表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2話

 第五章 遭遇


 胸ほどまでのある高さの草が生える道無き草原を歩く実里。

 目印は何もないのだが、転移直後にサツタに言われた通りの方向に歩んでいる。その先にはちらりと森が見えているが、森に入るわけではないらしい。

 草をかきわけつつ歩き進めることしばし。植生が変わったようにも見えないのに、草原の高さが踝ほどまで刈り込まれていた。その先目算で約二百メートル程か。刈り込まれた草原の先には踏み固められた土でできた道のようなものが左右に伸び、その向こうはこちら側と同じように二百メートルほど草原が刈り込まれている。そのさらに向こうは、遠くから見えていた森が広がっている。

 野盗の襲撃対策か、野生動物対策でそうしているのかもしれない。


 人影はない。元から人通りが少ない道なのかもしれない。

 実里は堂々と道に出て、行き先を確認する。

 出てきて左手側は城塞らしきもの。右手側は地平線。どちらも森に沿うようにして延びている。

 彼女は迷うことなく左へ進み、人がいるであろう場所に向かっていく。


 しばらくすると、突然森の方から草をかき分ける音が聞こえ、立ち止まって身構える実里。

 そのまま警戒し続けるが、何も出てくる気配がなく、気を緩めて歩み出そうとした瞬間。

 白い物体が飛び出してきた。

 何かあればすぐに呼ぶと心構えしていたのが功を奏したか、咄嗟にユヴェナの名を呼び、身に纏う。僅かに反応が遅れるも、いきなり噛まれたなどという致命的な事までにはいたらなかった。

 腰のウェポンハンガーからアーミーナイフを抜き、構える。

 対峙する相手は白い毛皮に包まれた大物の狼。体高は実里の腹程まである。それは実里の隙を窺おうと唸りながら僅かに身を落としている。

 それに比べ、彼女の目は驚きに満ち、構えが緩む。

「シロ……?」

 彼女が呼んだ名は、まだ幼い頃共に生活し、寿命を全うしたホワイトシェパードの愛犬。不思議なことにその姿が被っていたのだ。


 だが、白狼はそんな事知ったことではない。

 構えが緩んだのを見逃さず、一気に距離を詰めにかかる。

 慌てて実里は大きく動いて避け、ナイフを向けるが、躊躇いが見える。

『ひょっろひょっと!んくっ、いきなり戦闘ですか!?』

「ひゃうっ!」

 突然耳に届くサツタの声。最初くぐもっていたのは何かを食べていたのだろう。

 声に驚いて身を跳ねさせる実里。

 チャンスとばかり飛びかかる白狼。

 実里は咄嗟にナイフを振るう。ビギナーズラックと言うべきか、運良くナイフは爪に当たり、受け流す格好となった。

『驚かせてすみません。周辺はこちらで確認します。目の前の敵に集中してください』

 サツタが再び通信を入れるが、実里は声を出して応答する事なく、小さく頷くのみ。

 白狼は静かに実里の周囲を周り、様子を窺っていた。



 第六章 戦闘


 白狼と遭遇してしばらく。事態は膠着していた。

 白狼が距離を詰めてくるのをナイフで追い払おうとするも、愛犬の姿がフラッシュバックして動きが止まるのをフェイントと勘違いしたのか、白狼が距離を離したりと牽制が続く。時間が進むにつれ、互いの攻撃は全てかわしきれず、双方共に生傷を無数に付けている。

 実里は戦いながらも自身の違和感に気がつくが、すぐに頭から追い出した。

 

『後方、人の反応二つ確認しました。まだ戦闘には気づかれていないようです』

 サツタからの報告が飛んでくる。

 人だからといって、味方であるという保証もないのだ。

 実里は初めて自分から、位置取りを調整するために動く。白狼を真似て、相手を中心に時計回りに、弧を描くように。そして、先まで背を向けていた方を正面に捉えるように。

 これで人が来たときに相手の初動が見えるだろう。

 と思っても、思惑通りに進まないのが現実。

 足を止めたのをいいことに、白狼が大口を開け、喉元を噛み切らんと飛びかかる。

 実里はとっさに左へ回避しつつ、ナイフを振るう。

 それは脇口辺りの毛皮と肉をわずかに切り裂き、白狼がついに悲鳴をあげる。浅いとはいえ、今までと比べれば、一番の深手だ。


 これを機に状況が動き出した。

 サツタから、人の反応が急速接近してきたという警告。

 白狼が怒ったのか、本気出したのか、明確な攻撃体勢。

 そして実里は先の回避行動から立て直している最中だ。


 白狼がまた攻撃にでる。しかも、先程より迅く、二度のフェイントを絡めて。

 一度までなら、直感と先程までの戦いで対応していただろう。しかし、二度目のフェイントには引っ掛かり、本命のとびかかりを避けきれずに押し倒されてしまった。幸いにも無我夢中で振ったアーミーナイフが?みつき攻撃を防いだため、致命傷は受けずに済んでいる。

