社畜とJK 2
職場へ向かう、下り電車。
決して混んでいるとは言えない車内の中で、俺は座席に腰掛けている。
そして今朝もいつものように、隣にはJKが座っていた。
「社畜さんは、海と山ならどっちに行きたいですか?」
唐突の質問も、慣れたものだ。俺は慌てることなく、JKに返す。
「沈黙に耐えられないからって、無理に話題を作らなくて良いんだぞ?」
「違いますよ。仮に話題作りするんだったら、もっと面白い質問をしますって。「社畜さんはおっぱい派? それともお尻派?」みたいな」
果たしてその質問の何が面白いのだろうか? ……あっ、答える時の俺の反応か。
取り敢えず通報確定の質問をされたくないので、彼女が隣にいる時は沈黙にならないよう努めよう。
「実は夏休みに友達と遊びに行く計画を立てているんですが、海に行くか山に行くかで迷っているんですよね」
「夏休みか……懐かしい響きだな」
最後に堪能したのは、大学生の頃だったっけ。
「会社に夏休みはないんですか?」
「あるぞ。我が社の求人広告にも、きちんと「夏季休暇付与」と書いてある。ただし、仕事が終わらないから出社することになるけど」
もちろん表面上は「夏季休暇」なので、きちんと有休として消化される。
「流石はブラック企業。流石は社畜さん」
「社畜は大変なんだぞ。君はそんなブラック企業に入社しなくて良いよう、しっかり勉学に励みたまえ。……それで、海か山かって話だったよな?」
「そうです!」
「君自身は、どっちに行きたいとかあるのか?」
もしJKの中で答えが決まっているのなら、自身の希望に従えば良い。友達だからといって、遠慮することはないと思う。
「う〜ん……どっちもどっちですね。海は海水でベタつくし、山には虫がいるし」
「物事の悪いところを見るな。海には海の良いところがあり、山には山の良いところがある。両者の長所を見た上で、どっちの方が楽しそうか選択するんだ」
俗にポジティブシンキングと言われる心理思考だが、これが意外と大切なんだよね。特に俺みたいな社畜には。
「良い面ですか……。因みに社畜さんは、海の良いところは何だと思います?」
「そりゃあ、水着が見れることだろう」
条件反射で答えた後、「ヤベッ」と思った。
未成年相手に「女性の水着が見たい」だなんて、完全にアウトだ。
チラッとJKを見ると、彼女の顔が真っ赤になっている。……本当、申し訳ないことをしたな。
「すまん、気を悪くしたよな。今のは忘れてくれ」
「いえ、そうではなくて。……許しますから、一つだけ聞いても良いですか?」
そう言うと、JKは頬を紅潮させたまま、上目遣いで尋ねてくる。
「社畜さんは私の水着姿、見たいですか?」
……さて。この場合、どう返したら良いのだろうか?
どう答えても、通報コースな気がする。
末路が同じなら、いっそ自分の気持ちに正直になってみよう。そう、ポジティブシンキングだ。
「……可愛い女の子の水着姿なら、誰だって見たいに決まっている」
「〜〜っ」
俺は降車駅に着くなり、すぐに立ち上がる。そして半ば逃げるように、この場から去っていくのだった。
◇
「……友達とは、山に行こうかな。どうせなら水着姿は、社畜さんにだけ見てもらいたいもんね」