3・生け贄
3・生け贄
一瞬言葉の意味が分からずライは動きを止めた。 ザァ…っと全ての思考を持ち去るように風が流れる 。
カサカサと葉が揺れる音で我を取り戻すとノエルと視線を合わせる。
「何故、君のような小さな子が生け贄に?」
「あたしの村に、疫病が流行りだして…」
「嗚呼、なんて浅ましい大人たちだ」
「父と母は既に他界していて…だから、あたしが選ばれたの…」
ライの手は自然とノエルの頭に向かって伸ばされていた。こんな小さな体で頑張って生きている少女が可哀想で堪らなかった。一瞬ビクリと肩を揺らして目を瞬かせてから撫でられていると気付くとノエルは表情を和らげた。
「貴方は、不思議な人ね」
「え?」
クスクスと愉快そうに微笑む。それにつられながら笑顔を浮かべるもライはノエルの言葉の意図が分からずに首を傾げた。それを見ながら一層笑みを深める。
「あたしの周りの大人たちは醜い人達ばかりだったから」
「そんなに不思議か?」
「とても不思議で穏やかな人」
「……初めて言われたな」
ポツリと呟かれた言葉。その瞳は何処か闇深く何も映さない暗闇のようにも伺えた。その瞳に気付いてノエルは顔を覗き込む。覗き込まれると一度体勢を仰け反らせ顔を離して驚いた顔をする。先程まで翳っていた瞳に光を宿して目を丸くさせる様子にノエルは満足そうな表情を浮かべた。
そして、月明かりに不気味な笑みを貼り付けて問い掛ける。
「何故、魔女を探すの?」
サァー…っと風がノエルの声を運ぶように流れた。