 とはいえ、白狼はこのままナイフをへし折ろうと力を込め、実里も喰われまいとなんとかナイフに力を込め続けるという鍔迫り合い状態。

 ただし、実里は腰のウェポンハンガーのせいで無理な体勢を取らされている。

 お互いどちらかが力負けするか。

 感覚としては長い時間だったのだろうか。ナイフを握る感覚が徐々に失われていく。

 もう限界かと感じ始めたその時、白狼が悲鳴を上げてのけぞった。

「ごめんなさい」

 実里は最後の力を振り絞り、無防備となった顎の裏から首を狙い、突き刺した。



第七章 邂逅


 白狼の下敷きから脱出した実里は、震える体を止められないまま、何が起きたのかを確認した。

 見れば、白狼の脇腹に一メートルはありそうな、巨大な氷柱が突き刺さっている。これでのけぞったのだろう。

 一度右腿のウェポンハンガーにアーミーナイフを挟み、その氷柱が飛んできたであろう方向へと向いた。

「おーーい!大丈夫かー!」

 その方向から低い女声と共に金属鎧をまとって、両手斧を担いだ女性が走りながら手を振ってきた。

 もう一人、こちらは淡い水色のローブ姿をした女性もこちらに走ってきている。恐らく氷柱を放った本人だろう。が、手前の金属鎧の女性に比べて速度が遅く、どんどん遅れている。

 絶対ではないにしろ、一見悪い人ではなさそうな二人を見て一安心した実里は、深く深く息を吐き、大きく一度だけ手を振った。


 二人が来るまで、実里は右手を握っては開いた。

 思うのは、戦闘中に感じた違和感。

 それは、身体能力の向上、装備の運用サポートの二つ。

 彼女の身体能力は、元の学校、クラスの中でもド真ん中。ザ・平均値。なんなら日本全国規模の測定平均値と全く一緒だ。

 それでいて、先の白狼の攻撃をかわし、反撃も入れ、鍔迫り合いもこなして見せた。自身の常識と比べても乖離がある。

 次に、アーミーナイフの取り扱い。

 彼女は刃物を扱うと言っても、普段は超小型に分類されるデザインナイフ。大きくても調理用の一般的な包丁を扱ってきた程度だ。

 軍用ナイフどころか、サバイバルナイフすら持ったことはない。

 それでも扱えていた。最後の突きはともかく、それまでは動く敵に傷を与えていたのだ。

 よって、ユヴェナがサポートしてくれていたのではないのかと思うのも自然かもしれない。


 実里が思いに耽っていると、金属鎧の女性と、それに少し遅れてローブ姿の女性も実里の元にたどり着いた。

 金属鎧の女性の姿は見た感じ二十代後半か。実里より頭二つ身長が高い。鍛え上げられたという言葉がしっくりくるほど筋肉質な体が、鎧越しでもわかるほどだ。燃え上がるような赤い髪は首筋辺りで切りそろえられている。また、赤い瞳を持ち、精悍という言葉が似合う顔つきだ。

