23:00
暗い夜、周囲には疎らに街頭があるだけで、それ以外は木々と虫の声しかない。
いや、正確には俺自身が居るバスの停留所があるのだが、そこから見渡す限りは民家や看板等、人造物は確認できない。
何故そんなところに居るかと問われれば、簡潔に述べて人生に疲れたからである。
誰もいない所へ行きたい、そして気がすんだら適当な崖でも探して、飛び降りようかという考えも、出発前には浮かんでいた。
しかし、会社から適当に汽車とバスを乗り継いでいる内に、多少は気が晴れたのか、そこまではしなくてもいいかな?という感情が芽生えて来たところである。
「まあ、それも一時的なもので、このまま帰ったらまた再発するんだろうけどね。」
社内では日陰者扱い、軽い虐めもある。全ては自己の能力不足による物が起因しているとは分かっているものの、分かっていると改善できるはイコールではないのだ。
その上で他人に迷惑をかけている自覚もあるので、一番は自分自身に腹を立てているのだろう。
「先を少しでも見通す力があれば、こんなことにはならないんだろうけどなぁ・・・」
別に特殊能力が欲しいわけでもなく、人並みの思考回路があれば回避できていた失敗ばかり。
あとから考えてみれば、そうなるであろう事は分かっているのに、いざ実践しているときにはそんなことすら気が付かないのである。
「さて、それはともかく、これからどうするかな?」
今すぐ帰る気もないし、そもそも終電も終わってしまったこの時刻、この場所で、出来る行動は限られている。
①このまま停留所で夜を明かす。
②人里なり更に奥地なりに向けて歩く。
③ヒッチハイクをしてみる。
④アイキャンフライ!
①、やろうと思えば出来るが、やはり布団で眠ることが好ましい。野犬とか怖いし。
②、現実的な案だが、どの方向へ向かえば良いのかわからないので保留。
③、人通りがほぼ無いに等しい現状においては、あまり頼れないだろう。
④、だから今は死ぬ気無いんだって。
「結局思考の振り出しに戻るわけね。ん?」
そんな愚痴をこぼしていると、やや小さめなバスが1台、減速してこちらに寄ってきた。
はて?最終便はとうに過ぎたはずだが?
しかし、現にこうして現れた以上、乗車できるということであろうか。
そう思案しているうちに、バスは停留所に止まり、運転席横のドアが開いた。
「お客さん、乗るのかい?」
「え?ええっと・・・」
どうやら乗れるようではあるが、普通なら有るであろう行き先の看板がない。
「これってどこ行きなんですかね?」
「これかい?これはお客さんが行きたい所に行くものさ。」
「バスなのにタクシーなんですか?」
「うーん、タクシーじゃないが、行きたいところへ運ぶって点では似てるかもな。今なら他の人も居ないから、あんたの好きなところへ真っ直ぐ行けるぞ。」
どうやら大型の相乗りタクシーみたいだな。
「じゃあお願いします。」
そう言って車内に乗り込む。
「はい、1名様御乗車~。」
そうして俺の不思議な旅が始まった。