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第3話

第十章 夕食


 露店街道からマーシャの宿に戻ってきた一行は、一階に併設されている酒場のカウンター近くのテーブルを陣取った。

「何人?」

「三人、全員果実水で」

 店員は注文を聞くとすぐ引っ込んでしまった。

 そういえば簡便さ重視でメニューが固定ってお話あったなぁ。と読んだ異世界モノを思い出していると、シャーリーがぽんと手を叩いた。

「それでは、明日からの事を話し合いませんか?」

 その言葉から始まったパーティー会議。

 実はパーティーメンバーが増えたことで、ランク的な意味で歪なパーティーとなってしまったのだ。

 ギルドではいわゆるパワーレベリング的ランク上げの防止として、依頼を受けたパーティーメンバー内で、最も高いランクより二つ以下になるメンバーには評価が入らないシステムになっている。

 そのためにもまずは一にも二にも実里のランクアップが急務となっているのだ。

 現在、実里が錫、二人が銅だ。実里が依頼達成による評価を受けるには一ランク上げて鉄にする必要がある。

 実里を戦力的に評価すれば、装備という面では問題ない。今すぐ二人が受注する依頼に対応できる程度には装備の質は足りている。しかし、圧倒的に知識と経験が足りていない。これは、戦闘技術面だけでなく、冒険者としての採取や解体方法、制度面などの基礎知識や、精神的な覚悟といった精神的な面も含めてである。

 それをどうするか。という話をするのだ。

 ちなみに今回実里が襲われた、あのホワイトウルフを討伐していたら、二人は銀に昇格していたそうだ。

 その話を聞いた実里は申し訳ないと思うが、かといってやらねばやられていたので、不可抗力と思うしかない。

  

 そういったことををあーだこーだと賑やかに話し合っていると、ゴトンと音を立てて三人の前に料理が置かれた。

 献立は黒く焼き締められた固い無発酵パン、濃い茶色のソースがかかった肉の煮込みらしきもの。そして、豆と根菜らしきものの角切りが入ったスープ。

 芳しい香りが鼻孔をくすぐる。

実里は静かに手を合わせ、目を閉じる。

「いただきます」

 そうつぶやき、目を開いてカトラリーを持とうとしたところ、二人はすでに口元まで料理を運んでいた。その状態で手を止めて変な顔で実里をみている。

「何してるんだ?」

「え、えーと。習慣? というか、感謝?」

「何にだよ」

「多分ですけど、料理を作ってくれた人に対してではないですか?」

「あー、それならわかるな。で、どうなんだ?」

「……まぁ、そんなところ」

 実里はてっきり、ご飯前の祈りは形は違えど異世界込みで全世界共通だと思いこんでいた。

 まさかこんなところで異世界ギャップがあるとは思ってもいなかった。

 説明してもあまり理解されなかったようで、少し残念に思ったようである。


 改めて実里はカトラリーを手にして煮込みを口に入れる。

「濃っ……!」

『こ??』

 あまりの味付けの濃さに思わず反射的に漏れた言葉にこれまた二人が反応する。

 慌てた実里はすぐにスープ──これも思ったより塩分濃度が高かった──で流し込み。

「ケコッコっ!」

 鶏の物真似声でごまかした。

 二人は訳の分からなさで笑ったが、実里としては味の文句を言ってしまったのがバレないかとヒヤヒヤしただろう。

 味の濃さからわかる塩分とカロリー量に、実里は冒険者に比べると少しふくよかだったギルドの受付嬢に『頑張ってたんだね』と心の中で同情した。

 そして、余裕ができたら自炊しようとも心の中で決めたのだった。


 そんなことがありながらも、食事をしながらパーティー活動の方針を詰めていく。

 結果としては、実里は錫でも受けられる町のお使い依頼をこなし、その間ベテラン二人は町外へ常設依頼(フリーハント)を受けて体が鈍らないようにするということなった。

 そして、実里の依頼が終われば合流して、実戦戦闘訓練をしていく。という話となった。


 食事が終わり、実里は別れて宿の部屋に入る。

 今日一日だけでもいろいろあって心も体も疲弊しているのだが、ある意味彼女の戦いはここからだ。



第十一章 ハンドメイド


 パーティー会議から次の日の夜、実里は自室の机に向かっていた。机の上には今日一日で果たした採取系の依頼の達成報酬で購入した蝋燭が三本もたてられて、机上を煌々と照らしている。今日の朝一番にナイフに鞘をつけろと怒られたり、昨夜に例のお香で一度『当所』に戻って前の世界のお金を回収・両替し、そのお金でこちらでは調達しにくい物品の買い物をしたりなどした。