 対して淡い水色のローブの女性は、身長は相方の目の高さ程度に低く、水色のウェーブがかかった髪がフードから漏れている。

 こちらは蒼い瞳で、目尻が下がっていることから穏やかそうな印象をうける。ローブのせいで体格はよくわからないが、杖を持つ手から推測するに、細身なのだろうと思える。


「良く無事だったな。押し倒されたのが見えたときは焦ったよ」

 金属鎧の女性は実里の二の腕をぽんと軽く叩く。

「あはは、私もダメかと思いました……」

 実里は目線をそらし、頬を中指で掻く。とはいえ、まだ彼女の中では盗賊の線を捨てておらず、内心警戒している。

「これ、ホワイトウルフだよね。私たちが受けた依頼の」

 ローブの女性が実里の事よりも倒された白狼……ホワイトウルフをじっくり観察してぽつりと言葉を紡いだ。

 実里はその言葉に思わず驚き振り向き、鎧の女性は笑いながら「獲物取られたかー」と額に手を置きつつ天を仰いでいる。


「あー……と、まずはあたしたちか。あたしはシルヴィ。戦士だ。こっちが──」

「シャーリーです。魔法使いをしています」

 実里に名前を聞こうとした戦士、シルヴィと魔法使いのシャーリーは順に自己紹介をする。それと同時に懐からカードを掲示した。

 見覚えのない文字だけど読める。これも自動翻訳機の影響だろう。

 そのカードには、『冒険者証』とあり、名前とランクと思わしき場所に『銅』とかかれている。

「私は実里といいます。えっと、冒険者という意味では、今はモグリになるのかな? ただの迷い人です」

 実里の自己紹介に、疑問を持った二人はどういう事だと追及する。

 それに答えた内容としては、数人と旅をしていたが、魔物に襲われて散り散りに。身分証なども馬車に置いていたが、その馬車がどこに行ったのかもわからず、放浪していたらここに出てきたと。

 また、場所も把握しないできたから、今どこの国か、どの人里の近くなのかすらもわからないと答えた。

 流石にバカ正直に『異世界から来ましたー』なんて言っても信用してもらえる訳がない。なので、ひとまずは先の言い訳をホワイトウルフと遭遇する前に考えていたのだ。

 異世界系の作品をいくつか読んでおいて良かったと心の底から思う彼女である。

 もっとも、最終的に自分が選択したとはいえ、読んでいた時点の実里は自分自身が異世界に飛ぶとは夢にも思っていなかったが。


 実里の話を聞いて小声で相談していた二人は『とりあえず聞きたいことは飲み込む』で決着したようで、向き直る。

「どうする?あたし達はこれの事で一度帰らないといけないのでな。一緒にくるか?」

 シルヴィが親指をホワイトウルフに向けながら提案をする。

 実里は即答で受け、試しに。と声をかけてウルフを持ち上げてみる。

 結構重い。でも、強化された筋力のお陰で運べなくは無さそうだ。

「これ、売れたりするの?」

 少し考えて二人に聞くと、即座に頷かれた。しかし一番価値のある毛皮が切り傷だらけでボロボロだから、丸々持って行かないとそんなにお金にならないかもしれない。とのことだ。

「じゃあ、やられるのを助けてくれた、色々教えてくれる、町までの護衛、町のこと教えてもらう、冒険者登録できるならお手伝いしてもらう、場合によっては代わりに売ってくれる。これで、売った分の二割が私。残りを報酬として二人に。で、だめかな?」

 指折りしながらお願いする事を列挙し、上目遣いでお願いする実里。

 二人は顔を合わせて頷き、シャーリーが微笑みながら実里の両肩に手を添えた。

「その後、わたし達のパーティーに入ってくれるなら、そっちが六割でいいですよ」

「ミノリの装備を調えないとな!」

 間髪入れずに続いたシルヴィの言葉で、今の姿の詳細を思い出し、赤面する実里だった。


第八章 冒険者ギルド


 話がまとまり、実里はホワイトウルフの四肢をどうにか腰のウェポンハンガーに挟み込み、ユヴェナの筋力を借りてもよたよたと立ち上がる。

 端から見れば、ウルフの四肢が風呂敷の端の部分に見え、ぱっと見では白い荷物の袋を腰からぶら下げているように見えるだろう。

 冒険者二人に少し助けてもらいつつ町へと歩いて行く。

 そんな状況にも関わらず実里は素材素材とつぶやきながら木の枝を集めようとするものだから、シルヴィとシャーリーは実里には歩くことに専念させ、代わりに実里が欲しいといった枝などを集めてくれている。個人で欲しいものを手伝って貰って、申し訳ない気持ちになる実里である。


 実里の素材集め以外に邪魔が入ることは無く、感覚として30分ほど歩いただろうか。彼女の前には高くそびえ立つ石製の防壁があった。

 目の前にある門には人が数人並んでいる。シルヴィによるとチェックがあるらしい。

 並ぶことしばし、実里達の順番となるが、シャーリーが門番と少し話し込み、何かを渡すとそのまま門を通された。

 振り返りながら疑問符を浮かべる実里だが、シルヴィによるとシャーリーが一括で処理をしてくれたようだ。そのかわり、早めに冒険者ギルドで登録を済ませないといけないことになったが、まだ日暮れには時間がある。今日中には解決するかもしれないと気楽に考える実里であった。

