2、開けては行けない渡り廊下
千穂と夏波は…
「やっぱり…夜の学校って怖いね〜…」
「そうだね〜…」
と話しつつ、懐中電灯を怖いからか2人で握る。1階ずつ見て行こうと言う話になり、今は2階の2年のクラスを全て見て行った後だ。
「真美〜…!理奈〜…!」
「何処〜…!?隠れてるの〜…!?」
千穂と夏波は真美と理奈を見つける為、小声で名前を呼んでいたがその声は彼女達にとって、予想打にしない人物に聞こえてしまった。
「お前達!何をやっているんだ‼?」
見回りをしていた隣のクラスの先生だ。
サーチライトのように照らされてしまい、誤魔化しようのない程はっきりみられてしまって2人からは冷や汗が頬を伝う。
「み…見つかったぁぁぁ‼ギャーーーー‼」
千穂が走り始め、夏波も叫びながら後に続いて走った。
「ワーッワーッワーッ‼」
慌てて目の前に見える扉を開ける。
だがその場所は例の渡り廊下だったのだ。
2人はそれに気付かず、謝りながら駆け込むようにして中に入った。
「「ごめんなさい‼ごめんなさ……」」
2人の言葉は途中で不自然に途切れる。
先生も中に入ったが、もう2人の姿は無い。
先生は他の先生呼び、周囲を探したが見つかる事はなかった。
その時の美香と姫花は…
「4人…帰って来ないね…」
美香が廊下を見ながら困惑したように呟く。
「そうだね…どうしたんだろう…?」
姫花も恐ろしい予想しかなく、語尾が震えている。
2人が不安になるのも無理はない。
千穂と夏波が理奈達を探しに行ってから30分、つまり開始当初から既に1時間程経っていたからだ。
美香はふと先生達が話していた事を思い出した。
「ねぇ…姫花、先生達が通った時の会話って本当かな?」
姫花は少し青ざめる。
[今まで行った子達は誰も帰って来ませんでしたから…]
まさかこの事なのだろうか?
だとしたら、もう4人は…。とまで考え、あり得ないと姫花は首を振って無理に笑った。
「いやいや冗談だって!大丈夫だよ」
「でも、皆帰って来ないよ…さっきも悲鳴みたいなのが聞こえたし…。もう帰らない?先に帰った事は、明日謝れば許してくれるよ!」
この独特の雰囲気と帰って来ないという恐ろしさに負けた美香は早く帰りたいと言い出す。
だが姫花も例外でなく、やはり怖いものは怖いので少し考えた後に
「…そうだね!明日謝ろっか。鞄はもしも皆が帰って来た時の為にここに置いとこ!」
「うん」
美香も直ぐに頷き、2人は帰路についたのだった。
次の日…
(4人、ちゃんと帰ったかな?帰った…よね?)
昨日からずっと気が重いまま、美香は確かめる為にも教室に急いで入った。
そこには既に姫花が居り、美香を見た瞬間少しほっとしたように顔を緩ませる。
「おはよう、姫花」
「おはよう!ねぇ、理奈達に会った?」
「えっ…?まだ来てないの?もうそろそろチャイムなるよ?」
2人は教室を見渡すが4人はいない。
嫌な予感しかなかった。
キーンコーンカーンコーン…
ガラッと戸が開き、先生が入って来る。
「席つけー!」
理奈達が来ないまま、授業が始まってしまった。
「来ないねー…」
「い、1時間目が終わったら来るよ!」
そして、とりあえず2人は授業に集中しようと席に座った。
1時間目終了…
「休憩入っていいぞー」
と、先生が言いながら教室を出て行く。
美香と姫花は慌てて立ち上がった。
「来ないね…」
美香がそう言うと姫花がまだ希望はあると提案した。
「昨日の倉庫に行ってみようよ!鞄があるか確かめよう!」
「そうだね!」
鞄が無いのならば、皆が帰って来た可能性がある。
無い事を願いながら、2人はその倉庫に行った。
「う…嘘でしょ?」
「鞄が…まだある…」
そこには昨日と変わらぬ姿の鞄が置いてあり、取りに来ていないという事が明確に分かる。
「皆帰って来てないんだ…どうしよう…」
2人が内心パニックになりながらも教室に戻る為、話しながら廊下を歩いていると、
「あ、そこの2人!」
顧問の先生がやっと見つけたとばかりに走って来て、2人に話し掛けてきた。
そして言った事は今の美香達が1番聞きたくない言葉。
「お前達、益田達を知らないか?夜に学校に居たらしいが行方が分からなくてな…。昨晩は家に帰って来ていないらしいんだ」
…絶対にあの事が原因だ。
そう確信を持った2人は咄嗟に返事をした。
「し…知りません。昨日は部活が終わって直ぐに帰りましたから…」
「私も…」
“肝試しを学校でしていました”とも言いづらく、嘘をついてしまう。
先生の表情が曇った。
「そうか…まさかあいつら…」
「どうしたんですか?」