 今夜は、仮のものではあるが、主武装を作ろうと思っている。身体能力の引き上げなどがあるとはいえ、流石にアーミーナイフではリーチが短すぎる。


 机に端切れを敷き、採取した木の枝、ヤスリ、デザインナイフ、スケール定規、裁縫道具を置くと、ユヴェナの姿に変身する。

 今ある道具では、細かい加工はともかく、その前段階の切り出しなどはユヴェナのアーミーナイフ以外に最適なものが無いからだ。

「うん、今日中に作り上げないと」

 一言、静かに気合いを入れて机に向かった。


 まず手に取ったのは細い木の枝。スケールとデザインナイフでアタリを付けて、直方体を切り出す。高さは一センチ半、横幅は一センチ、長さは十センチほどだ。

 端から二センチの場所に目印を入れ、一ミリほど間を空けてもう一本。さらに、そこから六センチ空けてもう一本。

 その後、端から二センチの部分を幅四ミリ高さ二ミリ、その次の一ミリの部分を幅六ミリ高さ四ミリ、最後の六センチの部分を幅四ミリ高さ二ミリで浅く反ったような形状になるよう、ナイフで削り出す。

 何度か失敗して折るものの、ある程度納得がいくものができれば、後は変身を解除し、デザインナイフで形を調えつつとにかくヤスリで削るのみ。

 

 今、実里が作っているのは刀、木刀だ。しかし、お土産の木刀のように刃が丸くなっているのではなく、鋭く鋭角になるようにしている。

 元々はABS、合成樹脂製の玩具でしかないアーミーナイフですら、変身後には、ホワイトウルフの牙と咬力に耐え、木材を切り落とす切れ味を持ったのだ。

 ならば、装備さえしていれば何でも何かしらの効果があるのではと期待が高まるというものだ。

 そこでまず考えたのは武器。ホワイトウルフを相手にして、ナイフ一本では厳しいと感じたのだ。

 そして最初は作るのも簡単そうな定番の槍を連想するが、良さそうなビジュアルが思い浮かばない。

 何せ最悪竹串みたいなのを作って持たせれば槍になるだろう。もっと簡略化すれば角柱の杭を持たせても良さそうだが。

 本当にこれでいいのか? と思ってしまったので、却下とした。

 次にリーチがそこそこあって、比較的簡単に作れそうなものは。と考えたのは剣だ。

 剣も多種多様とあるが、一番作りやすそうなのは、一般的な西洋剣。それもショートソードやロングソードといった一般的なもの。他には日本人の魂、刀。刀の中でも木刀は比較的制作が簡単そうに思える。本当に日本刀そのものの切れ味を持ってしまうと大変なことになりそうな気配がするが、そこは工夫でどうにかできるはず。

 次に考えるのは、冒険者としての見栄。

 実里自身は本来積極的に目立とうとはしないのだが、覚えて貰って積極的にお仕事が貰えるようにするなら、目印が欲しい。

 ともすれば、普及している西洋剣は却下となる。故に刀という選択になったのだ。

 削ってはユヴェナに持たせて調整し、腰にあったI字型ジョイントを背中、右肩から斜めになるように移設して挟みこむ。元々そこに挟まれていたアーミーナイフは右腿のジョイントに移された。

