2章ー13…エスコート役はどなた?
目の前のソファにゆったりと腰掛け、紅茶を啜る伯父はリナをここに1週間は最低でも泊めてくれると約束してくれた。
数日して今日は私が伯父に呼ばれてこれから話を聞くところなのだ。
「ミラ。こちらに来てもう3か月は過ぎるが心は落ち着いたかな?」
伯父は優しく微笑みリュドミラの体調を確認する。
「ありがとうございます。おかげ様でシリル殿下と一緒にいても胸が苦しくなることはなくなり、以前以上に元気になりました。サマステリアに来れて本当に良かったと思っています。」
「それはなによりだ!それなら頼みたいことがあるのだが聞いてもらえるかな?」
「――まぁ。私にですか?」
「そうだよ。君にしかできない事だ。」
「私で良ければ喜んで聞きますわ。」
伯父は私の返事ににっこりと微笑んでティーカップをテーブルに置いた。
「実は明日この邸宅の大広間で、エレイン商会の役員と取引先を集めた夜会を開く予定なのだよ。私が直接商会の者たちに会う機会もなかなかないから、その席でどうしても大切な【リュドミラ】もお披露目したいのだよ。
この夜会はエレイン商会の大切な取引先とも交流を深めることができる機会だからね。
いづれ【リュドミラ】がどのような生き方を選ぶにしても、流通に携わる者たちの集まる夜会はきっとよい刺激になると思うよ。
それに・・私は【リュドミラ】のドレス姿が見たい・・だめかい?」
(―――そうだった。たまにはドレス姿も見たいと伯父様が言っていた気がする・・・)
リュドミラはサマステリアを訪れてからずっとやりたい放題やってきた。その自覚はある。
お世話になっている大好きな伯父の頼みなのだから断るわけにはいかないだろう
「承知しました。・・・ですがドレスはどうしましょう?今から買いに行くのですか?」
伯父は満面の笑みで喜んだ。
「よかった!!ありがとう。嬉しいよミラ!ドレスなら実はもう用意しているんだ!安心しておくれ!明日を楽しみにしているよ!」
***
「―――まぁっ!!!とってもお似合いで素敵です!!お嬢様しかこのドレスは着こなせませんわね!!」
「褒めすぎよ。・・・それにしてもほんとうにぴったりで美しいドレスね・・装飾品のこだわりまで凄いわ!」
マリアは頬を紅潮させ物凄い興奮している。リュドミラも鏡に映る自分の姿に思わず見惚れるほどだ。
真っ赤なドレスはフィッシュテールで、ひざ下の足のラインが際立って美しい。ウェストの切り返し部分から薄く美しい光沢の赤い生地が幾重にも重なりふわっと軽やかに。しかしインナーフリルは黒のレースでできており艶やかで美しい。ロンググローブは手の甲までで、中指にリングで嵌めて固定させるタイプでそこに鎖のような細いチェーンが幾重にも重なり手元を美しく魅せる。首元には黒のレースがアクセントの赤いチョーカーで、ペンダントトップはオーロラのような美しい光を放つ宝石があしらわれている。ヘアセットはハーフアップにして、両サイドのこめかみ辺りを留めたヘアジュエリ―から3連のキラキラした宝石のついたチェーンはハーフアップをまとめる髪留めと繋がっている。ハーフアップの髪留めからも宝石の散りばめられたチェーンがいくつも繋がっていて、歩くたびにリュドミラの美しい金髪を更に魅力的に引き立たせる。イヤリングはチョーカーのペンダントトップと同じ小ぶりのシンプルなピアスだった。
(・・・なんとなくだけど・・・シリルをイメージしてしまうのは・・私だけ・・かしら・・)
ふとリュドミラは直観的に感じてしまったが、誰も何も指摘しないので気にしないことにした。
「辺境伯様はとてもセンスの良い方だったのですね!驚きました。今日は辺境伯様がエスコートしてくださるんですか?」
「恐らく?・・・でも伯母様も参加されると思うし・・・そういえば聞いてなかったわね・・」
「そうなんですか?きっと辺境伯さまが素敵なエレイン商会の関係者様をご用意くださいますよ!きっと!!!」
「・・そうね。・・・・マリア随分楽しそうね?」
「え?――そうですか??だ・・だってこんな素敵なドレスですよ?テンション上がっちゃいます!!」
「――そう?」
なぜか慌てて身振り手振りで捲し立てるマリアに違和感は感じつつも、リュドミラもドレスの美しさに酔いしれていた。
―――コンコン
「リュドミラ。入っても良いかな?」
「どうぞ、お入りになって。」
「おぉぉ!なんという美しさだ!今夜のミラは最高に美しいね!!!」
入室した伯父はリュドミラの美しさに感嘆の声を上げる。
「ドレスに負けていないか心配でしたが、言ってもらえたから安心しましたわ。素敵なドレスをありがとうございます!」
「いやいや。それは良いのだよ!今日は素晴らしい夜会だ!ミラに素晴らしいパートナーを用意したから紹介しよう。
―――入ってきたまえ。」
(え?)
