表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

逢える駅

作者: 佳春

夢で見たものを加筆したものです。

読みにくかったらすみません。

 もう廃線になった駅でいつも誰かを待っている人がいた。

 その人は毎日朝早くに来て、夕方に帰っていく。

 ある日僕は訊ねた。


「誰を待っているんですか?」と。


 すると、その人はこう答えた。


『私にとって、とても大切な人です』


 その人は答えながら、悲しそうに笑っていた。

 それからもその人は明くる日も明くる日も待ち続けていた。

 でも、ある日ぷつりとその人は来なくなった。

 突然来なくなったから僕は心配になって、知りうる場所を捜し回った。

 それでも見つけることができなかった。

 僕は捜すことを諦めて、その人の代わりに駅で誰かを待つことにした。

 明くる日も明くる日も誰も来ない。

 どんなに待っても電車は来ないし、待っている誰かも来ない。

 僕は退屈になってうたた寝してしまった。

 電気さえ通っていないこの駅は夜になるとすごく暗くなる。

 暗くなる前に帰らねばならなかった。

 僕は誰かに揺さぶられて目が覚めた。

 辺りは暗くなっている。

 でも駅は明るかった。

 ホームから入る明かりのおかげで、駅全体が明るかった。

 眠い目を擦って、起きると目の前には捜しても見つからなかった、その人がいた。


『夜遅くにこんなところにいては危ないですよ』


 その人はどこか嬉しそうな困ったような表情をしていた。


「・・・待っている人は来たんですか?」


 ホームの方を見ながら言うと、その人もホームを見る。


『はい。やっと来てくれたんです』


 その人はとても嬉しそうにそう答えた。


「待っていた人と一緒に行くんですか?」


 とても嬉しそうな顔をしていたから思わず聞いてしまった。


『はい。そのためにずっと待っていたんです。あなたも一緒に行きますか?』


 僕は首を横に振った。


『そうですか・・・。寂しくなりますね』


 その人は少し俯いてしまった。


「もう会えないんですか?」


『もう会えないんですよ』


 その人は悲しそうに笑っていた。

 沈黙が流れた時、汽笛が鳴った。


『ああ。もう行かないと』


「お別れですか?」


『お別れですよ』


 僕はなぜだか悲しくなって、ぼろぼろと涙を流した。

 その人はなだめるように、僕の頭を撫でた。

 その表情はとても穏やかだった。

 二度目の汽笛が鳴る。


『さようなら。お元気で』


「さようなら。お気をつけて」


 涙で視界は霞んでしまっていたけれど、その人の最後の表情ははっきりと覚えている。

 とても、とても美しかった。

 そして、電車はゆっくりと動きだした。

 電車の中には、嬉しそうに笑うその人と愛しそうに笑う誰かがいた。

 電車はゆっくりと速度をあげていく。

 少しずつ電車が遠ざかっていく。

 そして、ホームから明かりが無くなると、僕の意識はぷつりと途切れた。

 目を覚まして、すぐにあの駅に向かった。

 でもそこには駅はなかった。

 昨日の夜まであったはずの、その人が待ち続けていた駅はどこにもなかった。

 線路も見当たらない。

 でも、そこには一枚の写真が落ちていた。

 その写真には幸せそうなその人が写っていた。

 その写真を見ていると、胸にこみ上げて来るものがある。

 どうして忘れていたんだろう。

 どうして忘れることができたんだろう。

 ここは行く人が最後に来る場所。

 最後に会いたい人に逢わせてくれる場所。

 今の僕では行くことの出来ない場所へと行くための駅。

 その人は最後に僕に逢ってくれた。

 その人は僕にとって大切な人だった。

 その人の待っていた人も僕にとっては大切な人だった。

 二人は一緒に行ってしまった。

 もう逢えない。

 もうあの時と同じように笑いあうことができない。

 大切な二人は行った。

 最後の願いを叶えていった。

 でも悲しくはない。

 きっとすぐに逢える。

 あの駅できっと逢うことができる。


「・・・もう少し、電車に揺られて待っていてください」


 写真を胸に抱き、今はまだない駅の影に微笑みかける。


「おじいちゃん。こんなところにいた」


「おやおや。心配かけたかのぅ」


「そりゃ心配するよ。朝早くに出掛けるんだもの。さあ、帰ろう?」


「ああ。帰ろう」


 大丈夫。

 あの二人ならまだ待ってくれる。

 その時になったら、駅で待とう。

 二人が迎えに来てくれるのを。


「今はまだ逢えないけれど、その時まで待ってくれますか?」


『いつまでも待ってます。もし来たときには私たちの知らない話を聞かせてくださいね』


 声が聞こえて、顔が綻ぶ。


「おじいちゃん、何か言った?」


「ああ。ありがとうと言ったんだよ」


 話しきれないくらいたくさんの話を持って行くから、そこで待っていて。

 また、あの駅で逢おう。

 その時までさようなら。

 僕の大切な………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