「一つ目……」

 実里は完成を静かに喜び、ふと窓を見る。

 気が付けば蝋燭も半分以上減り、窓から見えていた町篝火も消えている。

 時間という危機感を覚えたのか、慌てて枝を小指ほどの長さにいくつか切りそろえ、まとめて急ぎヤスリを使って端の方で斜めに溝を掘っていくのであった。



第十二章 朝


「ミノリー!! 朝だぞー!!」

 そんな大声と扉がガンガンと打たれる音で、実里はもぞりとベッドの中で身をよじった。

「ふぁ……ねむい……」

 そう言いながら起き出し、一つ声をかけてから窓を開ける。

 空は白みを帯びてきており、これからお仕事だぞと語りかけてきている。

 机の上にはユヴェナが立っており、その足下には加工した木の枝が散乱していた。

 どうやら蝋燭の残りがもうないことに気が付かず、作業中に消えてしまい、真っ暗闇の中手探りでベッドに潜り込んだようだ。


 実里は手櫛で軽く髪を整え、扉を開けた。

「おはよぅ、シルヴィさん」

「遅いぞ、そんなんだと朝飯食べ損ねるぞ?さっさと部屋をでる準備しな?」

 その指摘に慌てた実里はすぐに出立の準備をして部屋を出た。


 皿をもって朝食を食べている二人を見て昨日の朝食時のことを思い出す。

 昨日の朝食時、少し遅れて実里が酒場に降りると、現代日本人にはあまり見慣れない食事風景が広がっていた。

「おまたせー……何してるの?」

「食べているだけだが?」

 酒場で二人を見た実里は疑問符を浮かべていた。

 確かに申告通り本人達はただ食事しているだけなのだが、その姿は椅子を引いて体をできるだけテーブルから離し、両肘を付いてホットドッグらしきもの食べているのだ。

「あそこで受け取れますからね」

 シャーリーも同じ姿で食べつつ、顔を向けた先には、山のように積んだ皿と深い鍋に挟まれた給仕がいた。

 実里が行くと、手際よく皿を渡され、トングで鍋から引っ張り出したホットドッグらしきものがべしゃりと音を立てて皿に載せられた。そしてその上にマスタードを一閃。

 あまりの手際に感心しながらも、ホットドッグが出してはならないような音に内心引きつつ、感謝を述べて二人の元に戻った。

 見た目は昨日の夜食べた黒パンに切り込みを入れ、太い腸詰めが一本挟み込まれている。

 ただ、昨日食べたパンはスープでふやかさないと食べられないような硬さだったが、このパンはふにゃふにゃである。

 とりあえず掴まなければ食べられないので、何かありそうだと予感しながら触ると、パンから汁が溢れ出てきた。

 ビビる実里だが、それと同時に二人がどうしてあの体勢で食べていたのかも理解してしまう。

 皿ごと近づけて、パンの上から二本の指で優しく持ち上げてまずは一口。

 相変わらず濃い味わいである。パンはもうジュクジュクだが、腸詰めがパキンと良い歯ごたえを出してくれる。そして、問題のパンが含んでいる汁だが、ベースは昨日のスープだろう。それに動物性の旨味か何かが追加されているような気がする。

「頭いいですね、ミノリ。お皿を持って食べるという発想はありませんでした」

 そう言われて実里は改めて自分と二人の姿を見比べる。

 実里は皿に汁溜まりがあり、汚しているのは手と口周りのみ。対して二人は、皿には最初に載せていたよと知らせる程度の汁が付いているだけで、パンを掴んでいた両手から肘先まで伝い、テーブルに溜まった汁が床に滴り落ちていた。

 後始末に必要な手間の差は歴然である。

 今日の二人は、昨日とは違って皿を持って必要以上に汚さないように食べている。というか、周りを見渡すと昨日はべちゃべちゃに汚して食べていた他の冒険者たちも同じように皿をもって食べている。


 食事を済ませた三人はそのまま冒険者ギルドへと向かう。

 その道中は昨日の夕刻と比べて活気に溢れていて、人々のやる気が持って津波のように押し寄せてきて気圧されそうになるほどだ。

 ギルドの中も非常に賑やかである。

 朝早いと言うこともあり掲示板の前では依頼確保のバトルロワイヤルが繰り広げられていた。シャーリーもその中だ。昨日はシルヴィが依頼を取りに行ったらしく、交代制の様だ。どうせ常設依頼を受けるのになぜ参加するのか尋ねると、情報収集も兼ねていると答えが返ってきた。

「昨日は初日だったからこの光景を見せないようにしたが、今日からは見慣れてくれ。そのうち参加してもらうから覚悟するように」

 そう語るシルヴィの目は、どこか遠いところを眺めているような気がした。



 第十三章 初めてのお使い


 依頼争奪バトルロワイヤルが落ち着き、残った依頼を三人で眺める。

 見ているのは錫ランクで売れ残っている依頼だ。

 眺めている限り、討伐系・採取系は悉く売り切れているようで、残っているのは『町のお使い系』という不人気の依頼ばかりだ。

 それもそのはず。お使い系は前者二つに比べて昇格のための指標の一つである評価ポイントは高めにもらえるのだが、報酬が安い、更にほとんどの依頼期限は当日のみという短いものが多いのだ。