伯父に呼ばれて入室したのは美しい美丈夫だった。
「―――シリル?!・・・ま・・まさか・・・伯父様?!」
「いやー・・・今日の夜会に王太子殿下と王太子殿下の婚約者を商会の者たちに紹介したいと国王陛下にお願いされてしまってね!ははは。・・すまない。」
おおらかに笑う伯父は明らかに気まずそうにしているが、リュドミラはそれどころではなくなってしまった。
シリルはまさに王族然な正装を着こなし、装飾品は以前リナが言っていた通りリュドミラの瞳の色で統一されていた。マントは淡いゴールドにも見える美しい滑らかな素材でできているようで、まるでリュドミラの金髪のように光り輝いてる。白の衣装には金糸の刺繍がふんだんに施されている。
これは間違いなく【リュドミラ】をイメージして作ったものだろう。
シリルはリュドミラの前に歩み出る。
「リュドミラ。どうか美しい君を今夜エスコートする栄誉を私に与えてくれないだろうか。」
膝をついて告げた後、リュドミラの手を掬い取り手の甲に口づけた。
「――し・・シリル!!何をっ」
「頼む。一生のお願いだ・・普段のリュドミラも、ミラも美しいが、今日の私を纏ってくれた君は最高の女神のように美しい。どうかお願いだ!エスコートさせてほしい。」
シリルの瞳は緊張で揺れているようにも感じる。間違いなくリュドミラの手をとるシリルの手も震えている。
(―――本気なのね。)
あの夜会から3か月以上がたった。思い出せば苦しみも悲しみも蘇る。
しかし、サマステリアに来てからのシリルは全く別人だった。どんなにスルーされようと怒らなかった。
見つめれば微笑み返し、常にリュドミラを守ろうと追いかけまわしていた。
私は3年辛く苦しい日々を過ごしたけれど、これからまだ何年も人生を生きていくのだろう。それはきっと3年という日々がちっぽけに感じる長さかもしれない。
それに私は一度もシリルと夜会をまともに共に過ごしたことがない。入場して来賓あいさつしてその後は直ぐ離れたから。
やり切っていない。今日の公の場は、王命ではないようだが、国王陛下が伯父様に頼んだ夜会なのだ。通常であれば婚約者として参加は必然。
今までの彼ならば、「行くのは当たり前だろ」と、言った後散々なじったに違いない。
でも今夜のシリルは私に許しを乞うている。
リュドミラの心は定まった気がした。
「承りましょう。」
シリルを見下ろしそう告げた。婚約者の義務として。
(―――シリル。貴方の本気を見せてもらいましょう。)
「――ありがとう!!必ず君をしっかりとエスコートしよう!!ありがとう!!」
シリルは顔を綻ばせてもう一度リュドミラの手の甲に口づけた。その行為に胸がじわじわと熱く切なく感じた自分を、見て見ぬ振りしようとリュドミラは必死に抗ったのだった。




