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強くなる意味

「は?……」

「言葉どおりだ。話したくねぇかもしんねぇがよぉ、そいつはなんなんだ?」

 ケテルの言っていることは本当なのだろう。そしたら、それは本物だろう。間違えるはずがない。そして僕はそれを消さなければならない。

「ケテル、それはきっと偽物だよ。僕が存在する限りね」

 どうでもいいことのように僕は答える。重要だけどケテルは知らなくてもいいことだからね。

「そうか、次の話に移る」

 ケテルは深く詮索しないようだ。ありがたいね。

「少し転移するぞ」

 転移の魔方陣が展開される。ちなみにだが、この半年間で魔法陣の方の勉強もして、なんの系統の魔法かぐらいかは識別できるようになった。まあ、使うのは詠唱だけど。


 気づくと、そこは黒い部屋だった。広さは僕の部屋と同じぐらいだ。何も無い。真ん中の医療用カプセルのようなもの以外は。

 その中を、見なければいけない気がした。床に散らかったコードを引きずりながらそばに歩く。そしてガラスを覗いた。


 そこにいたのは、眠っているあいつ、つまりトキちゃんだった。


 そういうことですか。道理で会わないわけだよ。

 今度は悲しくはない。今度はここにいる。いつか起きるだろうし、起きなくても僕が起こしてやる。

「さっき話した日から寝てる。死んじゃいねぇが起きる気配はねぇ。精神を何かが縛っているらしい。そしてお前にも同じことが起こっている。記憶喪失はそのせいだ」

 同じことか……その日異常があったのは僕だから原因は僕が何かされたと考えるのが自然かな。なぜあいつが連動してるのか分からないけど。

 それ以前に僕が魂に干渉されてて、なにも感じてないってのがおかしい。

「そうか。どうにかなるのか?」

 聞くことでもないと思うんだけど。まあ、とりあえず。

「無理そうだ、お前でもな。で、お前はどうする」

 ですよねぇ。

「あいつが目覚めるまでは、僕はもう一度あいつの夢をめざす。まあ、戦おうと思うってこと」

 そして、あれを見つけて消してやる。

「じゃ、お前を戦場に出す。ただ、半年後だ。それまでに強くなれよ」

「もちろん」


 その日から僕に強くなる意味が生まれた。あいつのために……自分のために強くなる。


「壁はそこにある」

 サイスさんの詠唱によって、結界が次々に発生する。僕は今発生した結界を的にして、壊していくという訓練をしている。一つ、二つと結界を叩き壊していく。

 そして今使っているのは杭剣、剣の刃を杭に取り替えたようなもので太さは僕の腕より少し太いくらいだ。それは、当然切れない、先が尖っているため刺突に使うことはできるが、基本的な用途は打撃。そしてこの杭剣にはギミックが一つある。その名も……アンカーパイルバンカー……命名僕。

 先端を魔法で加速させながら射出する。先端は貫通せずに弾かれる。ワイヤーを巻き戻し回収する。

 こんな風に、威力は低め。ついで程度のギミックだ。初見殺しはできるけどね。

 武器について考えながらやっているともう終わっていた。ぬわああん疲れたもおおんって感じなので床に倒れる。

「上出来だ。これなら戦場でもある程度活躍できるだろう。半年でよくここまでできるようになった。だが、慢心はいけない。もっと強くなれるはずだ」

 近くに来たサイスさんはしゃがみ、僕の顔を見ながらそう言った。

「はい。これからも頑張りますよ。サイスさんだって越えるかもしれません」

 言い終えると同時に上半身を起こそうとする。だが起き上がることはできない。

 僕の額を人指し指で押さえ、サイスさんは笑っている。

「越えてみろ、それはそれで嬉しいことだ。今やってみるか?」

 ようやく放してくれた。僕は立って、ローブの埃を払う。付いてないけど、なんとなくね。

「遠慮します。僕がここに帰ってきた時やりましょうよ」

「ああ、楽しみにしておく」

 僕の誘いに嬉しそうに答えてくれた。でも勝てるかなぁ、まあ、あれを殺すんだからサイスさんも超えなきゃね。

「じゃあ、僕はもう帰りますよ」

「よく寝ておけ、それと明日渡すものがあるから、私が来るまで少し待っていてくれ」

 渡すものか、なんだろ? まあ、お楽しみにってことだな。

「分かりました。今日までありがとうございました」

「どういたしまして、だな」

 一礼してから僕は出ていく。さあ、部屋に戻って、夕食食べて、寝るか。


「本当に僕に勝てると思ってる?」

 ノイズがかかった声で、黒い影が話しかけてくる。

 またこの夢か。思い道理にいかない明晰夢はもういいです。

「ああ、殺してやるよ」

 口から出た声にはノイズがかかっていた。俯いて体を見ると、黒い影になっている。

「無理だよ。僕が本物だから」

 僕の声が聞こえた。顔を上げると僕がいる。

「明日会ったら殺してやる」

 僕の夢の中なのだとは分かっている。けどやっぱりむかついたので言ってやった。


 目が覚める。いつものような二度寝の誘惑はない。

 顔を洗う。そして、時間を確認する。

「六時か……」

 予定より三〇分早く起きてしまったみたいだ。冷蔵庫を開けてラップをかけてある味噌汁、雑穀米、焼いた鮭、卵焼き、ほうれん草のおひたしを取り出す。毎回味噌汁を冷蔵庫に転移させるのはどうなのと思うけど、それがサイスさんクオリティ。

 全部が温まるまでの間に、いつものパンを食べておく。これ見られたらまたなんか言われそうだけど。

 僕の食生活がこうなったのは、五ヶ月前くらいに起こった事が原因だ。

 その日僕はチョコカレーを食べていた。そしてきな粉と砂糖を入れようとした時、サイスさんが部屋に入ってきた。

 驚いた僕は少し入れすぎてしまったのだ。

 それを見てサイスさんが言ったことは「君の食事は体に悪そうだ」

 次の日から、冷蔵庫に食事が勝手に入っているという奇妙な現象が起こり始めたのであった。

 さて、温め終わったし、食べますか。

「いただきます」


「ごちそうさまでした」

 食べ終わった僕は支度をしてケテルの部屋に向かった。

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