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Answer16・もう一度

 花嵐恋からんこえ学園の球技大会当日。ちえりの参加するバスケットボールが執り行われている会場は大勢の生徒で盛り上がっていた。

 今日から三日間はバスケットボール、バレー、サッカーの順で球技大会が行われる予定になっていて、試合は各学年、各クラスの総当り戦で、最終的に勝利数と得点差で勝敗を決める事になっている。


「よしっ!」

「ナイッシュー! ちえりー!」


 ちえりが所属する一年F組の第二回戦。立ち上がりはとても順調で、スムーズに得点を稼いでいる。

 私が見たところ、今の対戦相手にはバスケット経験者は二人しか居ないと思う。ちょっと可愛そうな気はするけど、勝負である以上は仕方がない。


「交代です!」


 後半戦開始から5分が経過した頃、審判がピーッと笛を鳴らして選手の交代が告げられる。

 交代を告げられたのはちえり。ちえりはスッと右手を上げると、交替の選手と手の平をパチンと合わせてからベンチへと座り、クラスメイトから差し出されたタオルと飲み物を受け取った。


「お疲れ様、ちえり」

「うん。本当は最後まで大丈夫なんだけどね」


 私がベンチの後ろから話しかけると、ちえりは周りの人達に聞こえないくらいの声でそう言った。


「気持ちは分かるけど、まだ先は長いんだから体力は温存しておかないと。選手は休める時に休むのも必要なんだからね?」

「あははっ、お姉ちゃんはよくそう言ってたよね」


 ちえりはそう言いながらくすっとにこやかに微笑んだ。こうしていると、昔一緒にバスケの試合をしていた事を思い出す。

 沢山の色々な試合があった。いっぱい勝っていっぱい負けた。悔しくて泣いた時もあった。嬉しくて泣いた時もあった。本当に懐かしい思い出が沢山ある。


「選手にとって体調管理は基本よ。それにちえりはあまり無理ができない身体なんだから」

「大丈夫だよ。だって私の中にはお姉ちゃんの心臓があるんだから」


 ちえりはそう言いながら左手を心臓の位置へ持って来ると、更に表情を綻ばせながら愛おしそうに撫で始める。

 それを見た私はとても嬉しかった。私から受け継がれた心臓は今もちえりの中で息づき、こうしてちえりに笑顔をもたらしているんだから。

 私自身が死んでしまった事は無念で悔しい事だけど、こんなちえりの様子を見れただけでも良かったと思う。それだけは救いだったと思える。


「――やった! 二回戦目も勝った!」


 しばらくして試合終了の笛が鳴ると、ちえりはベンチから立ち上がって大いに喜んだ。

 そして続く三回戦目の試合も順調に流れを掴んでいったF組は、最終的に三十点差をつけて三回戦を突破し、その後も順当に勝利を収めて行った――。




「パス回していこう!」


 順当に勝ち進んだ後の最終戦。ちえり達F組は優勝をかけて三年生と対戦をしていた。

 これまで順当に勝ちを収めてきたF組だったけど、ここに来て大いに苦戦を強いられていた。なぜなら今対戦している三年生は、全員が少し前までバスケ部だった人達だから。


「あっ!?」


 後半戦開始から十分。PGポイントガードのちえりが相手のディフェンスに阻まれて派手に転んだ。その瞬間にピーッと笛が鳴り、審判をやっている先生がレフェリータイムを取る。

 それを見た私は急いでちえりのもとへと駆け寄った。


「ちえり大丈夫!?」

「うん……」


 ちえりは審判の先生の言葉に答えながら、私の言葉にも小さく答えた。


「……お姉ちゃん、私と一緒に戦って」

「えっ?」


 ちえりは片膝を着きながら息を整えるようにして両肩を大きく上下させ、突然そんな事を言ってきた。


「私のPGの技術じゃこの試合に負けちゃう。だからお姉ちゃん、一緒に戦って」

「気持ちは分かるけど、どうやって?」

「お姉ちゃん、私に憑依して。そしたら一緒に戦えるから」

「で、でもそんな事したら……」

「お願いお姉ちゃん。一緒に戦って」

「…………分かったよ」


 真剣な表情でそう頼むちえりを見て、私はそう答えるしかなかった。

 学園イベントの球技大会とは言え、ちえりにとってはきっと大事な真剣勝負。昔から負けず嫌いのちえりらしいと思う。

 だからこそ、ちえり達に勝利を掴み取らせてあげたいと思った。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 ちえりはにこっと微笑むと、私の胸に向けて右手を伸ばした。

 私はちえりの伸ばして来た手を両手で優しく握るように包み込み、ちえりの中へと意識を移す。


『ちえり、大丈夫?』

『うん。平気だよ、お姉ちゃん』

『OK。それじゃあ行こう!』

『うん!』


 私はちえりと意識を共にしながら、ラスト十分の試合へと挑んだ。


× × × ×


「ちえり、体調はどう? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。むしろいつもより調子がいい感じ」


 にこやかにそんな事を言うちえりの表情を見ると、どうやら無理をしているようには見えない。


「でも残念だったなあ。せっかく同点まで追い込んだのに」

「仕方ないわよ。相手も相当に強かったから」


 球技大会の最終戦。私がちえりに憑依するまでは二十点差があったけど、最終的に怒涛どとうの追い上げを見せたF組は相手を後一歩で打ち負かせるところまで追い詰めた。

 そして最後に私が放った三ポイントシュートが見事に決まり、一点差で私達が優勝をした――はずだったんだけど、審判から三ポイントラインを踏んでいたと言われた事により同点になり、最後はフリースローのサドンデスで負けて準優勝という結果になった。


「こんな事ならもっと練習しておくんだったなあ……」


 悔しそうに言葉を漏らすちえり。昔から負ける度にこう言っていた事を思い出す。


「まあ負ける経験は勝つ為には必要な事だよ。負ける悔しさを知ってるからこそ、みんな強くなろうとするんだから」

「それ、お姉ちゃんが昔から言ってた持論だったよね。いつも口癖みたいに言ってた」

「そうだったっけ?」

「うん」


 そう言ってくすくすと笑うちえり。そんなちえりを見た私も、思わずくすくすと微笑んでしまう。


「お姉ちゃん、今日は一緒に戦ってくれてありがとう」


 ひとしきりくすくすと笑った後、ちえりは真面目な表情でお礼を言ってきた。


「ううん、気にしないでいいのよ。私も楽しかったし」

「本当はお姉ちゃんの力を借りずに試合をひっくり返したかったけど、まだまだお姉ちゃんには敵わないって事だね。せっかくワンハンドショットの練習もしたのに」

「あっ、それなんだけど、どうしてあんなにワンハンドショットにこだわってたの?」


 私がその質問をすると、ちえりは少し照れくさそうにしながら口を開いた。


「……だってワンハンドショットはお姉ちゃんが得意にしてたシュートだったし、それを身につけたらお姉ちゃんと一緒に戦ってるような気分になれるかなと思って」


 この時、私は初めてちえりが何を思ってあんなにワンハンドシュートの練習に打ち込んでいたのかを知った。この子はこの子なりに、一緒にまたバスケットをしたいという願いを叶えようとしていたのだ。


「そっか……ありがとね、ちえり」


 私はちえりの前へと回り、その手をちえりの頭へと持って行って頭を撫でる動作をする。この手がちえりに直接触れられないのがもどかしいけど、それでもちえりは嬉しそうに顔を赤らめて笑顔を浮かべている。

 そんなちえりを見て、私は感じるはずのない温かさを身体いっぱいに感じていた。

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