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バスに戻った俺は、未だにボーとしたまま、窓の外を眺めていた。
「冗談にしちゃあ性質が悪いというかなんというか。」
現在バスは俺の希望で、最初の停留所まで移動中である。周囲は白い空間に写真で切り取ったようなスナップが張り付いており、そんな幻想的な光景にただ一本、コンクリートの道が舗装されている様子に苦笑が浮かぶ。
「全く、こんな体験するとは思ってもいませんでしたよ。」
先の苦笑を一層深めつつ、ため息混じりに運転手に話しかけると、向こうは愉快そうに答える。
「私はお客さん達の驚く顔を見るのが好きでね、半分はこの表情を見るために仕事しているようなものさ。」
なるほど、趣味と実益を兼ねたいい仕事だと思う。俺もこんな風に働けたらなぁと、今日の経緯を思い返して少し落ち込む。
「お客さんは時折浮かない顔をしますが、何か悩みがおありで?」
「ええ、まあ。」
自身の情けなさに関する話なので、あまり他人に聞かせれるものではない。しかし、こんな不思議な体験をした直後だからか、もしくは運転手の話し方が安心させるのか、いや両方なのであろう。少し話してみたいという衝動が芽生える。
「情けない話なんですが、暇つぶしだと思って聞いてもらってもいいですか?」
「私なんかでよきゃ聞きますとも。」
「ありがとうございます、何から話せばいいのか。」
俺は今まであったことを、洗いざらい打ち明けた。失敗した理由、周囲との衝突、果ては感情までも吐露していく。運転手は非常に聞き上手で、相槌を打ちながら、時に笑い、時に慰め、時に同上の言葉を掛けてくれた。
「そんなこんなで今に至るってわけですね。っと、まもなく着きますよ。」
どうやら話し込んでいるうちに、目的地まで着たらしい。といっても、今までの走りと変わるものは無く、ここからどうやって元の場所へ行くのか疑問が浮かぶが、すぐに回答が告げられる。
「絵の中に入りますんで、ちょっと揺れますよ。」
そういうと、一本道だった道路からわき道が生え、一枚の写真へと伸びていく。そのままバスは絵に向かっていき、俺は思わずぶつかる!と、思って身を縮めたが、バスはそのまま溶け込むように入っていった。