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1章ー6…荒んだ心に芽生えたもの







 「こんばんは。こんな所でお一人かしら?よろしければご一緒しても構わない?」

 にっこりと微笑んでリュドミラはミラにゆっくりと近づいた。


 「え?わ・・私ですか?」

 びくっと体を震わせるとミラは慌てたようにこちらを向いて返事をした。


 「えぇ。実は貴女とお話をしてみたかったの。私リュドミラ・シアンテと申しますわ。貴方のお名前をお聞きしてもよろしいかしら?」


 「あ・・私はミラ・アルテンドです・・」

 ミラはどうやらリュドミラが何者なのかわかっていないようだ。まだ貴族の状況を把握できていないのだろうか。


 「ミラ嬢とお呼びしても良いかしら?私のことはリュドミラで構わないわ。」

 

 「い・・いえ・・私はシアンテ令嬢と・・お呼び・・したいです。私のことはミラで・・構いません。」


 気まずそうに返事を返しているが、距離を置きたいわけではなさそうなので、にっこり微笑んだままリュドミラは話を続けることにした。


 「ありがとう。それじゃミラ嬢とお呼びするわね!実は貴女に謝りたいことがあってここにきたの。」


 「私に・・・ですか?」


 「えぇ。最近どこかのご令嬢たちに、シリル殿下とのことで文句を沢山言われていらっしゃらない?」


 リュドミラの言葉にミラは体をびくっと強張らせる。


 (・・・・・文句を言われているのね・・)


 「ごめんなさい。恐らくその令嬢方は、私を縦にして貴女に文句を言って憂さ晴らしでもしようと考えたのですわ。私の友人たちが貴女に悪態をついて本当にごめんなさい。」


 リュドミラは真摯に謝罪の言葉を伝えると、深々と頭を下げた。


 「え?!頭を上げてくださいっ!!何故シアンテ令嬢があやまるのですか?私に文句を言ったのは貴女ではないのに!」

 

 ミラは慌てながらも頭を下げるリュドミラを心から気遣っていることが伝わってきた。


 (優しい方なのね・・。)

 

 もっと嫌味な令嬢だったらどれだけ良かっただろう。でも流石というか、シリルが見つけた偽物のミラは、本物ではなくとも本物以上にとても素敵な女性に映ったなのだろうと思えた。


 「ありがとう。でも私とそのご令嬢たちが仲良くしていなければ、きっと貴女はそのご令嬢方に文句を言われなかったはずなのです。」


 「何故ですか?」

 不思議そうに尋ねるミラに、少し申し訳ないと思いつつも素直に告げる。


 「私、リュドミラ・シアンテは王命で定められたシリル殿下の婚約者だからです。」


 リュドミラの言葉にすぐに察したのか、みるみるうちにミラの表情は青ざめていた。


 「あ・・私・・ご・・ごめんな―――」


 「謝らなくてよいのです。シリル殿下が貴女を選んだのであれば、私は文句を言うつもりは一切ございませんわ。むしろミラ嬢が素敵な令嬢で良かったとすら思っているんです。」


 「そんな・・私は・・シアンテ令嬢を傷つけたはず・・ですよね? 」


 ミラは震えながらも申し訳なさそうに涙を堪えている。そして、私の目をしっかり見つめながら話してくれる。そんなミラがシリルの相手であることに嬉しささえ感じている。


 「いいえ。貴女がどういった経緯で、シリル殿下に見初められたのかは私は存じ上げませんけれど、シリル殿下の人を見る目を私は信じておりますわ。それに、じつは私とミラ嬢は仲間かもしれないのです。」

 にっこりと優しく微笑んで告げると、ミラはきょとんとした表情で私を見つめた。


 「それはどういった仲間なのですか?」


 「私、昔白色病を患っておりましたの。」


 「白色病ですか?!」


 リュドミラのカミングアウトにミラは驚きを隠せずにいた。


 「えぇ。幸運なことに10歳で完治しましたの。そのおかげで今はどこからどう見ても白色病には見えませんけれど、もしかしたらミラ嬢も同じ病を克服した方なのではないかしらと思ったのよ。」


