18. 訪れた
刃持ちの種族は、少なくとも二種類は居る。
刃持ちの顔の外見は、白っぽい肌の色と、丸っこい耳、黒い目、白い髪の毛だった。
髪の毛の色は確実に違ったが、白青混じりと殺した種や、同じく殺した、自分が森の中から出て初めて会った、刃持ちでない種と同じだと思う。
白青混じりの所で暮らしていた種は、肌の色は土の色に近かったし、耳は少し尖っていた。
そして、その二種類は、縄張り争いでもしているのか相容れない。仲もとても悪い。多分。
そうでなかったら白青混じりは問答無用で、敵意剥き出しで殺しに行ってない。
多分、目の前の集落に居る種は、刃持ちと相容れない種なのだろう。
このまま行ったらどうなるか? 悪い事になるのは分かり切った事だった。
もし、白青混じりや自分と同じような獣が居たら、更に悪い。
退屈は嫌な程しているが、別に無意味に暴れたい訳でもない。
避けて通るべきだった。
歩く方向を変えると、刃持ちがほっとしたように付いて来た。そもそも、自分だけだったとしても、避けていただろうし。
とは言え、川から離れて数日、いや、一日もこの暑さの中、水を飲まずに歩けるだろうか。
ちょっとそれは怖かった。今までこんな場所で生きた事も無いのに、危険を冒す。怖い事なのは確かだった。
けれど、このまま突っ切るよりはかなりましだ。渇きは怖いが、死ぬ事は無いだろう。川から近い場所では、草が完全に失せている事も無いし、水を蓄えているトゲトゲな植物もちらほらと生えている事だし。
のんびりと歩いていると、どどっ、どどっ、とかなり前に聞いた音が聞こえて来た。
長顔の草食獣の足音だ。刃持ちが身構えた。自分も少し身構えた。
少しして砂煙と共に見えて来た、草食獣の上に乗っていた種は、刃持ちと同じだった種だった。
刃持ちは構えを解いて、大声で何かを伝えていた。
草食獣に乗っている方は、自分に警戒してか余り近寄っては来ない。石があればここからでも殺せるが、とは思う。大声で刃持ちと会話し始めて、暫くすると元来た方向へ去って行った。
それから刃持ちが嬉しそうに自分に話し掛けて来たけれど、やっぱり分からない。その内分かるようになるだろうか。
刃持ちはどうやら、自分も連れてその集落の方へ行きたがっているようだった。
大丈夫だろうか。分からない。
刃持ち以外信頼出来る気にはならない。子供が自分を見れば逃げもせずに泣きわめくだろうし、子供じゃなくとも自分が走っただけで腰を抜かすようなのも沢山居るだろう。
それに、やはり、自分は刃持ちの種族とは圧倒的な隔たりがある。殺そうと思えば指一本で殺せる力を持っている。
警戒されるのは当たり前だし、そんな場所には白青混じりみたいな、同じ自分側の獣の仲介が無ければ行きたくはない。そっち側に属している刃持ちの仲介じゃ、行きたくない。
まあ、ここで別々になったとしても別れる訳じゃないだろう。
それに、露骨に遠回りして避ける必要も無くなったのは確かだ。
川の方に戻る事にした。刃持ちも、付いてきた。
川沿いに歩いて集落が見えてきた。白青混じりが居た所の住処とはまた違う見た目の住処がちょこちょことあった。あそこより数としてはかなり少ない。
幸い、川の片方にしかその住処は無かったので、対岸に泳いで移動する事にした。幅はそこそこあるが、深さは大した事はない。大顎の肉食獣も居ない。楽に渡れる。
刃持ちは一緒には渡っては来なかった。暫くして、遠くから声が掛かると刃持ちは自分に背を向けて返事をしてそっちへ歩いていった。
今日は、これ以上は歩かなそうだな、と思った。
そして、自分だけで退屈をどう紛らわそうか、水に足を付けて悩んだ。
対岸から自分を見てくる住民達に対しては特に何もする事も無かった。この距離なら警戒をしなくても良いか、と一度は思ったものの、石を投げるより遠くに届けられる飛び道具を持っている事を思い出した。
完全に解く事は出来ないか。
退屈よりはましか。そうも思うが、どちらにせよ、つまらなかった。
日が暮れてきた。空腹を僅かながら感じたが、余り癒す事は出来なさそうだった。集落が近くにあるからか、獣は大して居ない。集落で飼われている草食獣を襲えば悪い事になるのは確かだ。
幸い、川に魚が居るから、それを取れれば良い。それでも大して腹は膨れなそうだが、それで今は十分だ。
火の明かりが対岸で見える。遠くから見る火は、空を煙と共に明るくしていた。星の存在が薄れていた。
体が冷える。昼の暑さが増すに連れて、夜の寒さも増していた。
自分だけで過ごすのは久しいようで、久しくないような気もした。
寂しさは、あった。確かに。火を見る事に慣れた。そして、誰かと共に過ごす夜に慣れてしまっていた。
手に握りしめた、昼の暑さを微塵も残していない砂はさらさらと零れていった。
水の音で目が覚めた。
ばしゃばしゃと、刃持ちが寒そうにしながらこちらに渡ってきていた。
両手には刃を持っている。身につけている布は、いつものとは違った。
渡り終えて、布の水を絞ってから近くに投げ捨てた。
上半身裸になり、下半身も大して身につけている布は無い。背伸びをして、こき、こき、と体の音を鳴らした。足をぶらぶらとさせて、体の調子を確かめるように軽く跳躍した。
やる気か。
まあ、良いだろう。
立ち上がって、自分も拳を何度か握り締めた。多分、ただ歩いていた時も刃持ちから誘われればやっていた。
結局、これまで戦わなかった理由は、どちらにも都合の良い機会が訪れなかっただけだった。
頭の中がクリアになっていく。戦うのはいつ振りだろうか。最後に戦ってから、季節は一巡しただろうか。
殺すかもしれない、殺されるかもしれない、という恐怖は無かった。
自分が力を出せば刃持ちも応えるだろうし、刃持ちが力を出せば、自分も応えられるだろうという、妙な確信があった。長い時間、戦っていなかったにも拘わらず。
刃持ちが身構えた。
自分も息を整えて身構えた。
胸の奥から込み上げてくるそれを、咆哮として吐き出した。
刃持ちが走って来た。




