23:30
「わりと広いんですね。」
乗車した俺が運転手に掛けた最初の言葉がそれだった。正面から左側に2名座れそうな座席、右側に1名用のものがある。各椅子の間隔は広く取られており、座ったまま足も伸ばせるようだ。
「遠いところを希望するお客さんも沢山いるからね、多少はくつろげる様にして置かないと、サービスが悪いと言われてしまうんだ。」
「そんなもんですか。」
そう言って、俺は手近な2名用の座席に腰を掛ける。
「それで、どこへご希望で?」
「うーん、これといった目的も無いので、特にここって言うところはないんですが・・・」
そう言ったところで、肝心なことに気が付いた。
「そういえば、料金ってどのくらいが相場ですか?手持ちはそこまで多くは無いんですが。」
一応財布には2万円ほど入っているが、ぼったくられないよう、少なめに言っておく。これは知らない土地、特に外国にいった際に使えるテクニックだから、覚えておいて損はないぞ。
「ピンキリといえばそれまでだけど、数百円で済ます人もいますし、数千万超えなんて人もいますよ。」
「す、数千万って、どこまで行けばそんな大金になるんですか?」
「あの時は確か、色んな場所を100箇所くらい巡ったんでしたかね。距離より、利用回数の方が多く頂いています。」
なるほど、それならばそれくらい行くことがあるのかもしれない。しかし、世の中には羽振りのいい人がいるものだとつくづく思う。
「じゃあとりあえず、どこか落ち着いた、人がいる場所があればそこに行きたいですね。抽象的ですけど大丈夫ですか?」
「任せといてくれ。それじゃあ出発するかね。」
そう言って車を走らせると、次第に目蓋が重たくなったような感じがした。
意識が途切れる寸前、俺の眼に微かに映ったのは、窓の外が白く流れている光景だった。