戦闘開始
黒い部屋にたった一つ棺桶がある。その中には呪われ眠らされた少女が入っている。中身が少女であることには違いないのだが、その本当の姿は剣だ。週に一回ぐらいの周期で姿が変わっているから、きっと三日後には刀の姿になっているだろう。その時は棺桶じゃなくて、ショーケースになるわけだ。見せ物になる訳じゃないけど。
ということで、僕は今トキちゃんのところへ来ている。最後に様子を確認しておきたかったからだ。だから、もうここには用はない。
「次こそ会えるといいね」
今度はただの僕が、目を覚ましたあいつに会いに来る。
それを別れの言葉に残して僕はここから旅立つ。これでいいんだ。
あっ、おい待てぃ。感傷に浸ってる感を出してたらやること一つ忘れてた。
それなので、クイックターンして部屋にリターン。そして、少女の魂から力を引き抜く。
「借りていくね」
というよりも貰うって言った方が正しいな。
また馬鹿っぽくなっちゃったけど、今度こそ本当に行こうか。僕は少女に手を振り去っていく。
場面は変わって、ここには今日の作戦に参加する九名が集結しています。まず、僕を含めて黒の王冠の七名、それと白の勢力の御二方。僕と零固、それとクタンを除いた六人ですが、作戦を計画してから今日までの2ヶ月で、古城靈と肩を並べる程成長した……訳でもない。ただ、零固が「俺の結界は魂を断ち切れるかもしれない」なんて言い始めて、試してみたら成功してしまった。そして、その結界は六枚まで張れたから六人追加された。僕はあの時、無の奴らに対抗できるのなんている訳ないと思っていたのに。
あと少しだけ補足。気づくかな、この黒側の多さ。
三分の二以上が黒な理由知ってみたいでしょ。白の人達はこれ以上戦力を減らせないんからだ。つまりはまだ黒を怪しんでる。あぁ、再戦の音がするようなしないような。
「まあ、全員集まったし出発するよ」
「ああ」だとか「分かった」とか「はい」なんかの短い返事を預かる。
「四」
カウントダウンは重要だ。いきなりの転移が心臓に悪いことは知っている。
「三」
適度に緊張感を出すのにも良いと思う。集中力も高まるだろう。剣にも、魔法にも、魂術にも必要なことだ。
「二」
ところで、集中力も才能の一つだけど、それよりも役に立つ才能は数えきれない程あるはずだ。そういう目立った才能を授かった物が天才と言われたりする。まあ、こんなことは関係ないけど。
「一」
あと一つで古城靈は終点に向かい始める。そして、そこに着いたら新たな道が見える。
「零」
すべての感覚は切り離され、ただ目的の場所に進んでいく。今回の転移はなぜだか長く感じる。今はなにも感じることができないはずなのに。
意識は身体に戻り、自分が敵に囲まれている事に気づく。敵は一人一人違う顔を持っている。だが、こいつらは一様に、不自然なまでに感情の抜けた表情で固めている。
そして、皆は既に結界を展開した状態で構えていた。僕だけ遅れて意識が覚醒したみたいだけど、なぜだろうか。こんな時に限って不調なのは、もはや世界に見捨てらてると言っていい。
自分の不遇さを嘆いていると第一戦は開始、否もう終わった。零固が全員の魂を喰ってしまったようだ。こんなにも脆いのは怪しいな。待ち伏せができるならもっと戦力を寄せれば良かったのに、ふざけてるのか。
「靈、こっからは五つの扉に別れてる。なんかしら罠があんだろうが、どうする?」
扉ってことは、戻ってはこれないパターンかな。まあ、戦力を分断したとしても、あの程度が相手なら問題ないな。仕掛けがあってもどうにか対応してくれるだろう。一番知りたいのはエリアの念話が届くかなんだが、入ってみないと分からないしね。
「僕と零固を二つに分ける。ケテル達は決めてた通りにしよう。あとエリアは入ったら、何回か念話を飛ばして」
「分かりました」
殺した人と話してるってのは、やっぱり慣れなくて不思議な気分になるね。前から知ってれば、そうでもなかったんだろうが。
「じゃあ、行こう」
さて、他の皆はそれぞれの扉に入って残るは僕だけ。僕は慎重に扉を押していく。こんな身体に拘るから面倒なんだ。でも、あと少しだけ耐えてみせる。
扉の先には暗い道が延々と続いていた。いくら歩いても何かがあるどころか、曲がる事すらない。ただ、何もないの繰り返しだ。
自分の足跡が響けば、僕はここにいるのだと分かる。でも、ここはどこで、今はいつだよ。なんでここには何もない。そうやって、たまに僕のいる世界が分からなくなっていた。今の僕ならこう返してやるよ。ここはここ、今は今、何もないんじゃなくて、この世界には望んだ物が無いだけってね。
僕は歩みを止めず、時には走ってみたりもする。そうして淡々と歩き続けていると、漸く一つの魂を見つけた。
大きめの反応だけど、相手は周囲に魂を張り巡らせていない。それどころかこいつ、撒き散らした僕の魂を吸ってるな。自ら危険物を取り込んでくれるなら、好都合だね。お前は内側からひび割れて、粉々になり、僕に殺されるんだ。こいつもすぐに僕が纏う亡骸の一つになる。
なんか足んねぇよなぁ? こんなところに一人だけで配置されるようなのは、そう簡単に突破できないはずだ。
僕が警戒を強めるや否や、敵は動き出す。僕の魂に噛みつき、僕の魂を切り裂き、呑み込む。既に罠にかかり、死が確定しているとも知らずに。
「まるで、獣だね」
僕は敵の魂を中から叩き破ると、暗闇の奥から、人のものとは思えない咆哮が押し寄せた。しかし、それとは逆に、敵の魂はひどく傷ついていながらも落ち着いていた。
魂と肉体の不一致。魂と肉体は切っても切れない関係なんだから、そんなことはある筈がない。誰であっても魂は肉体という器に張り付いていなければ、消えてしまう。それは魂の理だ。
だが、理を外れるものも確かにいる。そう、僕だ。僕にとって肉体は古城靈という存在を繋ぎ止める枷。そして、魂こそが僕の本質。
もし、目の前の敵が同類であっても、僕はなにも思いやしない。どうせこのまま生きても救われないからね。僕が殺してあげるよ。
魂を壊しても無駄っていうなら、直接取り込んでしまえばいい。僕は敵の魂をそのままのみこむ。敵がもがく度に、僕の魂は削られ、傷つき、貫かれる。僕がやってきた事と同じだ。これでいくつもの世界を壊してきたんだ。だが、僕は壊れない、壊れることすらできない。お前も同じだ。
だから、お前は僕という牢獄の中で眠ってろ。お前はこんな世界にいなくていい。
僕は敵の魂をむりやり鎮める。もう少ししたら解放してやるからおとなしく待ってって。戦闘中に目覚めたりすると事故が起こるから、止めてくれよ。
さあ、次へ行くとするか。