終章ー1…私にできる事
「――――殿下っ!!!大変です!!!リナ様がいらっしゃいません!!」
バルコニーへの扉の内側から慌てる騎士の声が飛び込んできた。
( ―――――リナ?!!!)
リュドミラは目の前が真っ暗になるかのように眩暈がした。
「リュドミラっ!―大丈夫か?」
シリルが崩れ落ちそうになったリュドミラを抱きとめる。意識はあるが全身が震えてパニックを起こしているのだとシリルは気づく。
「リュドミラ。落ち着いて!まずは状況を確認しよう。 ――場所を変えるぞ!急ぎ今集まれる偵察部隊はリストン辺境伯の談話室に召集をかけろ!」
「・・・リナ・・そんな・・どうして・・」
周りが騒然とする中、リュドミラはまるで空間に閉じ込められたかのように、意識が自分を追い詰めるように暗く沈もうとしている。
周りの音も残響のように徐々に遠くなっていくような気がする。
私がまたリナを追い詰めるようなことをしてしまったのだろうか・・・
私が彼女を苦しめたのだろうか・・・
私が―――
「―――しっかりしろっ!」
頬が熱を感じる。誰かに包まれているような。優しくて甘い・・
(――そうだ・・・私は独りぼっちじゃない!私が悪いとは限らないっ!!!)
「??!」
ふっと意識が現実に浮上して目の前には肌色?????
「んんんんんっ???」
唇には柔らかい感触と、頬は誰かの両手に挟まれている??
「――良かった・・落ち着いた?」
唇が離れ風で冷たさを感じ寂しさが急に込み上げる。しかし、よく見ると目の前には優しく微笑むシリルの顔があった。暖かい彼の両てが私の頬を包んでくれている。
「――シリル・・私は・・」
「気が動転しちゃったんだろうな。もう大丈夫そうか?」
頬を両手で撫でられて気持ちがいい
(・・独りぼっちじゃない。・・・私・・いつも誰かに助けてもらっているのね・・)
「ありがとう。もう大丈夫です。・・・私も一緒に行きます!!」
リュドミラはシリルに微笑むと気持ちを入れ直し談話室へ向かった。
「今の状況を報告してくれ!」
「アルテンド伯爵が動きました!リナ様を黙視していた偵察2名は引き続き行方を追っています!直ぐにまた新しい報告が届くはずです。」
「アルテンドは今どこだ?」
「現在子供たちが囚われている東部と北部の境の伯爵の闇市の拠点内にいます。」
「・・ではリナも恐らくそこに連れていかれるという事だな?」
「はい。恐らくその推測でほぼ間違いないかと思います!」
(―――アルテンド??!・・・・リナはなんで捕まってるの???)
「他の偵察者たちはどうしている。」
「現在闇市の開催が明日に迫っている為会場周辺の確認を行っております。」
「闇市の報告をしてくれ。」
「はっ。現在闇市は上顧客のみを招く前夜祭らしき闇市を行っております。出店数は40店舗前後のかなり大掛かりな出店となっておりました。広さとしては王宮夜会会場程の規模はあります!闇市は野外ですが、闇オークションはその地下を利用してかなり多い子供たちを長期間かけて確保していたようです。地下にはオークション会場と、子供たちを捕えている牢屋があり、おおよそですが偵察者の報告ですと30人は少なくともいるようです!
