檜山 智選
天沼の家がある住宅街の中の一棟で、男が支度をしながら独り言をつぶやく。
?「俺は誰にも知られず死んで、誰にも知られず入国した。訳も分からず過ごしてきたが、ここでも誰にも知られず死ぬと思ってた。でも俺にだって転機が来た。俺を見て、認知してくれる人がいる。初めて生きる意味を見い出せた。ここでなら俺は輝けるのかもしれない。今日も俺の認知度を上げに行くか。」
男は家を出て賭場へと向かう。
そして11:00頃、先に賭場に来ていた天沼は、斜めがけカバンをもって受付に行く。ギャンブラーカードは昨日差し出したが、現金10万円はまだのため、念の為カバンの中には20万円を入れていた。
受付「天沼様、ゲームの準備はできております。昨日お伝えしたとおり、ゲームは正午開始ですので5分前には3番ゲーム会場にご入場下さい。また、BETする現金10万円はお持ちですか?こちらにてお預かりします。ゲームに勝ちましたら、こちらの受付にて勝利した賭け金と合わせて20万円をお支払いします。ゲームに負けますと、ギャンブラーカード1ヶ月分と10万円は損失しますが、カードの返却がありますので敗北時にもこちらまでお越し下さい。手続きの都合上、ゲーム終了後10分ほどは間を空けていただきますのでご了承ください。」
なんか役場の事務のようだなぁ、と思いつつ天沼は3番ゲーム会場の場所を確認しに行く。昨日ワークマンズハンドサインも行った賭場の広場には、いくつか出入口がある。それこそ体育館に複数出入口があるように、1番出入口から6番出入口までが左右についている。1番出入口を出て行くとそこには廊下が続いており、奥には非常出口がある。廊下の途中にもいくつか会場があり、言われた3番ゲーム会場もみつけた。時間まで少しあるので、賭場の広場へと戻る。他の人のギャンブルを観戦して時間を潰そうと思ったのだ。
1番出入口から入ろうとすると、扉の上に「賭場広場」と書かれているのに気付く。
天沼(なるほど、あのポーカーやらルーレットやらをやっていた広場は『賭場広場』とよぶのか。安直だなぁ。)
そう思いつつ賭場広場を見渡し、時々1番出入口を気にする。しかしいくら待っても人の出入りは確認できない。不思議に思いつつ、時間が近づいたので再び1番出入口を通り、3番ゲーム会場に入場する。
するとそこには1人のスーツをピシッと決めた男と、陰湿な性格が表出しているかのような、暗い印象の男がいた。スーツ姿の男は部屋の中央に立っており、男の前には2つと台座が少し間を空けて配置されている。台座には向かい合うように椅子が備わっており、椅子のほうに台座は傾いている。そして片方の椅子に、陰湿そうな男が座っていた。また、部屋にはいくつか監視カメラのようなものが天井からぶら下がっていた。
スーツ男「さて、2人とも揃いましたね。あなたが天沼様ですね?さて、こちらの椅子に座って下さい。12:00になりましたら、説明を開始します。」
陰湿そうな男「お前が天沼?俺を見てどう思ったかは知らないが、俺はお前に勝ってお前の印象に残ってやる。」
天沼(なんだコイツ、いきなりねちっこいと言うか上から目線と言うか。まあ勝つ気で勝負するんだ、それくらいの気迫は必要か。)
天沼「随分自信があるようだけど、歴史に名を刻むのは勝者と相場が決まってるんだ。負けても印象に残るのはかなりの悪者か卑怯者だが、あんたはどっちだ?」
陰湿そうな男「勝ったやつが正義だ。勝てば官軍、俺は負け犬にどう思われようと勝つさ。」
天沼「あんた、『檜山 智選』だっけ?勝者になろうとする割には、織田信長のような印象的な名前ではないんだな。名は体を表すというが、地味さが名前にも表れてないか?」
天沼は挑発する。
檜山「じ、地味とはなんだ!俺は勝つからな、俺を怒らせると怖いんだからな!!」
檜山にとって地味なのは図星だったらしい。
スーツ男「さて、親睦も深まって何よりです。時間になりました!さて、これから本日のゲーム、『スリーカードセレクト』についてのルールを説明します。」
天沼・檜山(この男、「さて、」が多いな。)
スーツ男「司会進行は私、十勝 千慈郎が務めます。カメラの前の皆さんは、BETのご準備はよろしいですか?いつも通り、ルール説明後、ゲーム開始の宣言と同時に締切となります!」
十勝は続ける。
十勝「さて、本日のゲームですか、お2人の前の台座には3つの窪みと3色のカードが備わっています。お気付きかと思いますが、それらを使って読み合いをしてもらいます!さて、お2人にはまず『チョイス』と『セレクト』に分かれてもらいます。さて、まずはセレクトの方から説明しましょう。」
天沼と檜山は、十勝の説明を無言で聞く。
十勝「さて、セレクトはカードに役割を決める、つまり役を『セレクト』してもらいます。赤、青、黄色のカードをそれぞれの窪みにセットしてもらいます。さて、窪みの下をご覧下さい。」
2人は窪みの下に注目する。すると、何か文字が書いてあることに気付く。
十勝「さて、左から
『自分に1pt』、
『相手に1pt』、
『役割交代』と書かれていますね?セレクトはカードを1枚ずつそこに入れて、『セット』と宣言します。この合図がないと、相手はいつセレクトが終了したか分かりませんからね。」
話が見えてきた。今回もルールは単純そうだ。
十勝「さて、『セット』の宣言後チョイスは手持ちの3色のカードから1枚を掲げてもらいます。それをもってチョイスとさせていただきます。チョイスが掲げたカードと同じ色にセットされた窪みに書かれている効果が発動します。」
檜山「つまり、自分にポイントが入るよう進めていけばいいのかな?」
十勝「さて、当てられてしまいましたな。その通り!さて、このゲームでの勝利条件は相手より先に15pt集めることです。
失格条件は、セレクト側から、セット宣言時にカードを3色セットしないこと、セレクトに5分以上かける遅延行為、『セット』宣言後にカードに触れることです。
さて、チョイス側の失格条件は、チョイスに5分以上かける遅延行為、カードを2枚以上掲げることです。
共通して、暴力行為と降参を宣言することは失格となります。さて、ご存知の通り今回はギャンブラーカード1ヶ月分と10万円を賭けています。手持ちの乏しいお2人は是非とも勝ちたいところ。さて、ゲーム開始といきましょう!!」
十勝の説明が終了し、ゲーム開始が宣言された。
次回【陰湿な戦い】
2024/7/28/12:00投稿予定