捕喰と昔話
赤ローブが起き上がり、魔法を発動する。さっきより待機時間が短く、飛んできた火球は一回り小さめだった。
アホなんかな。早く発動して隙をなくしても、威力下げたら意味ないやろ。
「いただきます」
「何をするつもりだ!」
こいつら言葉喋れたのか。操り人形みたいな感じになってるのかと思ってたよ。まあ、そんなことはどうでもいい。
さっき殴ったときに入れた魂は既に赤ローブの魂に浸透している。それを内部から切り裂く。そして、バラバラになったものを魂が捕喰する。
赤ローブの目から光が失われる。そして、魂を失った脱け殻は地に倒れる。
死体の方向に腕を向けて、魂を引き付ける。これで、回収完了だ。ごちそうさまでした。
「この化け物が!」
その罵声とともに、視界が黒に染まる。紫ローブか。ってことは、最初の不可視の状態もあいつがやったのか。視覚に干渉する魔法かな? 一瞬だけど、魂に干渉された気がするし、光を操るというよりは、そっちだろう。さて、どうしようか。効果はすぐに切れそうじゃないし、逃げられたら面倒だ、
どうにかして、相手の位置を知らなければいけない。魂を放出して、反応を感知するのはどうか? ものは試しだ、やってみよう。
周りに魂を薄く放出する。そうしたかったのだが、調整を失敗して、思っていたよりも多く放出してしまった。だが、結果は成功だ。反応が三つある。そのうち二つはエイジと鎧だろう。もう片方やったのか、さすが勇者だな。そしてもう一つが、紫ローブだろう。このまま浸透させることもできそうだが、直接殴りに行く方が、確実だ。
赤ローブと距離を詰めたときと、同じように接近する。何か当たったが、気にする必要はない。貫手で心臓を突き破り、魂を捕喰する。ごちそうさまでしたっと。
世界に光が戻る。前世の外から自室に帰ってきたときの、感覚に似ている。
「うわ、眩しい」
これが嫌いだから海に出なかったのに、異世界に来てまで、味わうことになるのか。
振り返って、エイジの方を見る。どうやらもう終わっていたようだ。赤い鎧の方は大盾も鎧も横に真っ二つ、青い鎧の方は、鎧ごと、頭から下へ真っ二つ。もしかしてエイジは、すごい強かったりする?
「エイジ、人はこんなにもきれいに鎧とか切れたっけ?」
「ああ、これ魂剣なんですよ」
エイジが腰に下げている剣を指差して言った。
魂剣、魂が入った剣のことだろう、自分もそんな剣を使っていたことがあったな。二〇〇年は使ってたかな。癖の強い奴だったけど、悪い奴でわなかったよな。僕の話相手にもなってくれて、一緒に笑いあった。徳川にケンカ売りに行ったときも付き合ってくれて、負けて帰ってきたときには、一緒に悔しがってくれた。そうやって、一緒に過ごして、相棒になり、親友になった。だけどあいつは、途中で死んでしまった。あいつは最後に僕を庇って死んだ。僕が、あの世界に留まっていたのは、あいつの夢を叶えるため。そして、あいつが確かに存在したことを忘れないためでもあった。つい最近までは死後に転生、何てただの誰かの現実逃避で、ないものだと思ってた。それで、海底都なんて言う安全地帯に籠っていたのに。油断して、あんな変な死に方したんだ。あいつが転生してて、再開したら、魂半分位渡さなきゃ、償えないな。でも、もしかしたら、あいつは間抜けで、僕らしいって笑ってくれるかもしれないな。そういえば、あいつはもとは人だったんだよな、あいつの魂が体から抜けて、消え去りそうだったから、持っていた刀に無理矢理ぶちこんだったんだよな。その後、あいつが刀になったから新しい名前が欲しいと言ったから、僕が名前をつけた。それは、一年に一度、時間の感覚をなくさないように作ってたものだから……
「時刻っていって、魂のあるものをk」
「トキ…ちゃん?」
僕は思わず呟いた。
剣はその言葉に反応するように震えた。