2章ー11…変わり果てた孤児院
―――カランコロンっ
ドアベルが鳴り響き、カフェを後にしてエレイン商会に向かって二人はゆっくり歩き始めた。
「――さっきはびっくりしたね。」
黄色い悲鳴のあと居心地悪く感じてしまったのだが、その時にリナの手を引いて外に出ようとするリュドミラに周囲の客たちは熱い視線を送り続けていた。
「あまり動揺しないミラさんでもさすがに動揺しました?」
「・・・・・女性不振に陥りかけたよ・・」
冗談半分本音半分で苦笑するリュドミラはふふふっと微笑んでいた。
「こんなミラさんを見られるなら私は幸せですよ♪」
「私はもう遠慮したいかな・・」
リュドミラはうなだれたい気分だった。
正直他のカフェに気を取り直して行っても良いかと思ってはいたが、道行く通行人たちのこちらへの眼差しを見る限り、今日はやめておいた方が良い気がする・・
「本当はもっとゆっくり話したかったけど、難しそうだし商会に戻ってシリルと合流しようか。」
リュドミラが気持ちを切り替えようと話しただけなのだが、リナの顔は急激にふくれっ面に変わった。
「リナ?――どうしたの?」
「――そんなに早くシリルさんに会いたいんですか???」
不機嫌さを隠さず話すリナは、どうやらシリルとすぐに合流することが気に入らないようだ。
「嫌なの?―そんな顔しないで。折角の可愛い顔が勿体ないよ。」
リュドミラが優しく微笑んでリナを見つめると、切ない表情でリュドミラの胸に抱き着いた。
「リナ?!」
なぜこんなことに・・・・道端で白昼堂々と客寄せパンダのように抱き合ってしまった!
「一体どうしたの?こんな道の真ん中でっ。」
リュドミラはリナの思惑が測り知れなかった。
・・・あまり周りは見たくないが間違いなく見物人の中の私のファンらしき人が数名気絶している気がする・・・コワクテミレナイ・・
「・・たまにはミラさんを独り占めしたいです・・」
「う―――ん・・それなら場所を変えないと。また今度リストンの邸宅にでも遊びにおいでよ。そうすればゆっくり話せるよね?」
「ほんとですか?!うれー――」
「それはだめだな。」
底冷えするような重い空気を纏った声で止められる。
「――シリル?」
「―リナ。ミラに迷惑をかけるんじゃない。周りの見物人まで凄いことになってるじゃないか。」
「―――シリルさんはずるいんです!私だってひとっを気にせずミラさんとハグしたい!!」
気づくと何故かリュドミラの右腕にはリナが。左腕にはシリルが抱き着いていた・・・
(―え??・・これどういう状況???・・・勘弁してよ・・)
リュドミラの事はお構いなしに、シリルとリナはバチバチと火花を散らして睨み合っている。
(・・・見物人はシリルの味方なのね・・・何故???)
周りの見物人たちはシリルの登場で「まってました!!」と言わんばかりの眼差しを送っている。
(・・・まさかこの見物人たちはみんなフジョシなのか?!)
リュドミラは徐々に頭が痛くなりこめかみを抑え痛みを逃がそうとしていた。
「言っておくが私だってリストン邸宅にはまだお邪魔していないんだ!絶対だめだからな!」
「いえいえ。シリルさんは信用されてないんですから行かなくて当然です!」
なぜかわからないが、二人の会話が徐々に白熱してきた気がする・・流石に冷静さを保とうとしていたリュドミラも堪忍袋の緒がきれそうである
「二人とも!―――喧嘩するなら私一人で視察は行くからな!!喧嘩なら道の端でやることだ!!」
厳しく忠告すると、二人の腕を引き離しひとりですたすたと孤児院へ向かって歩き出した。
***
「―――さっきみたいなことまたしたら置いて帰るよ!わかった?」
「ごめん・・」「ごめんなさい・・」
リナとシリルはしゅんと項垂れながら謝罪してくる。
「わかってくれたんなら良いよ。わかってくれたならね!今日はリナの育った孤児院を見てみたいのだけど良いかな?シリル」
「―――わかったよ。偵察隊も呼び寄せて万全の態勢で向かおう。」
「わかった。頼むね。」
シリルは気を取り直し偵察隊を召喚しこれからのことを伝えているようだ。
「リナもそれでよいかい?」
「―――ミラさん・・・ありがとう!」
きっと心細かったんだろうな。それをあんな道中では止めてほしかったけど、気持ちはわからなくもなかったから。
(・・・ほんと世話の焼ける二人だな・・)
リナの育った孤児院は、エレイン商会から歩いて1時間はかかるので、商会で馬車に乗って3人で目当ての孤児院へ向かった。
孤児院はサマステリアの南東側に位置していた。馬車を走らせ見えてきた建物は、古びていてとても人が済んでいるとは思えない建物の外観をしていた。
馬車を降りて、従者が入り口の玄関扉をノックしてみると、誰かが出てきた。
「先生!!」
リナは突然女性に向かって走り出す。
「リナ?リナなのですか?!」
「――先生っ!・・お久しぶりです!お元気そうで本当に良かった!!」
リナはやはり気持ちが沈んでいたのを隠していて溜め切れなくなっていたのだと思う。
先生と呼ぶ女性にリナは涙を沢山溜めた状態で抱き着きに行った。
私たちはその女性の案内を受けて孤児院と思わしき建物の中に足を踏み入れたのだった。




