逢える駅
夢で見たものを加筆したものです。
読みにくかったらすみません。
もう廃線になった駅でいつも誰かを待っている人がいた。
その人は毎日朝早くに来て、夕方に帰っていく。
ある日僕は訊ねた。
「誰を待っているんですか?」と。
すると、その人はこう答えた。
『私にとって、とても大切な人です』
その人は答えながら、悲しそうに笑っていた。
それからもその人は明くる日も明くる日も待ち続けていた。
でも、ある日ぷつりとその人は来なくなった。
突然来なくなったから僕は心配になって、知りうる場所を捜し回った。
それでも見つけることができなかった。
僕は捜すことを諦めて、その人の代わりに駅で誰かを待つことにした。
明くる日も明くる日も誰も来ない。
どんなに待っても電車は来ないし、待っている誰かも来ない。
僕は退屈になってうたた寝してしまった。
電気さえ通っていないこの駅は夜になるとすごく暗くなる。
暗くなる前に帰らねばならなかった。
僕は誰かに揺さぶられて目が覚めた。
辺りは暗くなっている。
でも駅は明るかった。
ホームから入る明かりのおかげで、駅全体が明るかった。
眠い目を擦って、起きると目の前には捜しても見つからなかった、その人がいた。
『夜遅くにこんなところにいては危ないですよ』
その人はどこか嬉しそうな困ったような表情をしていた。
「・・・待っている人は来たんですか?」
ホームの方を見ながら言うと、その人もホームを見る。
『はい。やっと来てくれたんです』
その人はとても嬉しそうにそう答えた。
「待っていた人と一緒に行くんですか?」
とても嬉しそうな顔をしていたから思わず聞いてしまった。
『はい。そのためにずっと待っていたんです。あなたも一緒に行きますか?』
僕は首を横に振った。
『そうですか・・・。寂しくなりますね』
その人は少し俯いてしまった。
「もう会えないんですか?」
『もう会えないんですよ』
その人は悲しそうに笑っていた。
沈黙が流れた時、汽笛が鳴った。
『ああ。もう行かないと』
「お別れですか?」
『お別れですよ』
僕はなぜだか悲しくなって、ぼろぼろと涙を流した。
その人はなだめるように、僕の頭を撫でた。
その表情はとても穏やかだった。
二度目の汽笛が鳴る。
『さようなら。お元気で』
「さようなら。お気をつけて」
涙で視界は霞んでしまっていたけれど、その人の最後の表情ははっきりと覚えている。
とても、とても美しかった。
そして、電車はゆっくりと動きだした。
電車の中には、嬉しそうに笑うその人と愛しそうに笑う誰かがいた。
電車はゆっくりと速度をあげていく。
少しずつ電車が遠ざかっていく。
そして、ホームから明かりが無くなると、僕の意識はぷつりと途切れた。
目を覚まして、すぐにあの駅に向かった。
でもそこには駅はなかった。
昨日の夜まであったはずの、その人が待ち続けていた駅はどこにもなかった。
線路も見当たらない。
でも、そこには一枚の写真が落ちていた。
その写真には幸せそうなその人が写っていた。
その写真を見ていると、胸にこみ上げて来るものがある。
どうして忘れていたんだろう。
どうして忘れることができたんだろう。
ここは行く人が最後に来る場所。
最後に会いたい人に逢わせてくれる場所。
今の僕では行くことの出来ない場所へと行くための駅。
その人は最後に僕に逢ってくれた。
その人は僕にとって大切な人だった。
その人の待っていた人も僕にとっては大切な人だった。
二人は一緒に行ってしまった。
もう逢えない。
もうあの時と同じように笑いあうことができない。
大切な二人は行った。
最後の願いを叶えていった。
でも悲しくはない。
きっとすぐに逢える。
あの駅できっと逢うことができる。
「・・・もう少し、電車に揺られて待っていてください」
写真を胸に抱き、今はまだない駅の影に微笑みかける。
「おじいちゃん。こんなところにいた」
「おやおや。心配かけたかのぅ」
「そりゃ心配するよ。朝早くに出掛けるんだもの。さあ、帰ろう?」
「ああ。帰ろう」
大丈夫。
あの二人ならまだ待ってくれる。
その時になったら、駅で待とう。
二人が迎えに来てくれるのを。
「今はまだ逢えないけれど、その時まで待ってくれますか?」
『いつまでも待ってます。もし来たときには私たちの知らない話を聞かせてくださいね』
声が聞こえて、顔が綻ぶ。
「おじいちゃん、何か言った?」
「ああ。ありがとうと言ったんだよ」
話しきれないくらいたくさんの話を持って行くから、そこで待っていて。
また、あの駅で逢おう。
その時までさようなら。
僕の大切な………。