2章ー9…私たちは客寄せパンダ?2
「―――――お――――いっ!ミラ?・・・お―――――い!」
「っうわぁぁぁぁっっ!!!」
突然シリルの顔面アップ目の前にあってありえない叫びをあげてしまった。
(淑女にあるまじき声を上げてしまったっ!!!)
「近すぎ!!」
後ろにさっと後ずさり頬を真っ赤に染めながら思わず怒鳴ってしまった。
「それはミラが上の空でふらふら歩いてたからだよ!危険じゃないか。」
「―――私からしてみればシリルが一番危険だ!!」
「は?なんでだよ。」
(首をかしげる仕草が可愛くて腹立たしいっ!)
負けた気がしてイラっとしたリュドミラはリナの言った言葉を思い出した。
「だってさ――一生罵倒されても私のこと諦めないとか言っちゃったんでしょ?危険でしかないよね?」
にやりと不敵に笑い上から目線で言ってやった。
「!!!!!」
先程まで強い気だったシリルの顔は真っ赤に紅潮し、口をはくはくと言葉にならない言葉を吐いている。
・・・その代わり見物人の黄色い声が半端ないが・・
(あ・・ご婦人が倒れた・・・)
(ほんとシリルは一体何なのよ・・・こんな変わるもの???)
―――あの日からシリルはガラッと変わった。
エレイン商会に一時雇用で入った日から、【リュドミラを罵倒することが大好きなシリル殿下】は消えてしまったのだ。
リュドミラの顔を見れば貶さずにはいられなかったシリル殿下は、今は犬のように私を毎日追いかけまわしている。
(・・・まるでわんこ騎士様だ。)
今シリルは顔を赤くして照れているが、構ってもらえて嬉しいのかしっぽをぶんぶん振っているかのように喜んでいるのが、リュドミラですらわかる。
こんなシリルは王都にいた頃には一度たりとも見たことがない。
もしかしたらリナや他の貴族に魅せていた微笑みは、作っていたものだったのかもしれない。と今なら思う。
1か月以上毎日こんな態度取られたら、流石にこのキャラを作っているとも思えない。
とにかく新生シリルは、今までとはまるっきり属性が変わってしまったのだった。
「――――とにかく、私はミラを守るためにいるんだ。危険な存在では決してない!」
「・・・・ふ――――ん・・ま・・・勝手にしたら?」
シリルの照れ隠しするような言い方も最近では華麗にスルーしている。
(―――そう。私はもう慣れた。後ろの黄色い声は耳が痛くてうるさいけど・・・)
敢えて無視する方が自分の良心が痛むので、スルーが一番楽なのだと最近わかった。
それにアイドル扱いされるようになってから、シリルを無下に扱う訳にもいかなくなったのだ・・
オーナーたちから注意される・・・ほんと勘弁してほしい・・
(私は客寄せパンダじゃないっ!マージン取ってやってもいいんだぞ!)
オーナーたちには起こりたいところだが、こちらは一時雇用の身なのでエレイン商会が恨まれるわけにはいかないから脅しは心の中だけに留めている・・・
そしてスルーされてもめげないシリルはなかなか手ごわい。私が罵倒してくると思ったからそれに比べたらマシなのだろうか・・
でもほんの少しだけ・・良かったと思う自分がいる。
平凡な日が続くなら、一緒に働くことくらいなら苦ではないと感じてしまっている私は・・・決してチョロくない。・・・・と思いたい。
「では私は伝達してきます。シリルはここでしっかり待機していてくださいね!!」
「わかった。」
△△店につくと足早に店内に入り伝言を伝えに行くのだった。