表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

Answer14・次のステージへ

 ちえりの身体から出る事ができて数日後。

 花嵐恋からんこえ学園の夏休みが明けたと同時に私はいつものように学園の屋上へと来ていた。理由はもちろん、ちえりと会う為。

 本当なら直接自宅に行けばいいだけの話だけど、何となく自宅には行き辛く、こうして学園の屋上でちえりを待っていた。

 ちえりの身体から抜け出てからは一度も会ってないから、ちえりが今どうしているかは分からない。でも私が憑依していた時は身体の調子も良かったし、多分大丈夫だとは思う。ううん、大丈夫じゃないと困る。


「ちえり、早く来ないかな……」


 街を明るく照らし始めた太陽を見ながら、私は屋上の扉を開けてちえりがやって来るのを待った。


「――桜花!」


 太陽が昇り始めてからしばらくした頃、息を切らせたちえりが勢い良く屋上の扉を開けて現れた。


「ちえり、久しぶりだね」

「ハァハァ……良かった。ちゃんと居てくれた」


 ちえりは息を切らせながらも、私を見た瞬間にこっと笑顔を浮かべてこちらへ歩いて来た。


「もちろん待ってるわよ。私はちえりのお姉ちゃんだもん」

「えっ!?」


 そう口にした瞬間、ちえりは今まで見た事が無い程に驚いた表情をして一歩後ずさった。


「……思い出したの?」

「うん、全部思い出した。自分の事もちえりの事も、家族の事も。そして私が何で死んだのかも」

「ごめんなさい、お姉ちゃん……」


 記憶を取り戻した事を告げると、ちえりはすまなそうに表情を暗くして俯いてしまった。


「どうしてちえりが謝るの?」

「だって、お姉ちゃんの事を知ってたのにずっと黙ってたから……」


 申し訳なさそうにそう言いながら、ちえりは様子をうかがうようにしてチラチラと私を見てくる。

 昔からちえりは言い辛い事を隠す癖があった。そしてその隠し事がばれたりすると、いつもこうしてしょぼんとした表情で私を見ていた。そんな事すら今は懐かしく感じてしまう。


「そんな事気にしなくていいのよ」

「でも……」

「そんなこ事よりちえり、身体の調子は良いの?」

「えっ? う、うん。もう平気だよ、しっかりと身体は休めたから」

「そっか。良かった」


 それを聞いて私は安心した。何はともあれ、妹のちえりはしっかりと命を繋ぎ止めてこうして生きているんだから。

 私の中にあった心残りの一つは解消された。それと同時に自分の身体がふわりと軽くなったような感覚があった。


「ねえお姉ちゃん。記憶を取り戻したって事は、お姉ちゃんはもう消えちゃうの?」

「うーん……今すぐに消えちゃうって事は無いと思うけど、いずれはそうなるかな」

「嫌だよそんなの、ずっと一緒に居てよ……」


 私が苦笑いを浮かべてそう言うと、ちえりは今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべる。

 普段は快活な妹だけど、昔から甘えん坊さんだったもんね。こんな表情を見るのも懐かしい。


「ちえり、私はもうこの世には居ない存在なの。だから私は次のステージに行かなきゃいけない」

「次のステージって何? 天国の事?」

「それは私にも分からないけど、少なくともここは今の私が居るべき場所じゃないから」


 そう、私はもうこの世に生きている存在じゃない。事故で死んでしまった人間。この世界に留まっていてはいけない存在。


「お姉ちゃん……」

「だからねちえり、協力してほしいの」

「協力って?」

「私が次のステージに進む為の協力をしてほしいの」

「それってつまり、成仏する協力をしてって事?」

「簡単に言うとそういう事になるのかな」

「でも私は…………」


 ちえりは不服そうに表情を歪めて俯いてしまった。

 その気持ちは分からないでもない。私だってできるならちえりと一緒に居たいから。でもそれは考えてはいけない事。

 だって私とちえりはもう、住んでいる世界そのものが違うのだから。


「ちえり、私達が一緒に居られる時間はそう長くはないと思うの」

「でも未練があるからこうして幽霊になってるんでしょ? だったら未練を解消しなければ、ずっと一緒に居られるんじゃないの?」


 確かにちえりの言う事はもっともそうに聞こえるけど、全てを思い出した私はそれを真っ向から否定した。


「それは無理よ。確かに私みたいな幽霊は生前の未練があるからこうしている事は確かだけど、私は自分の生前を、未練を知った。後は私自身がその未練に対して答えを見つけて、そして納得すればそれで次のステージへ進めるはずなの」

「そんな……」


 私の話を聞いたちえりは、表情を更に暗く沈ませながら俯いた。


「だからちえり、辿り着く結果が同じなら、私はちえりに協力してもらった上で次のステージに向かいたい。でもね、これは私の我がままだから、ちえりがどうしても嫌だって言うなら無理強いはしない」

「…………分かったよ。お姉ちゃんに協力する」

「ありがとう、ちえり」

「でもその代わり一つだけ約束して」

「何?」

「黙って私の前から居なくならないって約束して」


 静かに、それでいて力強くちえりはそう言った。

 私は突然の事故で居なくなってしまった。その事がいったいどれだけちえりの心を痛めていたのかと考えると、本当に申し訳なく思ってしまう。


「うん、分かった。黙って居なくならないよ。だから安心して」

「約束だからね? さくらお姉ちゃん」


 そう言うとちえりは私の目の前に右手の小指をスッと差し出してきた。


「うん、約束ね」


 実体の無い私には、その差し出された指に触れる事はできない。だから差し出されたちえりの小指に自分の小指を絡めるような形で差し出す。

 その指は決して触れ合う事は無いけど、私は感じるはずもないちえりの温もりを感じた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