表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第三章 届かなかった言葉

 壁新聞に載った僕の記事は、誰もが注目するようなものじゃなかったけれど──

 その小さな一言「ちゃんと伝わってたよ」が、僕の心にしっかり根を下ろしていた。


 言葉って、届くんだ。


 そう思えたあの日から、僕はほんの少し、自分に自信が持てるようになった気がした。




 「なぁ、蓮。記事って、誰でも書いていいの?」


 昼休み、隣の席の蒼太が声をかけてきた。


 「うん、仮入部でも提案できるよ。どうして?」


 「ちょっと気になることあって。部活棟のトイレ、すげー汚れてんのに全然清掃されてないんだよな。あれ、たぶん予算が削られてるっぽいんだよ」


 「それ、取材したら記事にできるかもね」


 僕は素直にそう答えた。


 「じゃあ、お前書いてよ。記事になるだろ、そういうの」


 「……僕が?」


 「ほら、お前もう書いたことあるし、慣れてんだろ?」




 その言葉に、少し胸がざらっとした。


 「でも、蒼太が思ってることなんでしょ? それなら、自分の言葉で書いた方が──」


 「……なんだよ、めんどくさいな」


 そう言って、蒼太は顔をしかめた。




 次の日、蒼太は僕に話しかけてこなかった。


 僕は、何か間違えたんだろうかと考え続けた。

 「ちゃんと伝えたつもりだったのに」

 「僕は、悪いこと言ったかな」

 「“自分の言葉で”って、押しつけだったのかも」




 その日の放課後。咲坂先輩は僕の悩みに、こう言った。




 「言葉って、時々、届かないこともあるんだよ。でもね──それは“届こうとした証拠”でもあるの」



 「……届こうとした、証拠」




 「本当に届くには、相手が“受け取りたい”って思ってくれないといけない。でもそれって、書き手にはどうしようもないときもある。

  だからって、伝えることをやめたら、何も届かなくなるんだよ」



 僕は、その言葉を胸にそっとしまった。




 夜、ノートに今日のことをメモしながら、ふと気づいた。

 もしかして、僕が書きたいのは、「問題点」じゃなくて──「誰かが思っていること」なんじゃないかって。




 次の日、僕は蒼太に声をかけた。


 「ねえ、やっぱり、書いてみない? あのこと。最初は箇条書きでもいいし、僕が手伝うからさ」


 蒼太はしばらく黙っていたけど、やがて小さく、

 「……じゃあ、ちょっとだけな」

 と、言ってくれた。




 


 “ちゃんと伝わる”って、簡単じゃない。

 でも、伝えようとしなきゃ、始まらない。




 言葉にするって、やっぱり、むずかしい。

 でも、やっぱり──だいじなことなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