英雄となった青年
右手に掲げた宝剣を縦に一閃。
一振りで山を真っ二つにすると謳われるその剣筋が、魔王を捉えた。
「ぐ……おぉぉぉ……」
漆黒の鎧に包まれた巨躯を震わせながら、膝から崩れ落ちる。
「我を討ったとしても、魔の物が潰えることはない……。いずれ、我の道を継ぐ者が……」
「ごちゃごちゃうるせい」
再び一閃。今度は真横に宝剣を振るう。
「ぐ……あぁぁぁ……」
完全に命を絶った魔王は、炎に包まれ跡形もなく消えてゆく。
「いいか? 魔王なら魔王らしく潔くなあ……って、もういねえか」
剥き出しの刃を鞘に納めた青年――アレクは短く息を吐く。
「あぁ……疲れた」
長い、長い闘いであった。
幼少の頃、魔王の手によって殺された両親の仇から始まった。それがいつしか、国の命運に関わるものになっていたのだ。
棒切れで雑魚を狩ったり、宝箱を漁ったり、四天王なんかも倒してきた。
アレクはゴロツキ、見習い勇者と経て、たった今英雄となったのだ。
END
『新しく物語を始めますか?』
はい
いいえ
突如、アレクの眼前に現れた文字。
「っな!?」
神速と呼ばれる反応速度により、文字の発現からコンマ一秒を待たずに抜刀する。
そして無意識に、ただ斬りやすい位置にあった『はい』の文字を、アレクは選んでしまった。