2・魔女
2・魔女
どこかビクビクとしている幼い少女。目の前には、あろうことか成人にも満たない少女が立っていた。
青年はハッとして息を呑む。少女の動向を見逃さないようにその碧色の瞳を鈍く輝かせる。
その視線に気付くと俯きながら小さく、蚊の鳴くようなか細い声でごめんなさいと謝る。その謝罪の言葉を聞けば眉間に皺を寄せる顔をほんの少しだけ和らげた。
「君は…?」
幼い少女はその問いかけに肩を跳ねらせた。どうやら人を恐れているようにもみうけられた。
青年は軽く手招きをしてから自分が飲もうとしていたミルク
を焚き火の上に乗せた鍋に入れてホットミルクを作り出す。その甘い匂いに少女はどこか安堵するような表情で近寄ってくる。
「オレの名前はライ。ライ・クロスウェイ。君の名前は?」
「あたしは…ノエル」
「とても可愛らしい名前だ」
もうこの世には居ない妹と少女を重ね見てしまう自分に苦笑いしつつホットミルクをカップに移す。妹と少女は随分年齢は違うが、どうにも重ねてしまうのはおどおどとした雰囲気が似ているからなのかも知れない。
「火の近くで温まりながらこれをお飲み」
青年_ライは優しい声音でそう告げてカップを差し出す。その差し出されたカップをゆっくりとした手つきで受け取る少女_ノエル。
ふーふーと息を吹き掛けて熱く湯気のたつミルクを少しずつ飲み下す。その動作を優しい眼差しで見つめる。
「そ、んなに…見られたら、飲みづらい…です」
頬を微かに赤らませカップの中を覗きながら呟く。その声にクスリと小さく笑んで軽くごめんと返すと背凭れにしている幹に背を預けて伸びをする。その様子をキョトンとした表情で見つめるノエル。
「君は何故、人も立ち寄らないこんな森の中に居たんだ?」
「あ…」
先程からずっと気になっていた質問を投げ掛ける。優しい声音の中に疑いも感じられるその声に、ノエルは言葉を詰まらせる。詰まらせたノエルに軽く手を左右に振ってゆっくりで良いと促した。
カップを両手で持って冷える手を温める。いくら日中が照り付ける陽射しで暑いとは言え、野宿の…しかも森の中と言えば寒い。それでなくても、ノエルの服装はあまりに寒そうに見えた。麻地の白いワンピース1枚なのだから。夜闇に溶けてしまいそうな漆黒の黒髪と色素の薄い灰色瞳。それに似つかわしい白いワンピース。なんとも不釣り合いな組み合わせだ。
「あたし…魔女の生け贄にされたんです…」