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終章ー4…男装令嬢はおしまい?







 リストン辺境伯邸に戻ると、保護された子供たちの一時保護の場所が決まり、そちらに向けて馬車に乗り込もうとしているところだった。子供たちの中には走り出してしまった少女の姿もあり、リュドミラは安堵した。


 伯父が出迎えてくれて私たちを執務室へと呼び寄せた。部屋の中には、伯母もマリアもいた。


 「3人とも無事に戻れて何よりだったよ!おかえり!!」


 「伯父様!無事に子供たちが救い出せてよかったです。」


 リュドミラの言葉に伯父も肩の荷が下りたようで、本当に安心したように微笑んで頷いてくれた。


 「もうこの3か月は私も妻もマリアも気が気じゃなかったよ・・人気者なミラを守るのは本当に骨が折れた。」


 「?どういうことですか?」


 きょとんとするリュドミラにリナもシリルも苦笑いしている。


 (――私守られるような事してた???)





 「リュドミラ。君はここにきて早々心の傷を負ってまともな精神状況ではなかったからね、お前を守るために影でずっと数名護衛をさせていたのだけど、それはもう報告を受けるたびに肝が冷えたものだよ。


 路地裏には警戒心もなく入り込んで、吸い寄せられるようにやってくる輩たちを幾度となく護衛たちが捕縛して・・その役をシリル殿下が来てからは代わりにお前を守ってくれて私も少しは安心したけれど・・男だけじゃなく女性にまで何度襲われそうになっていたことか・・・」




 「――え?」


 リュドミラは聞いていることが全く理解できなかった。ここに来てから自由を謳歌していたのは、周りが守ってくれていただけで、治安が良くなったわけじゃなかったというのだろうか。


 思い出そうと思っても、確かにあの時のリュドミラは楽しく過ごしてはいたが現実逃避して、「男だから大丈夫!」と随分いい加減なことを言っていた気がする。

 

 しかも女性にも襲われかけたというのは全く身に覚えがなかった。道行く女性たちは常に一定距離から離れ、こちらに触れる事すらなかったから。


 「まさか・・・男装していても私は狙われていたのですか?」


 今知った風な言葉をハッとして伯父に言うと、今頃気づいたのか?とばかりに呆れたようにこめかみを抑えて項垂れた。


 「まぁ話さなかったからミラは知らなくて当然だったかもしれないけどね。サマステリアは殿下のお陰で、数年前から白色病のような白い髪、淡い瞳の女性が攫われることが幾度となくあったのだよ。


 この話は殿下から聞いているとは思うが、ミラはここにきて白色病のころと同じ容貌の男装を始めただろう?そのことで、【白色病らしい女性のような容姿】で美しいミラはどうやらターゲットにされていたらしい。何度も誘拐犯をうちの護衛が捕まえたものだよ・・。


 殿下が毎日傍にいてくれなかったら、いくら護衛がいても危険だったぞ?常日頃から狙われていたからな・・・おかげで大分治安は良くなったが、大切な姪に何かあったらと心配で一時は部屋に閉じ込めた方が良いのではと考えたほどだったよ。」




 語る伯父の姿は心から心配し、もしかしたら本当に部屋に閉じ込めようとしたこともあったかもしれない。リュドミラは感じた。




 「伯父様。ここに来てからずっとご心配をおかけしてしまっていたのですね?それでも自由にさせてくださって、本当にありがとうございます。」

 


 「礼などよいのだよ。二人が仲良くなってくれたから頑張った甲斐があったというものだ!」


 「?どういう意味ですか?」


 私の問いに伯父はきょとんとしている。伯母もマリアも。


 (――私何かおかしいこと聞いたかしら?)




