1・ライ
力を求めた青年と生け贄にされた少女。
貴方の目には二人はどう映るのでしょう。
ちょっとした夢物語にお付き合い下さい。
プロローグ
決して出会う事の無かった二人
惹かれ合うように…
強く強く、心が求め合う
物語の歯車は狂いだすー…
あの森には人喰い魔女のがいるよ
でも、その魔女の血肉を食べると
絶対的な力が手に入るんだって
そう街で囁かれたウワサ
オレはその力を欲して森へと足を踏み入れた。
1・ライ
「あっつ…」
額からこめかみを伝って流れ落ちてくる汗を手の甲で拭う。健康的な小麦色の肌に金糸の髪はよく映えた。碧色に光るその瞳の奥には、何か翳りさえ感じる暗い輝きが伺える。
「何処だよ…」
周りを見渡せば同じような風景。何処を見ても木、樹、草!森なのだから当たり前かも知れないが、動物の気配さえ感じない。
青年が物心ついた昔からこの森には人喰い魔女がいると噂されていた。その噂が本当なのか嘘なのか、証明した者はいない。森へと侵入する者を魔女が喰らっているのだから、噂の真相は解き明かされないままであった。
腰にぶら下げた水筒を持ち上げて一口飲み込む。煌々と照り付ける陽射しを思えばゴクゴクと喉を潤したい所だが、いつ魔女を見付けられるか分からない為に飲み干すことは出来ない。
「はぁ」
水を飲んでから深い溜め息をつく。
自分がしている行動は馬鹿げている。自分でもそれは分かっていた。それでも、魔女に会わなければいけないのだ。
年々横暴になっていく領主を止めるため。そして、街の人々を守るため。
妹を守れなかった悔しさが青年を突き動かしていた。
亡き妹への罪滅ぼしなのかも知れない。単なるエゴなのかも知れない。それでも、25年間こんにちまで生きてこられたのは街の人々のお陰なのだ。その街の人々を守りたい。その気持ちに偽りは無かった。
「正午過ぎか…」
もう一度空を仰ぎ見る。
樹木の葉で見えにくくは有るが、先程まで自分の真上にあった太陽が傾き始めていた。
辺りが暗くなる前に今日の寝床になりそうな場所を探す。暗くなってからでは夜目が利かずに動けなくなるからだ。
狩りなどもしていた為に野宿には慣れている。いくら動物の気配を感じないと言っても、夜になれば餌を狙った野犬や狼にやられてしまうかも知れない。それを思うと焚き火をして光を出さなければいけない。
肩に掛けている鞄から刃渡りの大きなナイフを取り出す。程よい太さの枝を見付けてナイフを振りかざしてその枝を切り落としていく。
それを何度か繰り返し、一晩夜を明かすだけの量を確保すると辺りは夕陽に染まり始めていた。
「そろそろ火を起こさないとまずいか」
辺りを見回して死角の少ない場所を探す。死角が多ければ敵に見付かりにくいが、逆を返せば自分からも敵を視認しづらくなる。
その場所で一際大きな樹木の幹を背凭れにして腰を掛け火を起こす。火種がチリチリと出始めて、枝にその火種をつけると焚き火の完成だ。
ふぅと一息つくと、草むらがガサッと動いたのを感じてバッと顔をそちらに向ける。
息を殺しその草むらを睨み付ける。すると小さな人影が写った気がした。