第10話 無法地帯の玄関口
やがて電車は目的地、キザクラ駅へ到着した。
”意外にまともやな”
——この駅にはビッグショットの一人がいるからな。
テイトー地方最悪の無法地帯の玄関口だが、ホーム内は意外に平和で清潔だ。
無法地帯として知られるキザクラエリアは線路から海側で、線路の陸地側には普通にオフィスや住宅地が広がっていたりするので、キザクラ駅の大半の利用客は一般の人間たちである。
いかにも反社、半グレ、ヤカラ系といった雰囲気の人間も目につくが、カタギの利用客とのトラブルはないようだ。
駅舎のあちこちに止まっている鋼鉄のハト型テラモン、メタルッポーたちの監視の目があるためだ。
不埒な真似をすれば空・装甲属性のハトたちの痛烈な〈エリアルチャージ〉や〈ビーンショット〉で鎮圧される羽目になる。
仮にメタルッポーを追い払っても今度は〈よろい〉テラモン使いの駅長、井出悟一の『お客様対応』が待っている。
ビッグショットと呼ばれるキザクラエリアの8人の実力者の一人だ。
そのままホームで待機していると、次の電車で神喰丸が到着した。
比嘉刑事も一緒についてきている。
「お待たせして申しわけありません」
「いえ」
首を振ってそう言ったあと、
「着いた早々に厚かましいことを申し上げますが、できればガイドとしてタクシーを一日借り切りたいのですが、料金を出していただけないでしょうか」
「この距離ならば歩いたほうが早いのでは?」
神喰丸は前方に見えるマッドタワーに目をやった。
「キザクラエリアの治安を考えると、この距離でも何回襲われるかわかりませんので」
〈アンダーカバー〉だと駅からマッドタワーにつくまでに、3、4回は戦闘が発生していた覚えがある。
〈アンダーカバー〉から2年過ぎた現在、治安がどう変化しているのかはわからないが、地元で顔の効く人間に案内を頼むのが一番だろう。
「信頼できるタクシーを探すのも難しいのでは?」
比嘉刑事が不審そうに言う。
「信頼できるドライバーに心当たりがあります。連絡が取れなかったら諦めて歩きましょう」
怪しいタクシーを拾うくらいなら神喰丸を盾して歩いていったほうがマシだろう。
「わかりました。伊勢さんにお任せします」
「ありがとうございます」
スポンサーの許可が出たので、ネットで調べた個人タクシーに早速電話をかける。
『はい、お電話ありがとうございまーす。フロイライン交通でございますわー』
個人タクシーの携帯電話とは思えない、若い女性の声がした。
〈アンダーカバー〉の登場キャラクターとして知っていたが、ボイスを聞くのはこれが初めてである。
「伊勢と申します。一日貸し切りでガイドをお願いしたいのですが。今はキザクラ駅構内です」
駅の外にでるとそれこそ変なタクシーやらごろつきテラモンリーダーに絡まれる心配がある。
「人数は大人が3人、あと……神喰丸さん体重は? 3人のうちひとりは185キロで身長2メートルの力士です」
『お、お相撲さま!? お相撲さまがおいでですの!? か、かしこまりましたわっ! ちょっと大きい車を出してまいりますので10分お待ちくださいましーっ!』
慌てた様子で電話を切るフロイライン交通。
宣言通り10分ほどで、宣言通り大きな車が駅前のロータリーに入ってきた。
スポーツの優勝パレードに使われるような、白い大型オープンカー。
かなりの年代もので、ビビビビビビビビ、と虫の羽音のようなエンジン音を響かせている。
ハンドルを握っているのは赤いドレス、金髪縦ロールの令嬢風キャラデザインの女性ドライバーである。
アクセントというわけではないだろうが、インテリヤクザ風のサングラスとレザーグローブも装備している。
派手なスキール音を立てて駅前に乗り付けた縦ロールのタクシードライバーはスマホを取り出してオレの電話を呼び出した。
「お待たせいたしましたわー。フロイライン交通ですわー! お客様ー、お迎えに参りましたわー」
”またずいぶん素頓狂なタクシーが出てきよったな……”
ハネさんだけでなく、神喰丸も比嘉刑事も困惑気味である。
駅前にたむろしていた白タク関係者やごろつきたちが視線をそらす様子も見て取れる。
〈アンダーカバー〉のゲームと変わらず『やべー女』として盛大に恐れられているようだ。
ともあれ駅を出てロータリーに向かうと、待っていたドレスのドライバーはドライビングシューズを見せる格好でスカートの裾を上げてカーテシーを決めた。
「ようこそキザクラエリアへ。フロイライン交通の薔薇塚ランガと申します。本日一日よろしくお願いいたしますわー」
薔薇塚ランガ。
キザクラエリアの8人のビッグショットの一人で花属性のテラモン使い。
〈蒼穹のアクアリウム/深淵のプラネタリウム〉に登場した大企業、バラヅカグループの令嬢だったが〈アンダーカバー〉の時代では落ちぶれ、生家のアンティークカーを使って個人タクシーのドライバーをやりつつバラヅカグループ復興を目指している、ネタ寄りのキャラクターである。
「ガイドとおっしゃいましたが、どこかご希望はありまして?」
オレと神喰丸を後部座席に、比嘉刑事を助手席に乗せた薔薇塚ランガが確認する。
「誘拐されたテラモンを探しています。電子系のテラモンが調べたところ、マッドタワーにいるとわかりました」
「ふむふむ、なるほどですわ。それでわたくしのガイドが必要なわけですわね」
普通のタクシー運転手ならば、「変な話に巻き込むな」と怒りだしてもおかしくないが、そこはゲームの個性派キャラ、動じる様子は全くなかった。
「タワーのどのあたりにいるかは特定できていまして?」
「テラモンによると17階だと」
神喰丸がスマホの画面を確認して言った。マッドタワーは建物の規模が大きいため、反社会的勢力向けのオフィスや住居、簡易宿泊所としても利用されている。
反社による不法占拠状態なのに電気もスマホも使えてしまう。
そもそも「不法占拠された」といっている現在のオーナー企業自体が反社会勢力が作ったフロント企業だったりする。
やはり政府と警察仕事しろ案件と言わざるを得ない。
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