ゲーム
エリアはどこかへ消えていった。
「エイジ、ゲームしよう。もちろん、トキちゃんも」
「いいですね、やりましょう」
「わかんないから、やり方教えて」
二人を部屋に案内する。ふとんを片付け、座布団を三枚出す。
「ちょっと待ってて、飲み物持ってくるから」
保温庫からペットボトルのココアを持って来て、二人に投げる。
「ありがと」
「ありがとうございます」
「エイジ、何が得意?」
「俺は格闘ゲームが好きです」
エイジは格闘ゲームが好きなのか。僕とは、趣味が違うな。
「ゲーセン派、据え置き派?」
「友達とゲーセンでやってました」
「じゃあこっち来て」
床の畳を取り外すと梯子がある。
「トキちゃんから降りて」
「えっ、なんで?」
「スカート、でしょ」
「ああ、そっか」
自分もだけど、トキちゃんもトキちゃんでアホだよな。精神年齢一三歳で、固定されてるんじゃないか?
梯子を降りていく。そして、着いた場所には扉がある。扉をゆっくりと開ける。
聞こえてくる雑音は次第に大きくなっていく。開ききったとき、目の前には何台もの筐体がどこまでも並び、それぞれの存在を主張する音はもはや聞き取れず、耳が痛いほどの一つの雑音になっている。
やや大袈裟に振り返って二人に叫ぶ。
「ここは、僕が作ったゲーセン、ジ・オールマイティ・ゲームズ! 古いものから新しいものまでなんでも揃ってるよ!」
「どこまで続いてるんだ……」
「これがゲームなの、何て言うか……すごいね……」
「とりあえず、格ゲーコーナーまでいこうか」
エレベーターに乗る。このエレベーターは横にも動き、好きなコーナーに行けるようになっている。このSFっぽい雰囲気が毎回僕の胸を高鳴らせる。
「着いたよ」
格ゲーコーナーに着いた。先ほどとは違い、僕は筐体の群れの中にいる。ここにいると、雑音は世界の自然音のように感じられる。
「銀拳でいい?」
「いいですよ」
「じゃあやろうか、トキちゃんは一回エイジの方見てて」
「御意!」
御意ってなんだよ。
僕が椅子に座る。続いて、エイジが反対側の椅子に座る。最後にトキちゃんは、隣の台の椅子を引っ張ってきて座る。
キャラ選択わかんね。とりあえずこの女にしたろ。一ラウンド目が始まる。エイジは、いかつい顔のちょんまげを選んだようだ。
「さて、やりますか」
「靈、弱いね」
トキちゃんの言葉が心に刺さる。
結果から言うと完敗した。一ラウンド、よく分からないうちにこねくり回された。二ラウンド、突っ込ん出ったら、返り討ちにされた。三ラウンド、瞬殺。
「トキちゃん、やろ」
エイジが、基本操作を教えている。一ラウンドが始まる。キャラクターはさっきと同じだ。あちら側も同じ。さすがにゲームをやったことのないトキちゃんには、負けないだろう。
「靈、やっ、ぱり弱い、ね」
トキちゃんが笑いを耐えながら言ってきた言葉が、さっきより深く心に刺さる。
一ラウンド、いけそうだったのだが、後半エイジが指示を出し始めた。そこから、完敗した。トキちゃんには、格ゲーのセンスがあるのかもしれない、きっとそうだな。現実逃避しているとエイジが提案してくる。
「次は、靈様の得意なゲームをしませんか」
おお、勇者よ、気遣ってくれてありがとう。
「そうさせてもらおうかな……」
エレベーターで、再び移動する。
エレベーターの扉が開く。今度は機械音だけでなく、ジャラジャラと金属の擦れる音も聞こえる。さっきの暗い雰囲気とは違い、遊園地のような明るい雰囲気だ。
「僕がゲーセンで、一番、得意なゲーム、それは、メダルゲームだ!」
二人は言葉を失っている。トキちゃんは格ゲーコーナーとの差に驚いているのだろう。エイジはもっと競技性の高いゲームを予想していたのか、途方にくれている。
「せっかくだから、どれだけメダルを増やせるかで、勝負したいと思う。ルールは簡単、どれでも使っていい、制限時間は一時間、千枚から何枚増やせるかだ。今回はハンデとして、僕対2人で戦う。質問はあるか?」
二人はなにも言わない。
「それじゃあ、始めだ」
メダル千枚をエイジに渡す。僕は真っ先にある台に向かう。その台は、メダルを押し出す形式で、メダルとボールが溜まっていた。これは僕が前、寝落ちするまでやリ続けた台だ。一枚メダルを入れる、すると大量のメダルが落ちてくる。こんな台がまだたくさんある。
「この勝負、僕の勝ちだ」
一時間経って、集合している。メダルを運んだ台車にかけた布を勢いよく取る。
「八一〇九枚だ!」
「すみません、一二三六〇枚です……」
「ファッ!?」
どうやってやったんだ? まさか僕と同じ方法を?
「いや、トキさんが何回かジャックポッドを……」
何て運とラックだよ、トキちゃんは。
「ってことはまた僕の負けか……」
「フッ、靈、弱過ぎ、」
今度は確実にあいつ笑ってやがる。トキちゃん、ツヨスギィ!