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スリーカードセレクト

朝起きて天沼は少し困惑する。寝起きの状態で見慣れない天井を見て、見慣れない景色を見たからだ。しかし目が覚めてくるとすぐに状況を思い出し、冷静に物思いにふける。すると、お腹が空いたことに気付く。思い出してみれば、入国してから水を飲んだだけだ。台所へ行き、冷蔵庫の前へ立つ。開けるのになんだか抵抗がある。


天沼(人の家の冷蔵庫を開けるような、妙な罪悪感があるな。でも俺の家と言われたんだし、何も悪くない。見てみるか。)


冷蔵庫を開けると、そこには料理キットがあった。作り方も丁寧に書いてあり、中にはきちんと具材が入っている。


天沼(料理、、するか。)


台所の棚をあらかた確認し、フライパンや油を取り出す。キットの説明を見て料理を始めようとするが、あることに気づく。


天沼「賞味期限2024/9/30?に、2024年だって?!」


天沼は日付のわかるものを探す。だが、スマホなんて便利な物はない。入国した時の肩がけカバンの中に手がかりがないか探すが、カバンの中にも何も無い。日付は分からないが、天沼はキットで料理を始める。

天沼(賞味期限が切れたキットをわざわざ入れておくなんて回りくどいことをするか?)


今日がいつなのかは分からないが、とりあえず作り、食事にする。時間も分からないが、おそらく朝食だろう。今朝のメニューは牛丼だ。いくつかあるキットのうち、天沼が選んだのは牛丼である。


天沼「朝食には似つかわしくないかもしれないが、誰か見てるわけでもないし、お腹も空いた。食べてみるか。」


久しぶり、という言葉が適切かは分からないが天沼は久しぶりの食事を楽しむ。夢中で牛丼を食らうその姿は、もし人が見ていたら幻滅されるかもしれない。それほどまでに天沼はガツガツと食べていて、それほどまでにお腹が空いていたのだ。食事中は、ここがどこなのか、どうやって生きていくのか、そもそも生きていけばいいのか。そういった疑問は頭の中になかった。


天沼「ふぅ、食べた食べた。なんだかいつもよりたくさん食べられた気がするぞ?」


元々この体の主は大食いだったのか?なんてことを考えつつ、とりあえず身を清めようとお風呂に入る。服を脱いで洗濯機に入れ、風呂場の鏡を見て驚いた。2度も同じ顔で驚く、なんてことはない。天沼は体を見て驚いた。


天沼「なんだこの、筋肉質な体。いやそれよりも、この傷跡は。あ、少し思い出してきたぞ。コイツ確か。」


そう、天沼の思い出した記憶は正しい。

天沼の体の主は生前、半グレ集団をまとめるリーダー的存在であり、コンビニ強盗や自身の集団に跪かない半グレとの喧嘩に明け暮れる、恐ろしい人物であった。また、ニュースでは取り上げられなかったが、SNSにて少し話題となったのが、この男、敵対した者をアジトに連れ込み拷問を楽しむ非情な男であった。人を追い込み、最後には自らの手で潰すことに快楽を覚える、まさに狂人とも言えようこの男の死刑執行日は、天沼が自殺した3日前である。

だが天沼は死刑執行日のことまでは知らない。この世界では、聞く相手もいない。どうしようか考えつつも、身を清める。風呂から上がって別の服に着替えると、家の中が気になった。変化に気がついた、とかではない。好奇心がそそられると言った状態だ。一晩寝て過ごしたこの家の事を、まだ台所と風呂場しか知らない。


天沼「各棚や、家電の配置、機能、配線なんかを知ろう。っとその前に、昨日雅さんがくれると言っていたチップの100万円、これをどこかにしまわないと。」


天沼は部屋の中を見渡し、100万円をしまえそうな棚にしまう。ここでまた疑問に思う。


天沼「入国って言葉を使う割には、お金は日本と同じものなのか。この世界について知れば知るほど分からなくなってくる。」


どこかに行くアテもなにもなく、この世界について知りたい気持ちが強まってきた天沼は、気付いたら賭場へと足を向けていた。暖簾をくぐり、受付にて申し込みをしようとする。