先生の表情が気になり、姫花が心配するように聞くと先生は慌てて横に首を振る。
「ッ!いや…何でもない」
その動作は何か隠しているように見えたが、2人は気が動転していたので聞く余裕がなかった。
先生は用事があると言って何処かに行ったが呆然としていた2人は顔を見合わせる。
「姫花、嘘…ついちゃった」
「でも…あの事は言えない。放課後に渡り廊下に行こう」
「うん…」
そして放課後…
2人は渡り廊下の扉の前に立ち、ドアノブをガチャガチャと音をたてながら開けようとしていた。
「やっぱり開かないよね…」
「開かないって事はもしかして入ってないんじゃ…」
と、姫花が言ったところで2人の視界にある物が飛び込んだ。
美香が焦ったように指をさす。
「あっ!あれって真美のカメラだよ‼」
真美はあらかじめ幽霊の写真を撮ろうとカメラを持ち込んでいた。
それが丁度、渡り廊下の中央付近に落ちていたのだ。
「どうしてあんなところに…?昨日は開いてたって事?」
「だとしたら真美はこの中に入ったって事になるよね…。真美と一緒だった理奈も」
だが夏波と千穂の痕跡らしきものはない。あるのはカメラだけ。
「2人は入ったとして、夏波と千穂はどうなったんだろう?」
「きっと…探したいってここに入ったんじゃないかな」
ここで2人の頭にある話がよぎった。
昨日聞いた、何か引っかかる話。
「ねぇ…美香、普通だったら4人とも帰って来るよね…でも帰って来なかった。先生達が話してた事覚えてる?」
「今まで入った人は誰も帰って来てないって話?…まさか…ここ?」
結論に至った瞬間、さぁっと全身から血の気が引くような気がした。
全員がここに入り、何かあったのだ。
渡り廊下を見つめながら動く事ができないでいた2人の背後から、いきなり声がした。
「そうだ‼」
驚いて振り返るとそこに居たのは…
「せ…先生‼」
なんと顧問の先生だったのだ。
予想外の人物に姫花が声を上げる。
「先生⁉いつの間に⁉」
そんな姫花を軽くかわすように横を向くと、先生は重く口を開いた。
「…ここは実は違う世界と繋がっているんだ。益田達は多分そこに落ちたんだろう。…私は違う世界に居たのに此処に来てしまったからな」
先生の突然の告白と違う世界と聞き、2人は驚きを隠せない。
「ガンスルー…ってか…ええぇ‼?」
「ど、どういう事ですか⁉」
先生は少し思い出を手繰り寄せるかのように間を置き、緩く頭を振って深く溜息をつく。
「…声が聞こえたんだ。そして気付いたら此処に来ていた」
美香と姫花はそこで不思議に思った。
帰れる道は目の前にあるというのに気付いているようだが、帰っていないという事にだ。
姫花が思い切って質問する。
「どうして帰らないんですか?渡り廊下から帰れるじゃないですか」
先生は少し首部を垂れた。
諦めているような動作に2人は内心戸惑う。
「駄目だった…。実はここには結界のようなものがあるらしくて、向こうの世界から来た人間は入れないんだ。俺も試したが無駄足だった。…もう10年だ。27歳になってしまったよ」
悲痛な表情をしながらも、昔の経緯を説明してくれた先生に軽い絶望を覚える。
もしかしたら4人は帰って来れないかもしれないのだ。
落胆しつつも2人は頷く。
「そうなんですか…。どうしたらいいんだろう?他に此処に入ってしまった人の話を聞かせてくれませんか?」
美香の申し出に先生は考える素振りをして、しっかりと了解の意を示した。
「いいだろう。名簿と詳しい事は南側の階段下の物置にある」
「あそこに…よし、早く行こう!」
3人は行ってしまった人達を知る為、理奈達と隠れていた物置に向かう。
昨夜と何も変わらないそこは、本当に何もなかったかのように錯覚しそうな程だった。
「これまでに行ったのは13人。誰も帰って来ていない」
先生はそう言うと、少し劣化して黄ばんだノートを美香達に差し出す。
開いてみると、昔に書かれたのだろう。それでもしっかりと名前が記されている。
「こんなに…。どうやって対処したんですか?」
美香が聞くと先生は顔に影を落してしまう。
まずい事を聞いたかと、美香は内心慌てていた。
「消えた奴等は皆の記憶から消えているんだ」
「え⁉でも私達は忘れていないけど、どういう事なんだろう…」
美香達だけでなく、クラスメイトも先生達ですら忘れている様子は見受けられない。
「分からない…。もしかするとお前達が関係しているのかもしれない…」
「私達が関係してるなら助けなきゃ‼」
2人は立ち上がり、先生の協力の元で学校中のあらゆる本を調べる事にした。