2章ー8…私たちは客寄せパンダ?1
「――ロベルト。今度レキアラから入ってくる果実3種は卸先5か所になってるけど、〇〇店って今卸し停止中じゃなかったっけ?」
「あれ?ほんとだ・・それじゃ前回卸さなかった△△店にまわそうか・・」
「ん―――・・その方が良いだろうね。△△店には連絡どうする?私が行こうか?」
「え?お前昼までだろ?連絡行ったら午後過ぎるぞ!」
「別にいーよ。たまにだし。今から出ればそんな時間かかんないしさ!他は問題なさそう?」
「あぁ。それじゃ頼むよ!」
「了解!」
リュドミラは帰り支度も済ませて取引先に向かうために席を立った。
リュドミラだけではなく、シリルもリナもあっという間に慣れて、仕事もかなり順調のようだ。
「じゃ・お先に上がるね!お疲れ様!」
外に出ると今日も街は人で賑わっている。エレイン商会はリストン辺境伯が取り仕切っているので信用が厚く、自然と事務所の周りには店が多く立ち並ぶようになった。
サマステリアは一日中日光は当たらない場所だが、その分他領に比べて文明が発展していると言っても過言ではない。
魔力石を多く他領から卸しているので魔力石で動く機械系も発展している。その中でも特に優れているのがライトだ。
一日中入相のような暗さが続くので街や住居地区はどうしても必要になる。
特にエレイン商会の部署が建つ街は、イルミネーションが充実していてデートスポットとしても有名らしい。
基本は他領と明るさが変わらないように、朝から夕方前までは日光のような明るさを維持する時計塔のような高さの電気灯が何か所かに設置されている。
今もまるで王都のお昼のような明るさが、街をライトで照らしてくれているのだ。それを設置し、維持しているのがリストン辺境伯である伯父とエレイン商会なのだから、領内の住民にとっては本当に憧れの存在であり、その近くで幸運にあやかりたい住民がどうしても集まってきて繁華街ができていく。
エレイン商会がある場所に繁華街あり!と言われる程なので、伯父はエレイン商会の支部をどこに作るかはいつも念入りに場所の状況などを何度も確認しているらしい。
サマステリアは、機械系以外にも多くの産物がある。特に有名なのはからくり細工の小物から設置するような大きな家具や建物まで、職人により作られる。
からくり細工は、特に盗難防止にも役立っているし、プレゼントにも好まれるらしく他領へ積極的に営業をかけていて、今や王国内各地に商品を流通させている。
それ以外にガラス工芸にしても、衣服系にしても、料理にしても、他では手に入らないような職人の腕が光る商品が沢山生まれている。
これを創り出すのは白色病を患う患者たちが多く、その患者たちを守るために積極的に動くのがリストン辺境伯なのだから、リュドミラにとって伯父は本当に尊敬できる人だ。
「ミラ!!―――待ってくれっ!」
「シリル?―――どうしたの?」
「私も一緒に行かせてくれないか。△△店はある気でも30分はかかる場所じゃないか!一人じゃ危ない!」
息を切らせながら走ってきたシリルは、どうやら私に同行したいらしい。
「勘弁してよ・・大した距離じゃない。こんなの一人でも行けるよ。連絡だけなんだから問題ない。」
「だめだ!君は美しすぎる!!危険だ!!」
「――――いい加減にしてくれない?これでも男なんだ!問題なんかない!」
「いいやある!!こんなに綺麗な男だったら私だって男色になれる!」
「っちょ・・おま・・何言って!!変なこと言うな!!」
最近のシリルは本当におかしい。とにかくリュドミラを一人で歩かせない。ここは生まれ育った街なのだから、どこが危険かなんて把握できている。過保護にも程がある。
――実は数週間前から困りごとが増えた。
それはミラとシリルが街を歩くと密に群がる蝶のごとく少女や若い女性・・ご婦人方までついてきてしまうのだ・・・
今も私たちふたりの言い合いを嬉しそうに何十人もの女性の見物人たちが呆けて見つめてきている。
――その中に数人男性もいるが見えないふりをしている・・・
毎回行列になってしまって観光ガイドにでもなったかの気分だ・・・やめてほしい・・。
リュドミラ一人でも同じことが起こりうるのに、二人揃うとすさまじいらしい。行列はすでにここ数週間で当たり前のイベントのようになってしまった・・・
(これもあるから本当は一緒に行動したくないんだけど・・・)
そして私たちが立ち止まると群がりこちらをうっとりしながら眺めているのだ・・・
まるで見世物にでもなった気分だ・・・・気持ち悪い・・
シリルは真っ赤な燃えるような赤髪が最近少し伸びてきたらしく、目元が少し隠れがちになった。邪魔なのかよく髪をかき上げる。その仕草が色香を振り撒きすぎて失神する見物人たちも増えている・・・
(・・・まぁ私も直視できないけど・・)
そして何より宝石眼!これは見惚れずにはいられない!苛烈な赤の髪にキラキラ光る瞳とか・・・最高のアクセントだ。
中性的な顔立ちで、二人で並ぶとアイドルかのようにキャーキャー騒がれてしまう・・
一体いつから私たちはアイドルになったんだ?
最近ではハンカチに推しにお願いするメッセージを刺繍して、立ち止まるたびにこちら向けておねだりしてくる・・・
――――――ガチなやつだ。
最近ではメッセージハンカチを売り出す商店まで出始めたらしい・・・まぁ店が活気づくのは良いことだけど・・
【こっち向いて】とか【抱き合って】とか【手を振って】とか【キスして】とか・・・
正直最後の刺繍入りハンカチを作った奴の息の根を今すぐ止めてやりたい!!
【キスして】も【抱き合って】も私たち二人に対してのリクエストであって、彼女たちがされたいわけではないらしい・・・
面倒くさいのはそのハンカチを見るたびに横にいるわんこがしっぽを振ってきたいしてくることだ・・・
(――――期待してこっち見んな!!)
あくまで自分は女性なので心の中でツッコミは入れるようにしている。それでもこれがほぼ毎日だと流石に疲れる・・
最近は流石にイライラするので、自分が【広告塔】になって贔屓にしている商店の商品を、わざと手に取って【見物人に買ってもらおう作戦】を実行中だ。
・・・かなりの高確率で商品が品切れになるらしく、最近では味を占めた商店のオーナーたちが、その店に私たちが行く前に在庫の多い商品を確認までして目配せしてくる。
――まぁこれ商店が活気づくなら・・とも思うが、オーナ―から「食べさせ合ってよ!」とか「ネックレスを一度つけてあげてよ!」と要求が入り、シリルが大喜びで手伝っている・・・いい加減にしてほしい・・・
そっけない態度で商品を持つだけでも完売するのだから、本当に容姿の良さはお得である。
最近では伯父が二人のグッズまで作りたいと言い出して、当たり前だがストップをかけた。
勝手にロイヤルのグッズを制作するのは流石にまずい!!そんなことで処刑されたくない。
万が一それがのちの王太子夫妻とかだったらプレミアまでつくじゃないか!!・・・別に・・結婚する気はないけれど・・・
・・・なんだか最近周りから外堀を埋められ始めている気もしないでもないのは・・・気のせいだと思いたい・・・