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序章 最愛の婚約者からの婚約破棄を視野に入れた警告






煌びやかな装飾でキラキラと輝く大広間には、大勢の紳士淑女がノルタジア侯爵家の主催する夜会で、それぞれが交流を深め合っている。


 その大広間でかなりの注目を浴びてしまっているのは、私リュドミラ・シアンテ。公爵家の令嬢であり、豊満な肢体を惜しげもなくアプローチしたマーメイドラインのドレスは、美しいボディラインだからこそ映えている。ふわふわの真っ白なファーを肩にかけ誰よりも目立ち羨望の眼差しを一身に浴びている。


 ただ、いつもいつも私に寄り添っている取り巻きのマルタレナ伯爵令嬢とハルメア子爵令嬢は、いつものように同じような愚痴を吐いている。夜会の公の場で非常識極まりないので、控えるように注意を促すが、その場では反省するもののすぐまた愚痴を吐き始める。内容はいつも同じような内容で言葉にするのも嫌になるし腹立たしい事この上ない。

  しかし自分の立場上、慕ってくれる令嬢を無下にできない事も理解しているので、溜息を吐きつつも令嬢たちに忠告した後は自分の歌の披露する出番を静かに待っていた。




 ――ざわざわ。


 周りが騒がしくなってきたと感じていると、誰かが入場してくるようだ。

 すでに夜会は始まっていたので、周りは皆入場者に注目している。その大勢の目に映ったのは、最愛の婚約者シリル・バルサントス王太子殿下とミラ・アルテンド伯爵令嬢であった。


 (――うそっ!!なぜ?!)


 驚愕し、自分の体が凍ってしまったかのように身動きできない。心臓はバクバクと鼓動は早まり、変な汗が背中を伝うような感覚がする。今日この場に二人が来ることをリュドミラは知らなかった。


 婚約者が歌を披露する夜会に、他の女をエスコートしてやってくるなど非常識にもほどがある。

 仮にもしこれがシリルでなくただの友人たちであれば、見切りをつけて無視しようと冷静に判断しただろう。

 しかし、相手は私が愛してやまない婚約者殿なのだ。ただただ彼をじっと見つめ続けることしかできないリュドミラにシリルは気づいたらしく、一瞬動揺したように目を見開いていた。だが数秒もしないうちにシリルはミラに向き直り、まるでリュドミラのことなど気にも留めていないとばかりにミラをエスコートして離れていった。



 (――泣いちゃだめよ・・今から出番なの・・落ち着いて・・)


 無視されてしまった。自分が気にも留めてすらもらえないちっぽけな存在のように感じる。悲しみで瞳に涙がたまっていくのをなけなしのプライドが必死に堪えさせる。

 

 そんなリュドミラに追い打ちをかけるように取り巻き二人は、先ほどまでの愚痴を更に超え高々に捲し立てる。


 ――そう。先ほどまで二人が愚痴を吐いていたのは、ミラに対しての事だったのだ。


 「やっぱり今日もアルテンド伯爵令嬢は非常識にも夜会に殿下とご一緒されているのですわね!!最低ですわ!」


 (今日も、、、)


 「何でもいっつもアルテンド令嬢のドレスを王太子殿下が贈っているという噂ですわ!リュドミラ様という婚約者がいらっしゃるのに!ねぇ!!ひどいですわ!!」


 (ドレスを贈ってるのか、、、)


 未だに心臓がバクバクと鼓動していて次第に気分が悪くなり、聞きたくないことまで知らされて顔面蒼白になっていることを二人はひっそり微笑んでいる。


 「リュドミラ様!ご気分が優れないようですわ!よろしければ気付けにワインでも飲みにいきませんこと?」

 まるで気遣うように促すマルタレナ伯爵令嬢の言葉に「そうですわね・・。」と流されるように頷くとゆっくりと移動した。


 ワインを給仕に受け取ろうと歩みを進めると、目の前には何故かミラだけがそこに佇んでいた。

 リュドミラは直観的に嫌な予感を感じたが、事すでに遅く二人の取り巻きは我先にとミラに暴言を浴びせる。


 「アルテンド伯爵令嬢!貴女何様ですの!?王太子殿下にはリュドミラ様という素晴らしい婚約者様がいらっしゃるというのに、わざと見せつけるように入場なさって!リュドミラ様を馬鹿にしていらっしゃるの?!」


