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疑惑の顔面

雅に促されて、天沼は家に入る。玄関には全身を見れる大きさの鏡が備わっており、シューズボックスは1人で使うには十分な大きさだった。顔を見て天沼は言葉を失う。疑惑の顔面をしている。頭の中には「?」しか浮かばない。


天沼「え、、っ、、、、これは、」


雅「知ってる顔かね?私は君の顔を今日初めて見たが、君は『初めて見た顔ではない』のかもしれないな。たまに知らない顔の者もいるが、君はどうだい?」


天沼「この顔、名前は知らないですけど、ニュースで見ました。確か死刑囚の」


雅「そう、不思議なことに入国する者は自殺して入国してくるのに、姿形は死刑で殺された者になるのさ。さて、坂倉の顔も思い出すといい。見た目に似合わずオドオドとした男だったと思わないか?」


緊張と困惑で何も感じていなかったが、振り返って考えてみれば、確かに見た目は少し怖かったかもしれない。というか、見覚えのある顔だ。今の自分の顔と、坂倉の顔。近い時期にニュースで見た気がする。


天沼「この体、死刑囚の体に自殺した自分の魂が入り込んだ状態で入国したということですか?」


雅「左様。君の元々の人間は知らないが、ひょっとしたら外見だけでなく、心にも変化があるかもしれんな。」


天沼「心?」


そう言われると思い当たる節がある。人を追い詰めようとするタイプではなかった。ひょっとして今の自分、性格悪いのか?とも不安になった。だが天沼の中に1つの仮説が思い浮かぶ。


天沼「聞いたことがあります、心臓移植をした人が、元々野菜嫌いだったのにドナーの人は野菜が好きだったため、サラダを欲したという話を。もしかして、体が変わったから、それに応じて心にも変化が生じたということでしょうか?」


雅「さぁ、本当にそうなのかは知らないが、入国した者は多かれ少なかれ前の自分とは違うと感じるみたいさ。中にはとびきりの変人になる奴もいるが、まあそんな連中のギャンブルを見るのは面白いもんさ。」


そんな話をしつつ、雅は天沼に玄関で話すのではなく中に入ろうと促す。中に入ると家具は一通り揃っており、なんとも暮らしやすそうな間取りである。2階や庭などはないが、見た目より広く感じる、清潔感のある家だ。


天沼「本当に、ここに住んでいいんですか?でも家を手に入れても生きていくためには、、」


雅「死んだ奴が何を言うかね。」


雅は笑い飛ばす。


雅「衣食住は保証されると言ったろう、『少なくとも2ヶ月間』はね。棚の中に着替えはあるからテキトーに着るといい。食料は最初から蓄えられているが、足りなくなったらこのカードを商店で見せるといい。決まった物を渡されるだけだが、生きてく上で必要な食料なんかはもらえる。ただね」


カードを渡すと、雅は声のトーンを少し落として続ける。


雅「入国した者が永住していくにはまた大きなベットをしなくてはいけないよ。この街で3年間無事に過ごせれば、永住権が与えられる。それまで生きていくための道は2つ。まず2ヶ月以内に仕事を見つけて働き続ける、退屈な日々を選ぶ。もう1つは、ギャンブラーとして戦い続け、刺激的な日々を送り、一攫千金を夢見る。もし以前が退屈だったのなら、刺激を求める人生もまた一興ではないかな?」


天沼「と、とりあえず少し考えます。ありがとうございます雅さん、今の人生を頑張ります。」


雅「ハハッ、そんな建前のような話はよせ。心はもう決まっているのだろう?なんせ『今の心』は退屈な安寧を求めていないだろう。次のゲームはまたあの賭場で申し込める。何をベットできるかも説明を聞くといい。今度こそフェイクはなしさ。だが何を賭けるべきか、精査して臨みな。」


そう言うと雅は、100万円の札束を置いて天沼の家を後にする。


雅「これは面白いゲームを見せてもらった礼代わりのチップさ。君の軍資金にするといい。君のおかげで私は儲かった。」


雅の掴めない性格に困惑している天沼をよそに、雅は街へと消える。どっと疲れが襲ってきたため、天沼はベッドに入り体を休めようとする。するとその目には涙が浮かんできた。坂倉への罪悪感なのか、勝利した嬉しさなのか、よく分からない感情に飲まれて涙を流しながら、その日は深く眠った。

次回【スリーカードセレクト】

2024/7/24/12:00投稿予定

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