終章ー5…私、悪役令嬢になります!
「――・・・美しい麗人です!!・・こんなお姿を見ることができる機会が得られるなんて・・」
マリアはそれはもうウットリと時間を忘れて褒め続けている。
「それにしても殿下のお嬢様への愛重すぎますね。赤い外套とクラバットの装飾なんて誰が見ても殿下ですわ・・前回のドレスといい殿下の執念深さは並々ならぬものですね」
マリアの感嘆にリュドミラは苦笑いしかできないが、この正装は本当にカッコいいのにかわいい。外套私がいるのか?と思ったが、今夜は仲間内なので気にすることをやめて正装の美しさに酔いしれた。
――コンコンっ
「入っても良いかな?」
「どうぞ。」
入室したのはシリルだった。
彼は先日の夜会と同じ正装だが、きっと横に並べば見る人々はお互いの色を纏っているとすぐ気づくことだろう。
「――す・・素晴らしい!最高だ!神々しい!!ミラの男装は完璧だな!!それに・・・・」
こちらが挨拶する前に、シリルは物凄い速さでリュドミラの姿を褒めたたえ今も延々と独り言のように褒めたたえてくれている。
「・・殿下・・挨拶をさせていただくタイミングを失ってしまいましたわ。」
呆れながらシリルに話しかけるとシリルは首を横に振った。
このような場所で固い挨拶など必要ない。それにもう私はミラに篭絡されているのだ!気にするようなことではない!」
「―気にしてください。」
とんでもないことを口走るシリルにまだ夜会は始まっていない部屋にこもりたくなる。
シリルはその後もずっと横で褒め続けるのでリュドミラはスルーすることに決めた。
会場にはリナやエレイン商会の仲間たち、商店街でも仲良くしてくれていたオーナーたちが集まっていた。
皆リュドミラの正装に頬を赤く染めていた。
「・・なんだかその格好で殿下と二人並んでいると・・その・・あれだな・・すごい・・とにかく似合っているよ!」
ダッツはなんだかいつもと違い照れているようだった。
「ミラさんっ!!その姿本当に麗人の美しさですね!!これを見たらきっとカップル本を制作したくなる作家が増える事間違いないわ!!」
「リナ?」
「――リナ。もう勝手にグッズを作るよう促すんじゃないぞ!」
(???!!!)
「殿下?!リナ?!どうゆうこと?!」
含みのある言い方に嫌な予感がした。
「あれ、私の案なんです♡」
(――元凶いたっ!!)
「な・・なんてことを・・」
「ふふ♪だってあの熱量は他の何かがないと危なかったと思いますよ?だから、ああゆうご婦人が好きそうなカップル本とかグッズ作れば、お触りしようとする人たちを違うもので興奮させられるかなって♪」
(・・・あれのせいで気絶する人増えたような気がするけど???)
「な・・なんだか皆が口を開けばとんでもない事実が次から次に出てきそうね・・・」
シリルとリナはふふふと微笑むばかりだ。
(―この二人・・・なんか似てきた気がするのは気のせい??)
「・・そういえばグッズはちゃんと破棄してくれたんですよね?」
リュドミラは思い出しシリルに聞いた。
「え?私が持ってるよ?」
「!!!!!・・な・・あ・・あんな・・いかがわしい・・・そんなもの殿下が読むものじゃありませんっ!」
「それは駄目だな。あの本は例えリュドミラが男であったとしても結ばれるという貴重な本なんだ!他の奴には見せないが、廃棄なんて絶対しない。」
リュドミラは顔を真っ赤に染め上げて、言葉を吐き出してくても動揺して声が出せない。
「あぁ・・ミラは本当にかわいい・・こんな真っ赤に顔を染めて潤んだ瞳で見つめられたら部屋に閉じ込めて愛でたくなってしまうね・・・そうする?」
とんでもないお誘いにササっと後ずさりしてリュドミラはシリルから距離をとった。
「殿下!変なこと言うの・・や・・やめてくださいっ!!」
「そうです!殿下私にもカップル本ください!!殿下ばかりずるい!私が発案なんですよ?!」
「――リナ・・・そうじゃない・・・」
リナが助けてくれるのかと思いきや、リュドミラの腕に抱き着くと彼女までとんでもないことを言い出した。
(・・あんなもの見てどうするの・・・)
リュドミラは返返事を返せば返すほど、とんでもないことを言われるので頭が痛くなるのだった。
皆ダンスを踊ったりもしているが、皆思い思いに好きなようにダンスを楽しんでいて貴族のダンスとは全く違ったが、シリルは手を引いてダンスに誘ってくれた。
誘い方も貴族のマナーなどお構いなしだ。でもそれがなんだか心地よくて、私たちがダンスをはじめると皆ダンスを踊り始めた。まるで街のお祭りのよう。
きっと王都に戻ったらこんな楽しさは味わうことはできなくなるだろう。
リュドミラの心は楽しいのに少し心がズキンと痛んだ。
「ミラ?」
シリルがこちらを覗き込む。リュドミラの落ち込みを察したのだろうか?
「どうされました?」
「ん?なんとなく。見惚れているのは私だけなんて寂しいなとは思っているけど? 」
「・・そんなことないですよ。私だって殿下の美しい装いには目を奪われましたから。」
見上げながらシリルを見つめると一瞬体を震わせていたが嬉しそうに微笑んでリュドミラを抱きしめた。
「私はどこであってももう君を離さない。逃げたって捕まえる。ミラが幸せを感じる場所を作るから私を見ていて。」
耳元で囁く声音は、執着と愛情が含んだ美しい低音で耳にこれ以上ないほどの刺激を与えた。
「・・に・・げたりなんて・・しません!」
(殿下は私が寂しいとわかったのかな・・)
わざと煽るシリルの思惑をリュドミラは都合よく解釈することにした。
「殿下。私を自由に動けるように尽力してくださってありがとうございます。」
「リュドミラ?」
「―私、ずっと考えておりました。これからどんな生き方をしたいの・・と。
今まではシリル殿下に再会するために、貴族の令嬢としてシリル殿下の横に立っても誇れるように、理想の令嬢を追い求めました。でも、サマステリアに来て、自分の気持ちを吐き出して、多くの人たちと拘わって、この生き方が好きだと心から思えました。
しかし元々王都にいた時であっても、私は動きたいように動いていたと今は思います。リナを助けたいと思い令嬢に苦言を挟みました。自ら現場にまでおしかけましたし、令嬢たちとも原因追及のため沢山お話ししました。
ですが、それは今まで理想としていた令嬢の姿ではありませんでした。
他の令嬢たちにも、まるで悪役令嬢のようだと揶揄されていましたが、ずっと感じていたんです。
誰に何を言われても、自分は自分の信念の元動きたいのだと。貴族令嬢は良しと思わない事でも構わないと。王都にいた時ですら思っていたんです。
私、たとえ周りが私を令嬢らしくない悪役のような物言いだと思ったとしても構わないと思っています。ここにきて、より強くそう感じました。
殿下。私は王都に戻っても理想の貴族令嬢にはなれないでしょう。むしろ悪役のように、人の心を掌握する為ならいくらでも理想の令嬢らしからぬ行いをしてみせます。
そんな破天荒な私と未来の王の妻になる者として共に生きてくださいますか?」
リュドミラは始めて自分の考えを告白した。
「リュドミラ!私はそんな君が欲しい!君とならいくらでも困難に立ち向かえるよ。愛してる。」
二人は見つめ合いやっと心が繋がった。
―――そして私は悪役令嬢となった。