受付「お名前をお伺いします。それと、『ギャンブラーカード』をお持ちでしたらご提示お願いします。」


天沼(『ギャンブラーカード』?きっと雅さんから渡されたこれだろう。他にカードらしきものは持ってない。)


斜めがけのカバンをかけてきた天沼はカバンの中からカードを取りだし提示する。


受付「ご提示ありがとうございます。えーっと、天沼 雄さんですね。今日はどういったご要件ですか?」


天沼「ギャンブルの手続きをしに来ました。っと言っても、何を賭けてなにを得ようとすればいいのか分からなくて、、、説明も聞けたらなと思います。」


受付「分かりました。まず、次のゲームに参加希望ということで説明をさせていただきます。何を賭けるのかはギャンブラー同士の同意によって決まりますが、対戦相手を探して交渉してからゲームをする、となると中々始められませんよね?ということで、こちらの書類をご覧下さい。」


受付は書類を出してくる。そこには、『BET一覧』と書かれており、書類の上から下まで見ていくと、上はほとんど現金だが、下にはよく分からないものが書かれている。


『BET一覧』

1.現金10万円

2.現金50万円

3.現金100万円

4.現金500万円

5.現金1000万円

6.現金(上限なし。ギャンブラー同士の交渉に準ずる)

7.ギャンブラーカード1ヶ月

8.ギャンブラーカード3ヶ月

9.ギャンブラーカード6ヶ月

10.ギャンブラーカード12ヶ月

11.ギャンブラーカード(上限なし。ギャンブラー同士の交渉に準ずる)


天沼「この、ギャンブラーカード何ヶ月、というのはなんでしょう?」


受付「以前天沼様はワークマンズハンドサインで勝利したため、2ヶ月の生活が保証されるということは伺いましたか?入国したばかりの方は1ヶ月のギャンブラーカードも賭けられており、勝者は計2ヶ月分のギャンブラーカードを得られます。天沼様は現在、1ヶ月と29日分所有しております。簡単に言えば、ギャンブラーカードを賭けて勝ち続ければ、その期間分働かなくても生活が保証され続けます。また、ギャンブラー登録されている方のみ1ヶ月分を10万円でご購入いただけます。生活費の節約にもなるかと思います。」


天沼「なるほど、分かりました。では、ギャンブラーカード1ヶ月を賭けて勝負したいです。」


受付「以前雅様より、チップをお渡ししたと伺っております。また、ギャンブラーカードと現金は同時に賭けることができますが、いかがなさいますか?」


天沼(まああぶく銭のようなもんだし、元々失うものもない。やるか。)


天沼「では、現金も一緒に賭けて勝負します。賭け金は、」


受付が被せる。


受付「ギャンブラーカード1ヶ月のBETで同時に賭けられる現金は10万円となります。同じように、3ヶ月であれば50万円、6ヶ月であれば100万円、12ヶ月は500万円か1000万円になります。」


天沼「では、1ヶ月のギャンブラーカードと10万円を賭けます。」


受付「かしこまりました。天沼様と同じ条件で登録されてる方が3名おります。うち2名は既にゲームが決まっているため、もう1名の方と勝負になります。ゲームは明日の正午開始となります。遅刻しますと失格となり、不戦敗で戦わずにBETを失いますのでご了承ください。ではギャンブラーカードをお預かりします。」


天沼はギャンブラーカードを差し出し、質問をする。


天沼「時間を知りたいのですが、時計の類はありますか?」


受付「これは失礼しました、ギャンブラー登録をされた方にはこちらを配布しております。」


腕時計を天沼は受け取る。


受付「こちらは画面をタッチすると、『現在時刻』、『日付』、『残りのギャンブラーカードの期間』が画面に表示されます。紛失された場合はギャンブラーカードをこちらで提示していただけると再発行しますのでお越し下さい。また、充電もこちらで承りますのでお気軽にお申し付けください。3日ほどは充電が持ちます。充電ついでにギャンブルに投じるのもまた一興でしょう!」


受付は笑いながらそう言う。営業が上手いなぁ、と関心しつつ天沼は腕時計を手に着け、1度帰ろうとする。


受付「明日のゲームは『スリーカードセレクト』、対戦相手のお名前は『檜山(ひやま) 智選(ともより)』です。」

次回【檜山 智選】

2024/7/26/12:00投稿予定

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