 「殿下?ミラに話をしていないのですか?」



 「あぁ。本人が私から聴きたくはなさそうにしていたからな。良ければ辺境伯から話してやってくれても良いのだが?」


 「なんですと?それはそれは責任逃れというものでは?発端は殿下ではございませんか!しっかり最初から最後まで説明していただきませんと、リュドミラも困惑致します!」


  呆れたように少し無礼な物言いで伯父は殿下に物申すと、殿下は苦笑いして頷いた。




 「ミラ。君は私から聞きたくはなかったかもしれないが、君がここに来てから何があったのか、私のことも含め伝えるよ。


 私のせいで傷つき、サマステリアにミラが訪れてから私と再会するまでの2日は、辺境伯が護衛をつけていてくれた。そしてあの公園で再会した後、もう君から離れるべきかと落ち込んだが、リナが叱咤してくれて私は全力で3か月君を守りながらそばに居ようと心に決めたんだ。」




 「・・・・・3か月・・」


 リュドミラはシリルの革新に近づく言葉を目を逸らさずに聞き続ける。


 「そう。3か月だ。私は直ぐに辺境伯へ頼み込んだ。3か月の間私がミラの事を守りたいこと。リュドミラの置かれているここでの危険性のこと、アルテンド伯爵の事。その為に、辺境伯だけじゃなく、商店街やエレイン商会全ての人間に、それから毎日のように指示を飛ばし続けた。」


 「・・・・・」


 話が大きすぎて変な汗が背中をつたう。


 私は3か月後に夜会を何かしらの理由をつけて催してほしいと辺境伯に頼み、陛下にも強引に王家からの願いとして夜会を行えるよう手を回した。そしてアルテンド伯爵の件も3か月後にはカタをつけると陛下には報告もしていた。


 リュドミラの事を中途半端な気持ちでは守り切れなかったから、全力で裏からも表からも手を回したんだ。リュドミラが自由に道を歩けるように接触禁止をサマステリア中にひっそりと伝令した。道には警備を常に置き、違反してリュドミラに触れようとするものはすかさず気絶させたり捕縛した。」



 「――っ気絶?っ捕縛?!」


 「そうだ。あの見物人たちはマナーが守れるようになった結果だ。わからせるのに1週間以上かかったがな。そしてリュドミラが私の事で悩まないようにこの家の者たちにも、商会のもの達にも頼み込んだ。皆リュドミラの事を案じていたから、私が必死で頭を下げたら快く受け入れてくれた。



 (・・・これって・・ほんとに外堀から埋められていたってこと???)


 リュドミラは空いた口が塞がらない。


 「私が道に警備まで設置したのには理由があって、私が原因で起こってしまった誘拐事件の犯人たちに、リュドミラが一番狙われていたからだったんだ。だからずっとそばにいたのだけど、そのおかげで良いこともあってね。私たちのグッズを裏で作る愚かな連中が出始めたんだ。それがきっかけとなって貴族の令嬢や、婦人まで忌み嫌う白色病の見た目のリュドミラにも拘わらず追っかけが急増した。


 闇の連中からグッズを買う連中なんてお里が知れるからね。良い機会だと思ったんだよ。そのまま全員捕まえることにした。仕掛けた罠に貴族たちは喜んで闇市で私たちのグッズを買って昨夜持ち帰ろうとしていたからね。全員没収して捕縛してやったさ。」



 「―・・捕縛・・没収・・それじゃ・・・この三か月の客寄せパンダは・・寄せてたのは客じゃなくて誘拐犯と裏の貴族たちってゆう事?!」


 「それだけじゃないぞ!なんと隣国の王族まで男装したリュドミラを手に入れようとしていたんだからな!あの闇市に隣国の貴族も何人もいたから捕まえて牢屋にぶち込んでやった。」




 「隣国?!・・・話が・・」


 リュドミラの頭の心中は動揺が抑えきれなかったが、深呼吸して落ち着いて考えると、シリルは私の事を何度か話していた気がしたことを思い出した。


 人心掌握の事や、私にしかできないことがあるとか・・・・・・・




 (――っ本当に私にしかできない仕事じゃないっ!!)


