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7. 弱かった

 自分の方へ迷いなく向ってきているのを見て、すぐに構えた。

 その種族が乗っている、四足の獣は今まで見た事の無い獣だった。

 見た目からして草食獣だろう。角は無く、体は大きい。顔は他の草食獣に比べて長い。走って来ているが、今まで見て来た獣の中でも一番速く、力強い。

 生物が、何かを自分の方へ向けて構えていた。

 警戒を高める。あんな鋭い刃を持っている位だ。何があろうとおかしくない。

 生物の後ろにある手が動いたと同時に、ぱん、と音がして、刃持ちが刃を振るよりもとても速く、長い物が飛んできた。咄嗟に剛腕で顔を守り、そこに刺さった。

 骨までは到達しなかったが、少し深い。

 久々に感じる強い痛みだった。引き抜きながら、どうやってこんな細い物を飛ばしているのか気になった。投げても全く飛ばなそうだった。

 力を入れると簡単に曲がった。投げ捨てて、一定の距離を保ちつつまた構えている生物に対して防御の姿勢を取った。

 深く刺さるが、この剛腕で受け止められるなら別に大した事は無い。それに、後ろの手が動くと同時にこの細い物が飛んで来るのならば、躱す事も出来そうだと思った。

 暗くなり始めている今でも、森の中より断然視界は明るかった。

 二本目が飛んできた。躱す事も考えたが、やはり剛腕で受け止める事にした。

 剛腕以外のどこかに刺さってしまったら、自分の奥深くまで傷つけられてしまう恐れの方が強かった。絶対に躱せるとまで自分を信じる事は出来ない。

 胴体を狙われたそれを受け止め、次が飛んで来る前に辺りを見回した。

 近寄って来る様子は無さそうだった。距離を詰めようともきっと逃げられるだろう。石があれば、投げよう。無かったら、どうしようか。

 木や、岩等の障害物のある場所にまで逃げるという選択肢も浮かんだが、逃げたくはなかった。

 石は咄嗟に見つからず、生物は三本目を飛ばす準備を終えた。

 走って追いつけそうな距離ではない。瞬発力も自分にはそこまで無い。三本目も腕に刺さった。流石に痛みに少し、顔が歪んだ。

 堪えるだけなのも、性に合わなかった。背中にある入れ物に飛ばして来る細い物が入っている事は分かっていたが、後どれだけあるのかは分かってもいない。大した傷でなくとも、かなりの本数を耐えなければいけないとなるなら別問題だった。