 それをシルヴィは3つほど吟味して引っ剥がし、一つの丸テーブルに陣取った。

「ミノリ、今日はこれを頼みたい」

 そう言い、丸テーブルに依頼表を並べていく。

 それもただ横に並べるだけでなく、テーブル全体を使って意図的な場所に置いていく。そして、最後に冒険者証をテーブルの中央から外れた所に置いた。

「ここが冒険者ギルド。で、テーブル全体がこのカムレだ」

 そう前置きして説明が始まる。

 実里には町にも慣れてもらいたいとのことで、依頼内容は昨日の採取系とは違い、町のお店に配達品を届けると言うものだ。

 さしずめ、町内一週配達マラソンといったところか。

 そして、依頼書が置かれた場所が依頼先という名の中継地と。


 実里は依頼書をまとめて受付に提出する。街中であり、採取系と違って教えることも無いからと二人はざっくりとした合流点を実里に伝えてさっさと狩りに行ってしまった。


 受付から預かったのは、受領証明書を三通、抱えるほどの小包が二つ。そして、手紙が一通だ。あと、地図を借りることをすすめられたので、地図も借りた。

 幸い小包は見た目の割に軽く、二つ抱えて運ぶことは問題なさそうだ。しかし、近い順で運ぶとなると、最初はお手紙の配達先だ。そうなると、最後まで小包を持って移動することになる。

 どっちの方がいいのかなとしばらく考えたが、昨日のホワイトウルフ戦でユヴェナのアシストに頼るだけでなく自分自身のことも鍛えないとと思い至ったばかり。

 彼女は最初の距離が近い順で巡ることを決め、気合いを入れて配達に繰り出したのだった。


 十分後。町には息切れしながらも荷物抱えて走る彼女の姿があった。

 最初の手紙配達は終わっているのだが、その時には既に息切れしかけていたのだ。

 それもそのはず。彼女はここに来るまでは一般的な女子高生だったのである。しかもプラモデルが趣味というインドア派。ジョギング程度の速度とはいえユヴェナのアシストがなければ中々辛いものがある。

 途中歩き休憩を入れつつジョギングで配達する。

 歩き休憩の時、実里を見る町の人の目線が白いような気がするが、気のせいだと決めつけて先を進む。というか気のせいである。町の人々はむしろ、明らかに駆け出し冒険者である実里を温かい目で見守っていた。

 しかし、似たような町並み、気が付けば方角が変わっている通り。それらが合わさって実里を迷わせていた。地図は、軍事機密の都合上なのか簡易的過ぎてほとんど役に立たなかった。

 一昨日は名ばかりの迷子だったが、今日は名実ともに迷子となってしまった。

 すれ違う人に片っ端から道を尋ねながらもなんとか配達先にたどり着こうとする実里であった。


「届けてくれてありがとう」

「ありがとうございましたー」

 最後の店、薬屋だろうか。そこに荷物を届けて、ギルドへの道を急ぐ。


 ところで、実里自身にも言えることではあるが、シャーリーとシルヴィの二人が少しでもお金をと、常設依頼(フリーハント)しているのは、一昨日の報酬絡みが関係あったりするのだ。

 

 そのあたりを説明すると、今回泊まった宿は、素泊まりが銀貨三枚。食事付きで銀貨五枚。

 そして、実里が素材換金取り分で六割として貰ったのが銀貨七枚だ。

 二人はその残りとあわせて、依頼報酬もあるのだが、それについても、致し方のない事情とそれを証明する証言と証拠があるとは言え、彼女たちが討伐したわけではないということで助太刀の手際についての評価こそもらえたものの、報酬額は大幅に減額されたらしく、鉄級にイロが付いた程度の報酬しか貰えなかったと口にしていた。

 ちなみに、実里はまだ知らないが、ホワイトウルフ討伐は本来銀級依頼であり、彼女たちが討伐に成功していたら銀級昇格というのはそういう事情によるものである。


「お疲れ様でした。報酬です」

 昨日とは違う受付嬢から銀貨一枚、銅貨五枚という報酬を受け取る。

 そして、今一度常設依頼(フリーハント)に関してのルールを確認し、教えてくれた嬢にお礼を言ってから外に出て行く。

 日差しはまだ天頂に差し掛かろうというところか。

 門から歩いてほぼ十分の距離にあるのが冒険者ギルドだ。そこを開始地点として早朝から半周程回ってきたわけだが、本来の移動距離を考えると時間がかかり過ぎである。実里は自分が思っている以上に迷っていたようだ。