 しかし、よくよく町を見てみると、何か違和感を感じる。

 整備された石畳。木製や石材製の建築物。一定間隔で並ぶ街灯ならぬ街篝火。一見何も違和感を感じるような要素はないのだが、何かが足りないと感じる。でも何かはわからない。

 なにかモヤモヤしつつも、連れてこられたのは冒険者ギルド。ここでは素材の買い取りなどもしているようだ。

 雰囲気としては、ウェスタンの酒場という物に近いのだろうか。木製のテーブルにカウンター。広めのホールには丸テーブルもいくつか並び、囲うように椅子もあるので、パーティで相談するためのものにも見える。もっとも、大抵の冒険者たちは出払っているのか依頼を受け損ねたらしき冒険者たちが数人、疎らに?んだくれているくらいなのだが。

 シャーリーが先んじて受付に話を通し、彼女が対応をしている間にずっと腰にぶら下がっていたホワイトウルフの四肢を抜いて前足を抱え、いつでも差し出せるようにしている。

「なるほど、この子が運悪く遭遇して倒してしまったと」

「はい、それで、諸事情あって身分を示す物が欲しいらしくて。登録してくれたらわたし達のパーティにそのまま入ってくれるとの話です」

 対応している受付は、ウェーブがかったセミロングの黒髪。その頭頂付近では猫耳がせわしなくピコピコ動いていてなんだか可愛らしい。

 しかし、やや肉付きが良さそうであまりスマートとは言い難い体型かもしれない。

 

 受付嬢は一通り聞いた後、シルヴィにホワイトウルフを渡して売却受付へいってもらう事にし、残った二人はここで実里の冒険者登録をすることに。シャーリーが残ったのは実里の代筆者でもあり、パーティー受付で必要となるからだ。

 つつがなく実里に必要な事を聞き取り、シャーリーが書き込んでいく。

「ミノリ?役職は軽業師でいいの?」

「役職?えーっと、途中で変えられるの?」

 実里の衣装でそう判断した彼女は念のために聞き、その答えを質問で返したため、必然と受付嬢に目線が向かう。

「えーと、変えたと言う人は見ていないですね。今調べてきますね」

 調べてこようとする受付嬢だが、実里は慌てて引き止めた。

「し、調べるくらいなら、決めちゃいますよ! え、えーと、私の装備が充実してきたら色々できるから……マルチロール……だったかな?それでお願いします」

『まるちろーる?』

 聞き慣れない実里の言葉に二人は首を傾げた。


「えっとですね、皆さんの知っている役職って、いくつかあるじゃないですか。盾の守りとか、弓で遠距離とか、魔法が使えるとか。その役職をロールって言い換えていているんです。それで、マルチって言うのは『複数の』という意味なので、装備さえあれば、色々な事を少しづつできます。極端な話だと大きな盾で敵を引きつけて味方を守りながら、スキを見て後衛を遠距離で攻撃したり。その代わり、専門にやってる本職には負けますよ?だから、よく言えば、万能型。悪く言えば……器用貧乏?」


 実里の説明で何か得心が行ったのか、しきりに周りから『魔法剣士』の言葉が出てくる。

 彼女はその役職の人に申し訳なく思いながらも「魔法は使えないですけど、装備さえ整えばいろんな事ができます」と宣言した。


 その後は特に何もなく、最後に水晶に手を乗せて。つつがなく発行してもらった冒険者証を実里はにやにやとしながら持っていた。


名前  ミノリ

年齢  17

役職  マルチロール

ランク 錫


 ただそれだけが書かれたカードである。それでも、うれしいものはうれしいのだ。

 

 この辺りでシルヴィが小さい皮袋を手で跳ねさせながら戻ってくる。換金が終わったようだ。

 二人の近くのテーブルに陣取り、手際よく皮袋に入っていたお金を分けていく。

「ほら、ミノリの分だ」

「ありがとうご……あっ」

 シルヴィが仕分けたお金を受け取ろうとして、実里は動きを止めた。

 そして、実里から赤茶の光が弾け、動きやすそうで大胆な服装の姿というユヴェナの姿から、どこにでもいそうな旅人の姿となった事に周りは声を上げるほど驚いた。

「戦闘のための姿だったの忘れてたはははは……」

 後頭部に片手を置いて笑う実里だが、その後ろから黒い雰囲気が漂ってくる。

「ミノリさん、本人確認の水晶に影響あると思いますので。もう一度お願いしますね」

「…………ハイ」

 受付嬢の、仕事を増やしやがってと言う笑顔に隠された低い声で実里に声を掛け、実里は冷や汗をかくしか無かった。


 結果再発行となり、しこたま怒られる。

 実時間はそんなにかかっていないのだが、あまり知らぬ人からの叱責ということで体感では数時間怒られ続けた気持を味わった実里は、言いようのない精神的疲労を抱えながら二人と共に町へと出向く。

