第三勢力
押さえつけられている。僕の魂は油断したら潰れる。
「案外耐えるねぇ」
「話しかけないでくれるかな」
同調を封じられている。技の始動を封じられては、何もできない。まずはこの状況を打破するとこからだけど、どうすればいいのか。
このまま待てばビウンかハッセンが助けてくれるかもしれない。けど、誰かに頼ってるようじゃいけない。
この状況前にあった? エリアのときか? あの時は違うな、今みたいに強めだったはず。そのときはどうしたっけ?
「僕達会ったことある?」
「話しかけるなって言ったのは誰だっけ」
答えないってことか。それにしても、思い出せない。あっ……思い出した。
あの時か。策なんて無かったんだ、それしか知らなかったから。
「やっぱり本気じゃ無かった」
「ごめんね」
「俺もだけどね」
魂は拘束を破り、自由となる。あいつの魂を感じ、同調させる。あいつの魂に僕の魂を浸透させる。しかし、あいつも簡単には侵入を許さない。
「残念だけど、俺は帰るよ。変な奴も来たしね」
「おい、逃げるのか!」
あいつは僕から離れ、転移する。それより変な奴って?
「えー黒の神々、僕は、そうだな……無だ。もう存在しない、無だ。そして三つ目の勢力として無の勢力がここに生まれたことを知ってほしい」
この声!? やっぱり! でもそんなはずは……
空中から降り立った者は無と名乗った。僕の声で。顔や肌はすべて布で覆い隠されている。だが、すぐに気づいた。声でじゃない。あれから感じる雰囲気でだ。今感じているのは、僕の最初の感覚、恐怖だ。僕が消えるという恐怖だ。
ハッセンが僕を抱えビウンのもとへ連れていく。どうにか腕から抜けようと抵抗するが、ハッセンは動じない。
「待ってくれ! あれは殺らなきゃ……僕が!」
「ダメ、危険」
なんでこんなときだけ喋るんだよ。僕がやるっていったらやるんだよ。邪魔しないでくれよ。それとも僕を殺したいのかよ。
「撤退だ、少年」
ビウンは僕を諌めるように言い、今にも転移しようとしている。
うるさい……邪魔しないでよ。転移したら、殺せない。
「僕はここに置いていっていい! あれはこの世界にいちゃいけないんだ!」
イメージするんだ、最高火力、あれを消せるだけの攻撃を。
僕の言うことを無視して、ビウンは転移を発動する。
「あ…………あぁぁぁぅ……うぅあぁぁ! お前らさ、何てことしてくれてんだよ。僕が消えたら、どうしてくれんだよ!」
ビウンとハッセンに言いたいことをぶつける。だが、二人は何も言わず僕を見ている。ビウンは呆れ果てたように冷たい視線を向けている。ハッセンは僕の主張が気にくわないのか、こちらを睨み付けている。
不満があるのは、僕だっての。
ハッセンがこっちに歩いて来て、僕の目の前で止まった。
そして、僕を殴った。僕は後ろに吹き飛ぶ。
「痛いんだよ! なんだ? 僕はもう敵ってか? フッ、そうだったよ、お前も世界の一部だったね。僕の存在を否定するこの世界の!」
ハッセンはまた近づいてくる。
「なんだよ、今度こそ殺そ…………」
頭が痛い。胸が痛い。何かに締め付けてるような気がした。視界が歪み、耳鳴りがする。痛みが無くなると、手足の先から感覚が無くなっていく。何も感じられなくなっていく。僕の脳は現実を拒んでいる。
そして、僕の感覚は全て断たれた。
六時半のアラームが耳に響く。今日の予定は……無いだと!? あ、でもケテルからお呼び出しされてる。食べたり、いろいろし終わったら行くか。
ケテルの部屋の前に到着する。扉は少し重い気がした。
「よぉ、元気かぁ?」
「訓練のせいなのか、少し疲れてるくらいかな」
そう言うと、ケテルの雰囲気が変わった。なんか不味いこと言ったかな?
「お前には一か月、きっとそれ以上休んでもらう。魔法や剣も中途半端なとこで中断になるかもしれねぇけど、ビウンとハッセンが忙しくなっちまってなぁ」
「分かった。そういえば、昨日でちょうど一か月だったよね」
「いや、昨日はお前がここに来てから四五日目だった」
あれ、そんな長かったっけ。半月も間違えてたのか。時間の感覚には自信があったのにな。もしかして、三日に一日ずっと寝てるとか……さすがにそれはないだろうな。
「ケテル、トキちゃんってどうしてるの?」
ここに来て、怒られた時以来見てない。どこかにいるのは確かなのだが。というか、ここでは怒られてしかいないような気がする。会ったら謝らなきゃな。思ったけど、怒る時ヤバイけど、後で謝るとわりと気にしてない感じなんだよな。あれってなんなんだろ?
「トキはトキでお前みたいに戦い方を覚えてる」
「へぇ、そりゃ次会った時が楽しみだね」
「他に気になる事が無けりゃ帰って好きなことしてていいぞ」
特に何もないかな。
「じゃあね」
「おう」
部屋帰ったら何するか、ゲームしようかな。でも、自主練もしなきゃか、二人が帰ってきた時、腕が落ちたとか言われたらいやだからな。魔法はともかく、剣の方はもっとひどくなったって言われるな。でも僕の部屋でやるのは嫌だな。
「ごめん、一つ聞くよ。自主練したいんだけど、空き部屋ってある?」
ケテルは棚から地図を取り出した。そして、一つの部屋を指差す。
「ここがお前の部屋で、両脇の部屋は空いてるから自由に使え」
片方は広めで片方は僕の部屋と同じくらいのサイズだ。広い方は自主練に使おう、もう片方は今は使わないかな。まあ、後でなんかに使えるかもしれないけど。
「ありがとう、使わせてもらうよ」
お礼を言って、僕はケテルの部屋から出ていく。
今日は一人だけど頑張るか。