第2話 転生者&転生者
意識的にこちらに話しかけていたのではなく、向こうの心の声を勝手にこちらが聞き取っていたらしい。
逆に金ハネコイのほうもオレの心の声を聞き取っている。
やはり、ハネコイのような一般テラモンでは聞いたことのない現象だ。
そんな思考も金ハネコイには伝わっていたらしい。
“兄さん、一体ナニモンや……”
何者かと聞かれたら、転生者ということになるだろうか。
元ゲーム会社勤務だとか釣りミニゲームの管理人の孫というあたりは今回はあまり関係ないだろう。
この思考も届いたようだ。
金ハネコイはオレの近くまで戻って来ると。
“転生者、おもろいやないか”
胡乱なワードに食いついた。
“ウチもこう見えて元人間でな。コート地方のハイランカーやった。テラモンを手駒扱いしすぎたせいでバチがあたったんか、こうしてハネコイに転生してもうたっちゅうわけや。同じ転生者同士っちゅうことで心がつながりやすいんかも知れへんな”
同じ転生者。
ただし、ゲーム内の人外転生タイプで異世界転生タイプではないらしい。
転生したらハネコイだった。
なかなかハードモードな転生だ。
ハネコイがレベル20になれば、ロンユイロンという強力な龍型テラモンに進化できるが、そこまでレベルアップするのは困難だ。
ハネコイが使えるスキルは、名前の通り跳ねて自ターンを終わらせるだけの〈ぴちぴち〉と、低ダメージの体当たり技〈びったん〉、HPが減るほどダメージが増えるが命中率の低い〈きゅうよのさく〉、すべてのスキルポイントがゼロになったときにだけ出せる無属性必中、低ダメージ自傷技の〈ぎょくさい〉の4種。
ただし〈ぎょくさい〉は全テラモン共通で持っている隠し技で、パラメータ上のスキルは〈ぴちぴち〉〈びったん〉〈きゅうよのさく〉の3種だけ、攻撃手段もなければ嫌らしい補助技もない最弱テラモンというのがハネコイの立ち位置である。
ゲームだと他のテラモンにキャリーしてもらったり、経験値アイテムを使ったりして育成できるが、それはあくまでゲームの主人公、常時6体のテラモンを安定運用できる素養を持ち、最終的には神話級テラモンを従え、それぞれの地方でのアリーナチャンプの称号を手に入れるテラモンリーダーの話である。
単独行動の野生のハネコイや、その他大勢の一般テラモンリーダーに真似できる芸当ではない。
一応説明しておくと、テラモンリーダーというのはテラモンを使役する人間のことである。
テラモンとリンクし、先導、指導する人間という意味だ。
一般市民が安全に扱えるテラモンの数は1体か2体。
テラモン使いと呼ばれる本職のテラモンリーダーでも扱えるのは3体、4体程度というのがボリュームゾーン。
5体、6体が扱えるのはテラモンリーダーの中でも1%未満の上澄み勢となる。
なお、テラモンの制御可能個体数はリンクレベルという数字で表現されるが、オレの数字は一般人でも少なめの1である。
“なあ、兄さん”
金ハネコイは、なにも考えてなさそうと言われる魚眼でオレを見上げた。
“ウチのリーダーになってみぃへんか?”
――リーダー? オレが?
意識的に心の声を投げ返す。
“せや、知っとるかも知れへんけど、ウチはレベル20を超えると滅法強いテラモンになる。兄さんがアリーナチャンプを目指すんやったら役に立つで”
――生憎だけど、オレはリンクレベルが低くてね。テラモンは1匹しか扱えない。
前世ではロンユイロンどころかハネコイ1匹だけでアリーナチャンプを達成した偉人もいたが、この世界にはセーブ・ロードの概念はなく、同じ試合を何度もやり直すなんてことはできない。
ロンユイロンを使う前提でもまぁ無理だろう。
“確かに、リンクレベル1でアリーナチャンプは厳しいかもしれんな。ハイランカーくらいならどうにか行けるかもしれへんけど”
結構な自信家のようだ。
“ウチも前世はハイランカーやったからな。じぶんひとりでどれだけ通用するかくらいはわかる”
ニジマスに蹂躙されていたのに?
そんな疑問が脳裏をよぎった。
“あれはちょっと間が悪かったっちゅうか。タチの悪いノラミャとやり合うた帰りに生け簀に飛び込んでしもうてな”
聞こえてしまったようだ。ハネコイは取り繕うようにいった。
ノラミャとは野良猫テラモンのことである。
個体にもよるが一般に強テラモンとは言われない。
“そないなことより兄さん、前世ではアリーナチャンプだったんやろ?”
――チャンプ? 何言っているんだ?