 彼女は露天で串肉を一本買い食いしつつ、合流地点へと向かうのであった。



第十四章 通信


 実里は合流するその道中、ユヴェナを身に纏い、手ごろな枝を一本拾ってはトスして昨夜の作品による試し斬りを行う。

 確かに斬りつけた時の音は木と木を当てた音だ。しかし、その断面は刃物で斬られたようにきれいな断面を見せている。

 予想通りと満足した実里。夜遅くまで頑張った甲斐があるというものだ。


「このあたりかな?」

 実里が集合場所と聞いた所──昨日出会った場所──に着くが、誰もいない。恐らく森の中で狩りをしているのだろう。

「森の中かぁ……刀当てちゃいそう。うーん」

 どう攻撃しようか、イメージトレーニングしながら唸る実里。

「サツタさーん、きこえるー?」

『どうしました?』

 虚空に言葉を乗せると、耳にサツタの声が流れてくる。

「森の中で戦うことになったんだけど、リーチがあって取り回しが良くて、扱いやすい、そんなの考えていたんだけど。どうしても拳銃しか出てこなくて、流石に作ったら反則ってかダメだよね? 模型でも」

『確かに文明レベルから考えれば反則ですね。ですが一応上に聞いてみます』

 中世。確かにこの時期には、実里の世界では銃自体は存在している。しかし、それは銃身の先から弾を込める先込式で、単発式。銃身こそ長いものの、後世のライフルより精度も悪く射程も短い代物だ。

 それが銃というものである時代に、ポケットに隠せて連射できて、片手で扱えるというトンデモ品を持ち込もうとしているのだ。

 銃の歴史を知らない実里ではあるが、それでもおかしいとは思ったため、サツタにダメ元で確認を取ったのだ。

『許可取れました』

「あっさり!?」

 サツタが伺いを立てると言ってから体感五分以内。刈られた草の上に座り、指に乗った蟻を眺めていたら許可が下りた事に驚く実里だった。

『その世界の管理者によれば、特にその国では『それを思いつけなかったのが悪い』で済ませられるそうです』

「それでいいの!?」

 思わず大声で返事をする実里パート二。

 端から見れば、突然叫び出すただの不審者である。幸いな事に、周辺には誰もいない。


『ところで、テレメトリが受信できないのですが、ヘッドギアは気に入らなかったですか?』

 しばらく会話した後、サツタからそんな質問が飛んできて、疑問符を浮かべる実里。

「てれ……めとり?」

『はい、そちらのヘッドギアにケースを通して、ARを利用したHMD(情報表示)等の機能が使えるようになっているのです。そのデータを私の方でも確認できる一種のネットワークです』

 説明を聞いて『当所』でユヴェナを組み立てた時の事を思い出してみるが、ヘッドギアなどあった記憶はない。

「んーー?? 明らかに別商品ってわかるアーミーナイフなら入っていましたけど、頭……髪パーツはこれしか無かったですね。不要パーツも全部切り出しましたし、組み立て書にも書いていませんでしたよ?」

 その事実を聞かされたサツタが深い深いため息を吐いたのが通信越しに聞こえ、『開発課に問い合わせておきます』と呆れた声が返ってきた。

 

 今の会話でふと実里は疑問に思ったことが一つあるので聞いてみることにした。

「あの、UIが見えないって言っていたけど、昨日はどうやって周囲を見るって手伝ってくれたの?」

『それはですね、準備期間中に偵察衛星を用意していたからですよ』

 既に反則品を使っていたのがここにいた。

「じゃあ森の中だとお願いできなさそうだねー」

 あえてスルーして気楽に、でも残念そうに助力を受けられない事を嘆く。

『それはこちらのミスですので、申し訳ありません。ただ……』

「ただ?」

『今お手伝いできることと言えば、三百メートル先の街道側で仲間の二人が待っているのが見えますよ』

 訪れる沈黙。固まる実里。

「それは真っ先に言ってーーーっ!!」

 数秒後、我に返った実里は叫びながらかけだしたのだった。


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