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古城靈出撃

 ケテルの部屋の前に着いた。もう一年も経った。道に迷うことはない。

 深呼吸をしてから、ドアを五回ノックする。昔みたいにすぐ開けたりはしないように心掛けている。

「入っていいぞ」

 準備ができているのか、返事はすぐにきた。

 ドアノブを回して、ドアを押し開ける。閉めるときは両手で音が立たないようにだ。こんな感じで大丈夫かな。

「おはよう」

「よお、これを取りに来たんだろ?」

 挨拶とともに挙げた手にカードが投げ渡される。

「ありがと」

 軽くお礼を言ってから、カードを見る。


 登録番号No.889464R

 登録名:古城靈

 所属:黒の王冠

 序列:<転生神>1000位以下

 <総合> 10000位以下


 その他には、顔写真とバーコードのような物がくっ付いている。情報が少なく見えるが、機械で読み取ることで膨大の情報が出てくる。ただ、セキュリティクリアランスによって見れる情報が制限されている。前にケテルの事を調べたら、凄くくどい警告が出たことは忘れられない。

 また、ここの序列ってのは貢献度であって強さではないので、これで強さを判断するのは不適切だ。

 それより、黒の王冠って所に勝手に所属させられてるんだけど。

「ねぇ、黒の王冠って何?」

「俺の部下ってこった。何かあった時に黒の王冠だ、って言えば何かと便利だ」

 察しはついていたが、ケテルは相当な実力者なのだろう。そうでなきゃ、ネームバリューは無いはずだ。

「手伝ってたから分かると思うが、ターミナルに行け。出撃するときはあそこを通してくれ」

「うん、もう行くね。頑張ってくるよ」

「おう、行ってこい」

 カードを取りに来るというのもあったが、少し挨拶しに来たようなものなので、ケテルの部屋を後にする。


 次に向かう場所はトキちゃん……あいつの部屋だ。ここからまっすぐ行って、四つ目の角を左に曲がったら右手側だ。この部屋の立ち入りができるのはケテルが許可を出した者だけだ。

 カードをスキャンし、扉を開ける。いつもと同じ、何もない寂しい部屋だ。

「トキちゃん、行ってくるよ。戦いを終わらせてくる」

 これ以上はいう言葉は思いつかない。まあ、伝わるわけでもないし、いろいろ話すのは起きた時かな。

 手が冷たくて、ポケットに突っ込んだ。手に当たるもの物がある。それは僕が施設を利用するために使ってた臨時のカードだ。

 これはもう要らないし、ここに置いとくか。実質、ここ入るためのキーカードだったしね。

 僕は部屋から立ち去り、今度こそターミナルへ…転移でいっか。時間も押してるし。

「望む場所へ」

 詠唱とともに視界に深い霧がかかる。


 晴れると、そこはもうターミナルだ。ターミナルは戦神達が戦場へ転移するための施設だ。

 だが、今はローブ姿の人たちも多い。僕やビウンのように転生神でも出撃するする人が多くなってきているようだ。

「転移してくるんじゃない」

 頭に何かが叩きつけられ、響かない金属音がする。何かと思い振り返ると、杭剣を二本担いだサイスさんがいた。そして、頭の上に乗っかっているのも杭剣だと気づく。

「サイスさん、おはようございます。渡す物ってこれですか?」

「そうだな。まずは杭剣三本だ。予備として持っていってくれ」

 僕は、サイスさんから受け取った杭剣を、空いている剣帯の右側に指す。もう二本はサイスさんの使っていた物ごと受け取って、背中に装備する。違和感は感じるけど、気にしなければいいだろう。