「・・・領の境目にとんでもないものを作ってくれたな」
「集客数もあの広さですと、オークション会場の中には100人近くは入るのではないかと推測できます。闇オークション開始時刻は明日の夜19時頃からのようです。」
「わかった。他サマステリアの領内の誘犯などの動きはどうなってる?今夜からの捕獲可能か?」
「はいっ。すでに10名は確保しております。恐らく至る所に誘拐犯は潜んでいると思われます。いかだいたしますか?」
「今動ける隊員は何名いる?」
「現在8名は可能です。闇市への潜入3名、伯爵の監視2名、誘拐犯確保は10名、リナ様には2名ついております。」
「わかった。誘拐犯はできる限り内密に全員捕まえたい。4名応援で向かわせてくれ!王宮の近衛騎士の明日午前の到着な何名の予定だ?」
「60名の予定です。恐らく敵の状況を考えるとこちらはまだ不利な状況と言えるかと思います。」
「わかった。では私に同行できる隊員4名選抜したらすぐに知らせろ。リナの行方が確認でき次第動くから準備しておけ!いいな?」
「承知いたしました!!」
状況報告をした隊員と、他7名の隊員たちは部屋を退出していった。
「――リュドミラ。待たせたね。それじゃあどこから話そうか?」
シリルは不敵にニヤッと強気に笑うとソファに腰掛けた。
初めてシリルが隊員に指示を出している所を目の当たりにしたが、王太子というよりも完璧に指揮官だった。しかも召集をかけて15分もたたずに終わってしまった・・・
(・・・・早くて聞いてるだけでいっぱいいっぱいだったわ・・)
「リナは何故捕まったの?この邸宅の中にいたのではなかったの??闇市って?・・しかも闇オークションとか物騒でしかないのだけれど・・」
「内緒にしていてすまない。私も国王陛下の命令で動いていたからね。簡単には話せなかったんだ。」
「・・・そうだったのですね・・・・・?・・・・簡単に話せないのに何故今教えてくれるの???」
シリルはにこにこ微笑んでいる。
(・・・・嫌な・・・予感・・)
「それは君が私の婚約者に返り咲いてくれたからさ!!婚約者なら私はよほどのことがない限り全て話すよ?」
「・・・・・・ですよね・・。」
これも外堀を埋める一環なのかもしれない。さっきの今で、まだ素直にわかったとは言い難いが、リナのことが心配だからこの際開き直るしかないとリュドミラは思った。
「それなら教えてください。私・・確かに婚約者には戻りましたけど、以前のように発言の許可は求めませんよ?言いたいことは都度言いますのでご承知おき下さいね?」
「勿論だとも。・・・というかまさかいつも返事がないと思ってたのは発言の許可を待ってくれていたのか??」
「当然です。私は上下関係はしっかりしておりましたから。――もう気にしませんけどね?だって・・私たちはもう対等でしょう?」
挑戦的なリュドミラの表情にシリルはゾクゾクする。
「あぁ。リュドミラ最高だよ!!私たちは対等だ!ずっと共に進もう!・・・それで何が知りたい?」
「リナは・・・何故いなくなったのですか?」
「あ――。そこからで良いのか?リナは昨日自分から囮になると言い出した。」
(なんですって??!!!)
「リナはなかなか気が強いな。リュドミラに随分励まされたようでアルテンドを許せないから自分から行くと言っていたからな!」
「そんな!!・・・何故今日なのですか?」
「それは明日の夜のオークションに潜り込ませるためさ!」
「り・・リナをオークションの商品にするのですか?!」
「――そうだ。リナが自分から志願した。子どもたちを自分が救いたいから、直接どこにいるか確認がしたいらしい。」
「な・・なんて無茶を・・」
リュドミラの前身の血の気が一気に引いていくようだ・・
「リュドミラ。きみのお陰なんだ。」
「え?」
「リナは受け身だったからな。だからずっと見ていた。見ているだけだった。でも先日孤児院に行って現状を知ってしまって落ち込んでいただろう?現実を知るのが怖かったとは思うが、知って自分を許せなかったのを、リュドミラが慰めたんだろ?とても死にそうな勢いで落ち込んでいたやつとは思えない位元気になって「私だって役に立ちたい!」って意気揚々と出かけて行ったよ。」
「・・・・・・」
なんと言って良いのかわからなかった。・・こんなつもりじゃなかった。
苦しい決断をさせたかったわけじゃないのに・・
「リュドミラ?・・・まさか自分を責めているんじゃないだろうな?」
思わず考えていたことを言い当てられてドキッと胸が高鳴りなんといっていいかわからなくなってしまう。
「いいかい?人には役割があるんだ。君はリナを精一杯慰め守ろうとして、やる気を引き出したんだ!凄い事なんだぞ?」
「すごい・・こと?」
「そうだ。リュドミラは皆をやる気にさせるのが本当に上手いと思う。私も散々乗せられているぞ!」
はははっとシリルは笑ってからリュドミラを抱きしめた
「リュドミラ程人心を掌握できる人間はこの王国にいないと思うぞ。私も掌握されたからな。」
「・・シリル殿下・・私は・・良かったんですか?リナをたきつけてしまって・・」
「やるかやらないか。それは本人次第だ。リュドミラが命令したなら話は変わるが、命令したわけでもなんでもなくリナが自分で決めたんだ。誇るなら良いが自分を非難するのは止めてくれ。」
「・・・はい。なら・・・早く迎えに行かなきゃですね!!」
「その通りだ!今夜から動くから男になってくれ!流石にドレスじゃ捕まえてくれって煽るだけだからな!」
シリルは笑ってもう一度リュドミラの頬を両手で包み優しく口づけた。
「必ず無事に戻るぞ。――結婚だってまだしてないんだからな!!」
「―――シリルしつこい!」
「おいおい!もうミラになってるぞ」
「うるさいな――ほっとけよ!」
シリルはリュドミラを構いたくて仕方ない。何度も偵察隊の報告が来るまでじゃれ合いは続くのだった。
二人はいつの間にかかけがえのない婚約者でありパートナ―になっていた。