 あまりにも大きな任務に自分が知らないうちに関わっていたことに愕然とした。


 「この幕引きはね?全てリュドミラのお陰なんだ。私がリュドミラを忘れられなくて張り紙を張りまくったことが発端で起こってしまった隣国を巻き込んだ大騒動も、君がサマステリアに来てくれたから、本当に短期間で全て上手く片付いた!そして嬉しいことに私は、最愛の君の本当の婚約者になれたわけだ!陛下もきっと大喜びだろう。」



 シリルはハハハと嬉しそうに笑っているが、リュドミラは自身が本当にシリルの掌上で転がされたのだとわかり騙された苛立ちと、そこまで想ってくれた嬉しさでどうしたらよいかわからなかった。


 「リュドミラ。君からしたら私に騙されたと思うかもしれない。でも違うんだ。私だけじゃなく、みんなリュドミラの事が大好きなんだよ。だから君の為ならいくらでも力を貸してくれた。私はその責任と、君への愛を周りから試されたんだ。


 本当は罵倒されたり口も聞いてもらえないと覚悟はしていたんだ。それでも君は優しくて、私を無下にしなかった。まさか受け入れてくれるなんて本当に夢の様だったんだ。だから今回の全てはリュドミラがいたからできたことなんだ。心から感謝している。ありがとう。」


 シリルは深々と頭を垂れた。


 「シリル殿下!!頭を上げてください!・・た・・確かに怒ってます!私を見てもらえなかった3年。ここに来てから3か月私を騙していたこと!・・・だけど・・貴方が私の為に罪をおかし、私の為に全力で動いてくれたことは・・・嬉しかったです。――だからもう頭を上げてください!」


 シリルが頭を上げると、そこには瞳に涙を浮かべたリュドミラの美しい微笑みがあった。


 「リュドミラ。―愛してる。拗らせ遠回りしたが、君以外私には愛せない。」


 優しくリュドミラを胸の中に閉じ込めた。



 「―――とても感動的なのですけれど・・・その・・・男の恰好で二人が抱き着いているのは・・ちょっと・・・見てはいけないものを見てしまった感じになるわね?」


 伯母は気まずそうに頬を朱に染めながら呟いた。



 (――・・・そうだった・・私いま男装してた!)




 「私は男だろうと女だろうとミラなら愛せるよ。」


 胸にリュドミラを閉じ込めながらシリルは平然と言い切った。



 ――コホンっ


 見ていられなくなった伯父はわざとらしく大きな咳をしたので、私はシリルから離れた。


 「明日なのだが、折角だ。皆と別れの夜会には男装で参加するかい?」


 「え?男装で参加してもよいのですか?」


 「本当は元の姿でドレスを着てほしいけどね?このタイミングを逃すと今後はあまり男装する機会もないんじゃないかな?」


 伯父の言葉は当たり前の事だった。私は明後日サマステリアを去ったら、侯爵令嬢に戻るのだ。男装をする意味がなくなる。


 「嬉しいですが・・私は男装の正装を持っていません・・」


 しゅんとしながら伯父を見ると、ふふっと意味ありげに微笑んだ。


 「殿下。良かったですな。無駄にならなくて。」


 「伯父様?」


 「―リュドミラ。実は君のドレスと一緒に、男装用の正装も私は用意したんだ。」


 「―えぇ?!殿下!着る機会なかったらどうするつもりだったんですか?!」


 「―ドレスだって私は来てもらえると思っていなかったから、来てもらえなかったら来た君の姿を想像して楽しめば良いと思ってた。」


 にっこり微笑みながら返事する言葉にリュドミラは素直に喜べなかった。


 「シリル殿下・・・それはそれで怖いです!」


 「そうかな?」


 全く怯むことなく嬉しそうにしているシリルは、もう本当に以前の罵倒大好きシリル殿下ではなくなって、執着溺愛のわんこ騎士だった。

 



 「リュドミラの男装!楽しみだな!―明日が待ちきれないな!リュドミラ♡」



 「―勝手に楽しみにしててください。」



 シリルのいつもの物言いに、思わずいつものようにスルーしてしまうリュドミラだった。




















ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


本当は夜会に突入する予定でしたがネタバレで終わってしまい

ました。


恐らく今夜完結まで全て更新すると思います。

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