 自分を隠せるだけの大きさの岩や大木が視界の隅にある。ただ、石はどれだけ探しても近くには無い。

 参った。

 逃げる訳じゃない。自分に有利な方へ動くだけだ。そう言い訳して、岩に身を隠そうとした時、生物にも動きがあった。

 細い物を飛ばしていた得物を収めている。

 三度も的確に防がれて傷も殆ど無くては、通じないと思われたのかもしれない。痛みこそあれど、数が来なければ大した事のない傷だった。

 乗っている草食獣に指示を出したのか、ゆっくりと自分へと近付き始め、生物が刃を取り出した。

 刃持ちが使っているのとは形は違ったが、あの刃も自分の剛腕を切り裂けるのだろう。

 草食獣が加速し始めた。

 突っ込まれるだけでも、流石に痛そうだ。体の力を抜いた。

 受け止めるのではなく、躱す為にはその必要があった。

 どどっ、どどっ、と足音を派手に響かせながら近付いて来る。距離はあっと言う間に縮まった。

 拳だけに力を込める。真正面ではなく、少しずれた位置に向ってきていた。

 自分の脇を通りながら、刃で自分を切りつけるつもりだろうか。なら、草食獣を相手にしておこう。

 躱さない事にした。やはり、受け止める事にした。

 脇を通ろうとする寸前、獣は草食獣の前に動いた。そして、急に止まる事も出来ないその草食獣の鼻面を殴りつけた。

 手ごたえ有りだ。

 そのまま草食獣の体が自分の身にぶつかる。走っている勢いの前足をもう片方の腕で受け止めたが、結構響くものだった。足も少し後ろに滑った。

 受け止めると、泡を吹いて草食獣は倒れた。生物も道連れにして。

 この草食獣は、今まで見た草食獣の中では、大きく重く、強さもあったが、草食獣である事に変わりは無かった。

 大きく、どす、と音を立てて地面に崩れ、生物が悲鳴を上げた。片足が草食獣の胴に押し潰されているのが見えた。

 引っ張ろうとも抜けないらしく、情けなく自分に何か言っていた。

 またそれを見て、生物全般が恐ろしく思えていた自分さえも情けなくなった。知らなかったとは言え、この種族の普通はこんなものなのだろうか。

 刃持ちなら、倒れる瞬間にでも、この気絶している草食獣から逃れて反撃して来た。

 他の獣と協力しても、この種族の平均は刃持ちより遥かに低いのかもしれない。

 それは当然か、と今更思いながら、生物に近付いた。

 こんな華奢な体をしている生物全てが自分より強かったら、自分の肉体は何の意味も無いじゃないか。

 生物が自分に言っている事の意味は分からなかったが、何か懇願しているようだとは思えた。

 色んな物を使って来るから警戒がかなり必要なのは変わりないだろうけれど。

 止めを刺して、黙らせた。

 次いでに草食獣も殺しておきながら、刃持ちに勝った時もこうして殺せるだろうかと思った。いや、殺すのだろうか。

 けれども、疑問は放る事にした。生物も、この草食獣もどちらもまだ食った事の無い種だった。食うのが楽しみだった。

 空を眺めると、星が出始めていた。戦いはつまらなかったが、全く木々に邪魔されない視界で見る星は、何か新鮮だった。


 目を覚ます。死肉を突いている音がしている方を見ると、森の中でも見た事が偶にある大きな鳥が数匹居た。

 起きると、すぐに空へ飛び去って行き、曇り空なのに気付いた。

 雨が降るな。それも、強く。

 空はとても黒く、今は夜が更ける頃なのか、もう太陽が出ている頃なのかも分からなかった。遠くから、ごろごろ、と雷の音が聞こえた。手に握っていた、死んだ生物が細い物を飛ばしていた物をもう数回びんびんと弾いてからそれを置き、肉を食った。

 生物の肉は、他の獣の肉の味と大して変わらなかった。

 他の獣と全く違う生き方をしているだろうに。そう思うと、何だかつまらなかった。

 ただ、草食獣の肉の味は中々のものだった。

 塩が欲しいと昨晩、殺した生物の荷物を漁った程だった。

 塩は無かったが、乾いた肉が見つかった。思い出すと涎が出た。

 しょっぱかった。けれど、乾いた肉なのに何故かとんでもなく美味しかった。他にも色々あったが、食べ物と思えるのはそれと、乾いた果物、後、刃持ちが偶にくれた、カリカリしたものや果物でもなく肉でも無い何かだった。

 それら全て、美味しかった。結局の所、一番感動したのはそれらだった。

 ぽつ、ぽつ、と雨が降り始めている。

 この種に感化されているな、と心底思いつつも、腹を膨らませておく事にした。

 雨の中、濡れた肉を食うよりは、今の内にさっさと食った方が良かった。

 さらさらと雨が降り始める。満足行くまで食い、獣は立ち上がった。

 細い物を飛ばしていた物を拾おうと思ったが、止めた。弾くのが楽しかったけれど、持って行く物でも無かった。

 また、同じ方向へと、歩き始める。

 少しして振り返ると、既にまた鳥や更に他の獣まで集まって、死肉を漁り始めていた。

 雨は強くなり始めていた。木に当たらず、直接自分の身に降りかかる雨を浴び続けるのも、初めての事だった。

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