 ミラの頬は紅潮し明らかに嬉しさが込み上げているのが見て取れるようにわかった。


 「はい。私もつい数か月前まで白色病を患っておりました。体はもう大丈夫なのですが、長年患っていたので色素の戻りは遅いようで、まだ全体的に色素が薄いですが・・まさかこのような場所で同じ病を患った方に出会えるなんて・・嬉しいです!」


 ミラがあまりにも嬉しそうに微笑んでくれたので、リュドミラも釣られて一緒に微笑えんでしまう。


 「貴族たちは白色病を忌み嫌うでしょう?嫌がらせなどうけていませんか?」


 「はい。・・その・・殿下が守って下さっているので・・大丈夫です。」


 遠慮がちに恥じらいながらも状況を語るミラを、羨ましいと思う反面可愛らしいとも思えた。


 「それは良かったわ。私は婚約者という名目上、貴方と公に仲良くしてしまうと余計他の令嬢から反感を買ってしまうでしょうから、人前では私からは声はかけませんけれど、私は貴女さえ良ければ仲良くなりたいわ。」


 「よ・・よいのですか?」


 「えぇ。たまにこうやって人のいないところでお話できたらとても嬉しいわ。

 私、貴女に隠し事はしたくないから言うのだけれど、シリル殿下のことはお慕いしているわ。結婚だってできる事ならしたい。これは本音よ。私の初恋の人だから。

 だけど、貴女ならシリル殿下の相手でも納得できる。これも今の私の本音よ。」


 自分の心の内ををさらけ出しミラを見つめると、涙を浮かべながら「ありがとうございます・・」彼女は微笑んで答えた。


それからほんの少しの間だけこれまでの事を二人は語り合った。


 ミラは16歳で、数か月前にサマステリアで養父のアルテンド伯爵の導きでシリル殿下に出会ったらしい。記憶をなくしているという事にしているようなのだが、それは養父にそのように言うように伝えろと言われたかららしい。嘘をつくことは良くないけれど、恐らくミラのこの性格ならばシリルは嘘だとわかってもミラを大切にするだろうと感じたので特にそこは追及しなかった。しかし、養父であるアルテンド伯爵は明らかな後ろめたいものが見え隠れしたので放置はできないだろうとは察した。


 養父に引き取られるまでは、サマステリアの白色病の患者の多く住む孤児院で過ごしたらしく、皆仲も良かったようで、養父が孤児院を守ってくれるという約束に感謝しているらしい。だから恩に報いたいと思いシリル殿下に会うことも決めたのだという。


 きっと根が優しくて明るい子なのだろう。たった少し話をしただけでもにこにことリュドミラに微笑みを返し、サマステリアの仲間たちを思い出すような温かさまで感じる。


 「ミラ嬢。沢山お話できて本当に嬉しかったわ。こんなに心が満たされたのは久方ぶりよ。本当にありがとう。」


 リュドミラの心にずっと燻っていた、侯爵令嬢としてという矜持に縛られた”リュドミラ”はほんの一時ではあったが昔のミラに戻れたような気がしてそれが嬉しかった。


 「とんでもないです。私こそシアンテ令嬢とこんなにお話ができて、本当に本当に嬉しかったです。私も、貴女が殿下のお相手になるのなら喜んで祝福できます!」


 二人はくすくすと微笑み合うと名残惜しみながらも別れを告げて帰路についた。



 帰りの馬車の中、リュドミラは幼き頃のシリルを思い出していた。

 

 まだリュドミラは今のシリルの笑顔を見ることができていない。でもミラの前では間違いなく微笑んでいた。

 たとえシリルと結婚することが叶わなかったとしても、昔のように友人になれないものだろうか・・そんな淡い期待を胸に、ミラとの語り合った暖かい時間を思い出し、少しだけリュドミラの荒んで冷え切った心は温かい何かが芽生えたような気がしたのだった。












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