 「そのドレスも王太子殿下から贈られたドレスなんでしょう!なんていうがめつい方なのかしら!!信じられないわ!」


 「二人ともお止めなさい。ここは夜会の場ですよ!」

 必死に二人をおさめようとするが、リュドミラの声がまるで聞こえていないかのように二人は捲し立てる。


 「リュドミラ様の前でこんなに素敵なドレスを着るなんて許せないのよ!!」


 マルタレナ伯爵令嬢がワイングラスを持ち上げ、明らかに振り下ろそうとしている。リュドミラはワイングラスを取り上げようと駆け寄った。しかしそれは間に合わず、取り上げたワイングラスの液体は無情にもミラのドレスの広範囲にしっかりとシミを残してしまった。


 「あぁぁぁ・・なんてことを・・」

 悲観するリュドミラの事を、二人は気にすることなく更にミラを罵倒しようとする。


 「ふん!流石リュドミラ様ですわ!アルテンド令嬢もこれでこの場に似合った装いになったのでは――」


 「何をしている!」


 ハルメア子爵令嬢は声高々に、あたかもリュドミラがワインをミラにかけたかのような物言いをしている。しかし言葉の途中でシリルがミラの元に戻ってきた。


 「ミラ!!一体何故このようなことに?!」

 

 シリルの目の前には、美しい薄いピンク色のドレスにしっかりとワインのシミが広範囲にわたって付着し、悲痛な面持ちで佇むミラがいた。ワイングラスを手にするリュドミラを、シリルは凍り付けるような鋭い眼差しで睨みつけた。


 「貴女は一体何を考えている!このような夜会の席でワインを令嬢にかけるとは非常識にもほどがある!」


 「殿下!!お待ちください!シアンテ令嬢は止めようとしてくださったのです!誤解なさらないで!」


 事の顛末を見ていたミラは我に返ると、リュドミラを擁護しようとシリルに声をかける。しかし、シリルはその言葉すらリュドミラにきっと言わされているのだろうと憶測し、「ミラ。貴女は何故ひどいことをした人間まで擁護しようとするんだ。」

 シリルの目にはもうリュドミラが悪役令嬢で、ミラが悪態を受けた可哀想な令嬢にしか見えていなかった。


 「もう我慢ならない。貴女は一体何度目だと思っている!!この一年でどれだけミラに悪態をつけば気が済むのだ!」


 怒り心頭するシリルに弁明したくとも、発言の許可さえ貰えないようなこの状況では、リュドミラはただただシリルが落ち着き発言の許可を許してくれるまで待つことしかできなかった。


 「もういい加減にしてくれ!婚約者であっても、このような非常識な人間を未来の王妃にすることを認められない!このようなことが続くのであれば、婚約破棄も視野に入れさせてもらう!リュドミラ弁明があるなら申してみよ!」


 「申し訳ございません。このような事態になったのは私の落ち度でございます。行動を自粛し、自身を改めさせて下さいませ。」


 「いつも私の前では猫を被るのがうまいのだな!その言葉に二言がないように行動で示してみよ!今夜はこれ以上顔を見たくない!控えよ!」


 「大変申し訳ございませんでした。失礼いたします。」

 深く頭を垂れると、リュドミラは主催のノルタジア侯爵令嬢に謝罪を述べ、早急に大広間を後にした。


 (なぜ・・・なぜこうなってしまうの・・)

 リュドミラの悲痛な心の叫びは誰にも聞こえることはなかった。


 リュドミラの不遇は何年も続くものであったが、それでもシリルと再会してからの年月は辛く苦しい毎日だった。






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