 

 第九章 城塞町カムレ


 先ほどは重量物を運んでいてあまり周囲を見る余裕のなかった実里だったが、解放された今は心落ち着けて改めて町を見渡している。

 建物は石製の方が主流のようで、宿屋など商売が絡む建物は高いと言ってもせいぜい三階層、民家は平屋の方が多そうだ。

 数の少ない木製は隣に厩舎も併設されていることが多いので、生き物がらみだろうと予想ができる。


 人の様子に関しては、活気がある方か。

 所々で町人が井戸端会議に花を咲かせているようだ。

 ちょっとした広場では大道芸人が数多のナイフによるジャグリングを披露し、子ども達が木の武器を持ってチャンバラを繰り広げている。

 ただ目の錯覚か、子供にしてはその武器の扱いが、冒険者顔負けの鋭さを持っているのは気のせいだろうか。


 その広場で実里は抱いていた違和感に気が付いた。

 街路樹や花壇がない。と。

 窓先で植物を育てていたり、街路樹で町を彩っていることもない。よくよく思えば道の端に転がるゴミでも、厩舎から風で飛んだのだろう藁や飼料程度しか植物性のものを見ない。

 もしここが戦争の最前線近くなら理解できるが、町の様子から見ても、そうでもなさそうだ。

「活気はあるけど、なんだかものさびしいね」

 ぽつりと実里が呟いた。

「何かあったのか?」

 シルヴィが言葉を拾ったのか、顔をのぞき込んでくる。

「あー……うぅん、なんでもぎゅっ」

 郷に入れば郷に従え。なんて言葉がある。それに従って変なことを言わないようにと辞退しようとすれば、片手で両の頬を鷲掴みにされた。

「ミノリ。あたし達はもうチームだ。何か気になる事があれば遠慮なく言いな。戦場だとそれが命取りだ。迷子? 素人? 上等だ。むしろ、そういう話を聞いてみたいんだ」

 シルヴィの話を聞いて鷲掴みにされながらも頷いた実里は、先ほど思った事を話した。


「いや、植物なら外に行けばあるじゃん」

「えぇ、なぜ植物を町で育てるって考えが出るのでしょう」

 悲しいことに二人の反応はドライだった。

「だよね、そうだよね。見た感じそういう歴史持っていそうだもんね……」

 もし、これがコミックやアニメだと、顔を背けながら閉じた糸目から滝のような涙を流しているような表情を実里はとっていた。

 薬草やハーブを育てることはないのかと尋ねてみれば、そのたぐいの植物は匂いがひどいものやうっかり触ると危険なものもあるため、管理された場所で栽培されているようだ。見目麗しい花を愛でる、などという文化もないようで、街中を植物が彩ることはないらしい。


 そんな話も交えつつ、最初に連れてこられたのは、木目調の金属が美しい武具で身を固めた衛兵達が詰めている詰所。の向かいにある、マーシャの宿屋。

 衛兵が常に近くに居るため治安もよく、女性も安心と評判だそうだ。

 そこで部屋を取り、次に向かったのは露店市場。

 公的に露店販売用と割り振られた専用の大通り。車道で考えると二車線分ほどある幅だろうか。

 整然と様々な露店が並び、道と露天区域がしっかり区分けされている。が、もう日差しも今日のお仕事は終わりと言わんばかりに空の端を赤く染め始めたためか、撤収を始めている商人も出てきている。

 こちらの区域も衛兵達が目を光らせており、治安は良さそうである。

 実里はそういった露店を軽く紹介されつつ、保存食等これからの冒険者稼業において必要な物品の店主に紹介してもらう。時間が時間だったため、あまり物を安く買えたとシルヴィたちは嬉しそうにしていた。

 そして実里は露店の中に生地や裁縫道具などを扱う店を見つけ、二人から若干優しい目を向けられながら裁縫道具と糸を購入した。


8千字をベースに書き続けていこうと思います。

更新する場合は、最初の話に合わせて、水曜日の6時半以降にしようかなと考えています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