたんじゃない、これは私の意思だ!」
「ごめん……」
「もういい、今日は解散だ」
目が覚める。さっきのは夢ではないだろうな。とりあえず、いつもどうり準備して、外に出る。
白い部屋には、トキちゃんがこたつに入っていた。
「これ、エリア様が靈に渡せって」
トキちゃんはが渡してきた本を受け取りながら、こたつに入る。表紙に題名はない、試しに一ページ捲ると、紙一杯に字が並んでいる。薄い本だし、すぐ読めるものだろうと思ったら、そんなことはなかった。僕はこんな長いものを読む気にはなれなく、本を閉じる。
「それ、魔法の教科書だって。で、私が教えろって言われた」
トキちゃんは魔法が使えるなら、僕よりも役に立つかもしれないな。というか、僕が役に立たないだけかもしれないが。
「そういえば、エイジは?」
「エイジは、前線に行ったよ。俺には、負荷が大きいからトキさんは靈様に譲ります、だってさ。エリア様もあのバカにしか使えないでしょうね、何て言うんだよ。それで、せっかく自由にできると思ったら、あんたに使われることになったんだよ。ああもう、最悪だー」
トキちゃんって僕のことそんなに嫌ってるのか? 一緒にいれるのはいいんだけど、なんか悲しい。
「僕のこと、嫌い……なの?」
え、なんか地雷踏んだ。トキちゃんがヤクザみたいな表情になってるんだけど。
「ちげーよ! あんたがいつも、いつも私を鈍器みたいに使うからこっちは相当イテーんだよ!しかも、投げて回収しねぇとか、訳の分からないことに使ったりだとか、あり得ねぇんだよぉ!あげくの果てにはぁ、私を勝手に賭けて……」
トキちゃんはこうなると止まらない。言いたいことを全て言い終えるのを待つしかない。
「黙ってねぇで、なんか言ったらどうだ、あんたもよぉ!」
「すいませんでしたぁ!」
「誠意が足りねぇんだよぉぉぉ!」
はぁ、なんとか話してくれるようになった。最初の三〇分はずっと叫んでいた。そして、叫び終えた瞬間寝た。そして、一時間経った今やっと起きた。
「えーっと、なんで僕しか使えないんでしょうか?」
「それはねえ、私のスキルのせい」
それから、そのスキルとやらについて話し合った。
まずトキちゃんのスキルは、魂を消費し、三つのモードに切り替えるというものらしい。それも、トキちゃんに触れている人がいる場合、その人がスキルの使用者として扱われる。つまり、僕の魂が消費される。
・魂のあるものを切断する。
・魂のないものを切断する。
・切らず、衝撃を与える。
の三つらしい。だけどこれは、対象によって消費する魂も違うらしい。そして、場所ごとにどのモードかも決められるようだ。
このスキルの負担が大きいらしい。僕は喰ってしまえば、もとがとれるのでは、と思ったが。普通は、使徒の魂を取り込む際には、転生神の浄化という作業が必要、つまりそれなりの時間が必要らしい。
そもそも、自分の魂が消えてしまうので、利益があまりでない。
そして何より、魂の大きさに自信のある戦神がトキちゃんを使って前線に出た時に、消滅しかけて帰ってきたという事件が起きて以来、曰く付きの剣とされ、誰も使わないらしい。
トキちゃんが、こんな可哀想な目に会っていたなんて、これは白の神々、許せないね!
話終わったとき、エリアが帰ってきた。
「エリア、おかえり」
「おかえりなさい」
「靈、魔法はどのくらいできるようになりました?」
ん? 魔法、そういえば、そんなのあったな。全然読んでないけど。
「いや、まだ少しも読んでない」
「今日は徹夜ですね。時刻、あなたも手伝ってください」
トキちゃんと顔を見合わせる。そしてほぼ同時に口を開いた。
「トキちゃんのせいです!」「靈のせいです!」
「何いってるの、あんたが勝手に話をふったからでしょ!」
「なわけあるか、そっちが勝手にキレて叫びだしたからだろ!」
「あんた、やんのかぁ?」
「いいよ、こいよ、ほら早く!」
「はぁ、全く、あなた達は……」