“声と一緒にそないなイメージが流れこんで来たんやけど”
そんなイメージに覚えは……ないこともない。
――ゲームのイメージだな。現実の話じゃない。
前世のゲームの中でなんどとなくアリーナチャンプになっている。
前世のテラモンキッズならば珍しくもない記憶だ。
“そうみたいやな、せやけど、アリーナの頂点を知っとることは変わらへん。実際兄さんはウチの知っとるコートのアリーナチャンプとどこか似とる”
――オレは君みたいなハイランカーと戦った覚えはないんだが。
コート地方を舞台にした作品もプレイしているが、ハイランカーと呼ばれる上位、ネームドのリーダーに、思い当たるキャラクターはいなかった。
オレが知っているコートのハイランカーとは別世代のハイランカーの転生なのかも知れない。
“まぁ、ウチもアリーナそのものにはそう執着はあらへん。目指せハイランカーとは言わへんけど、そうなると、請け合えるもんがないなぁ”
――君がオレになにができるかは置いておいて、君はオレになにをして欲しいんだ?
“ウチは最強のテラモンを目指しとる。その為に協力してほしい。具体的にいうとウチを連れてアリーナに出てバリバリ戦ったり、ミッションをこなしたりして経験値を稼がせて欲しい。金やらアイテムやらは成長系を除いてそっちの取り分でええ”
――ハネコイ1匹で、アリーナやミッションをバリバリ?
“まぁ限度はあるけどな、いま現在でレベルは15ある。低ランクのアリーナ戦やら低難度ミッションやったらうちだけで充分こなせるはずや”
――剛毅なハネコイが居たもんだ。
まぁ確かに、ハネコイ1匹でも、15レベルあれば駆け出し向けミッションだとか、アリーナの初位クラスあたりならそこそこ通用しそうではある。
ギャラリーには『いい歳をしてウケ狙いで痛い真似をするカス』『ハネコイ虐待』みたいな目で見られそうなのが難点だが。
――ちなみに断ったら?
“そのへんのハネコイやらフナリィやらを狩って、20までレベリングやな。ロンユイロンに進化できるようになれれば色々融通が効くよって”
最弱のハネコイがどうやって野良でレベル15まで経験値を稼いだのかと思ったら、最弱の同族であるハネコイを襲撃していたらしい。
――OKわかった。わかったからうちの近所でハネコイを襲うのはやめてくれないか。できる範囲で協力はするから。
うちの釣り堀でやっているミニゲーム、ハネコイチャレンジは、釣り堀だけでなく、ソトボリ川の流域全域でハネコイを何匹、あるいはどれだけの大物を釣れるかを競うものだ。
同族狩りの金ハネコイに荒らし回られては困る。
いっそ金ハネコイの方を大当たりにする手もなくはないが、ハネコイの進化先であるロンユイロンは風雨や雷を操り飛行。『極めて小さく猛烈な台風』とも言われる災害級テラモンだ。
追い回されている最中に進化して暴れ出しでもされたら大惨事である。
ここは交渉ベースで解決をはかることにした。
シンプルに考えると、釣り堀の管理人の手持ちテラモンがハネコイというのはおかしな組み合わせじゃない。
金色という点を気にしなければだが。
“ほな、商談成立やな。ところで、リンク枠は空いとるんか?”
――ああ。
学生の頃はコマワンという狛犬系のテラモンとリンクしていたが、就職前に寿命でいなくなってしまった。
“ほな、うちはハネコイ。あんじょうよろしくよろしゅう、と、名前を聞いてへんかったわ”
――伊勢界人。
“……失礼やけど、親御さん、何を考えてそないな名前を?”
――そこはオレも謎なんだ。
読みを少し変えるといせかいじん。
前世の記憶が戻った後に気づいてぞっとしたが、両親のほうはオレが異世界転生者だと気づいている様子はなかった。
“まぁええか、カイトはんはテラモンに名前つけるタイプやろか?”
――こだわりはないな、前にリンクしてたコマワンはコマキチって呼んでたけど。
ゲーム世界だからか、個体名を付けずハネコイと呼んだりしても特に問題視はされない。
“せやったら、ウチのことはハネさんとでも呼んでもらおか”
――わかった、じゃあよろしくハネさん。
自己紹介も終わり、テラモンボトルを投げてハネさんを再収容。ボトルの底にあるリンクスイッチのトグルを回す。
リンクというのは、テラモンと人間とが意識のラインをつなぎ、共生関係を築くことだ。
リンク枠が足りなかったり、テラモン側がリンクを拒絶した場合はトグルは回らず、ボトルの拘束力も10秒ほどで失われるが、今回は問題なくトグルは回り切る。
ロック音がカチリと鳴った。