「まずってことはまだあるんですか?」

「そうだ。これをやる」

 そう言ってサイスさんが取り出したのは、ペンダントだった。

 若干黒っぽいがシルバーに輝いている。剣と鎌のデザイン、片仮名のルにも見えないこともない。

 たぶんサイスさんの武器と僕の武器ってことなんだろう。

 さすがに、農民と兵士の団結とかそういう感じではないと思う。

 そんなことを考えて、首に着けた。

「ありがとうございます。サイスさんが作ったんですか?」

「まあな。武器の製造もするから、このくらいはできる」

 サイスさんは口調とかの割には器用で、いろいろできる。女子力は高いと言えるかもしれない。大鎌を振り回してる時点でどうなのかとは思うけど。

「そろそろ、君は行った方がいいんじゃないか?」

「お、そうですね。行って参ります、師匠!」

「無理はするなよ。それと、師匠は止めてくれ」

 少し言ってみただけなのに、真面目にお断りされた。


 サイスさんに手を振り、受付に行く。確か一人の場合は一の位が九の番号だったはず。僕は一番空いてる二十九番に並ぶ。

 前の人の転移が終わったようで、職員が戻ってきた。

「はい次、カード見せろー」

 なんかこいつに任せるのやだな。僕が自分でやった方が良さそうなんだけど。まあ、ここには仕事ができるやつしかいないはず……だよね。

 そんな事を思ったものの、結局はカードを渡す。

 受け取った職員はカードをスキャンし、機械を操作している。

「えっと、この物資補給ってのかな?」

「ああ、たぶんそう」

「じゃあ、準備室の方行ってて」

 おい、そこは案内しろよ。最初に渡されたマニュアルにも書いてあったろ。初めての人だったら迷いますよ。

 いろいろ言いたいことはあるが、素直に従って準備室に入る。この準備室だが、職員が準備するのであって僕が準備するわけじゃない。だから僕は待つだけだ。


 暫くして、二メートルは越えるほどで、縦に長い箱を持った職員が入ってきた。

「これ武器です」

 端的に言った職員と目が合った。


 少しの間を置いて、今まで見えていたものが消え、青だけになった。横にはさっきの箱がある。そして僕の髪は逆立っている。ようやく自分が落ちているのだと気づく。

「空中とか! ふざけんな! 許さん!」

 何をトリガーにして転移を発動したのかすら分からなかった。その実力があるなら戦場に行けよ。

 こんなことを考える前に落下対策しなければ。

 とりあえずあの箱をこっちに引き寄せたい。邪魔だから中身だけでいいか。

「破壊する!」

 魔力を消費し生み出されたエネルギーが箱にぶつかる。箱が砕けて姿を現したのは、背負う事すら困難と思える大剣だった。見覚えがある。ハッセンの使用していた物にそっくりだ。

「来い!」

 大剣を手に呼び寄せる。その重みを感じて、振り回せた物じゃないと再度思う。

 下を見ると、戦闘がもう始まっている。いや、終わろうとしている。一つの黒い点を、白い点五つずつの四グループが四方を囲んでいる。

「吹き飛べ!」

 爆発は、音、光、熱を伴い、感覚に刺激を与える。撹乱するのには手っ取り早い。

 この隙にあの少女にこれを渡しに向かう。

「あそこへ!」


 転移し、近くで見たハッセンの姿は僕の思っていたものとは違っていた。武器は使い尽くしたようで携帯していなく、服は所々破れ、出血もしている。まさに満身創痍だ。目はこっち側を見てはいるものの輝きを失っている。

「ハッセン、これ使うでしょ」

 ハッセンは無言で、大剣を受け取った。そして、両手で構えると、ハッセンの口角が少し上がった。

「傷を癒せ」

 ハッセンの傷が塞がり、出血が止まる。異世界のテンプレ、回復魔法だ。欠損を治せる人もいるらしいが、僕には今みたいなことしかできない。

 才能が無いってことだな。

「防御して」

 ハッセンは僕に防御を任せて突っ込んで行く。僕もその後ろについていく。転移によっての移動はできない。さっきの不意打ちから繋げることはできるが、そうでない場合は転移後の隙を突かれてしまう。

 魔方陣が展開され、前方から炎の弾幕が押し寄せる。後方からは細い光線が放たれた。

「守り守り守り抜け!」

 駆ける僕とハッセンを覆うように三重の結界を張る。そんな威力じゃ、僕達の足は止まらない。前後両方守れてる。

 順調に距離を詰めている。しかし、前方の魔方陣が変形し、一回り大きくなった。直後、一つの巨大な炎弾が発射され、さきほどまでの弾幕を飲み込みながら近づいてくる。

 これを今の状況では守りきれない。

「阻め!」

 前方のみの結界を即座に五枚張る。一枚、二枚とぶつかる度に小さくなり、五枚目を破ると同時に完全に消えた。

 十分に距離を縮めたところで、結界を解除する。

 そのタイミングを分かっていたかのように、即座に飛び跳ねたハッセンは着地と同時に戦神の一人を一刀両断する。

 敵は硬直している。さっきまで何もできなかった者が味方を一撃で殺したことに驚きを隠せないのだろう。

 ヘイトはハッセンに向いている。僕のことを忘れるのはちょっと頂けないですねぇ。

「穿て!」

 発生したエネルギーを高速で打ち出す。炎の魔法を使った転生神に向けられたそれは、詠唱通り体を貫く。

 動揺のせいか、結界すら張ってなかった。間抜けなやつだ。

 二人分の魂は捕喰しておく。既に死んだ奴の魂ならある程度の距離があっても捕喰できるようになった。これで戦場でもすぐに魔力を回復できる。一応普段余る魔力を固めて、魔力結晶も作ってあるけどね。

「貴様ぁあぁぁ!」

 怒りを宿した叫びに反応して避ける。だが、避けきれず左肩に相手の槍が突き刺さる。

 間抜けなのはどっちだよ。油断が死を招くって事はもう分かってるだろ。

 まあいいか。戦神は魂術が使えないため、僕の補喰に抵抗できない。だから、触れてしまえばこっちのもんだ。

 槍から魂を送り込み、同調させ、内部へ入り込む。そして、破壊する。吸収を済ませると同時に、死体は重力に従って崩れる。

 槍を抜くと血が吹き出す。出血を止めるため、回復魔法を使う。

「穴を塞げ」

 左肩の肉が再生し元に戻り、痛みも消えている。

 ハッセンの方も残り二人を既に倒したようだ。地面に落ちているのは、真っ二つ、首から上がない、頭に剣が生えていると申し分のないラインナップだ。好きな人にとってはだけど。まあ、好きでも嫌いでもないから、捕喰できればいい。

「次に行く」

 ハッセンは戦闘が一段落したというのに、またすぐに戦おうとしている。

「他の奴らが来るまでは休めば?」

 ハッセンなにも言わずに、走り出した。それが返事だと思う。

 他の三グループはもう合流しているだろう。合計十五だ。

 でも最初に撃ってきたのは、後ろの奴だけだ。魔方陣の数は確認できなかったけど多くても五人。

 そいつらを僕が押さえる。

 他の奴らは、ハッセンがどうにかしてくれる。休まないと言ったんだそのくらいはやってくれるだろう。

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