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勝負の行方

天沼の宣言は概ね当たっていた。しかしお互いにギャンブルは素人であり、高度な読み合いや掛け合いはあまりなかった。だが、時間とともに勝負は進んでゆく。


防人「さあチップは残り7VS12!天沼の大幅リードで勝負は大詰めだ!次の勝負といきましょう、ジャンケンポン!!」


天沼と坂倉はパーを出した。お互いパーで勝ちたい気持ちは勝負が進む度強くなる。


天沼「パーで勝ちたい気持ちは序盤より強くなる。だから今坂倉はパーを出した。できるだけ手は変えたくないはずだ。」


坂倉「今出した手を読んだって、手を変えられるのはお互い百も承知だろう!今言い当てたって、、」


天沼が被せる。


天沼「なんの意味もない。でもプレッシャーにはなるだろう?」


坂倉「ッ!!」


坂倉は焦る。


坂倉(どこまで手が読まれてるか想像できない。どうやったら勝てるんだ。いや、でももう)


坂倉の表情が消えゆく。


天沼「降参って顔に見えるけど。」


坂倉「ああそうさ、どうせ1回死んだ身だ。何も変わりはしない。」


坂倉は先に手を挙げた。


坂倉「俺はこれからずっとグーを出すさ。もう勝ち目はない。」


天沼「何のつもりかは分からないが、俺は変えないからな。」


防人「坂倉、事実上の降参だ!既に手は出ているが、天沼も手を挙げて!さあ勝負!!」


当然のように、天沼はパーを出す。


防人「これでチップは2VS12!勝負は次で決まr...おーっと、坂倉これは?やはりなのかー?」


坂倉は手をグーにしたまま挙げ続ける。その目には薄らと涙が見える。


天沼「坂倉。すまない。」


天沼はパーのまま手を挙げ続ける。そしてそのまま、30秒が経過する。


防人「手が挙がったまま勝負の時間だ!これは合図をするまでもない!!天沼の勝利だ!」


勝負の行方は最後まで分からない、というが戦意を失った者に勝利の女神は微笑まない。諦めた者は、勝負の行方を誰よりも先に知ることになる。それは当然、敗北の道である。


防人「天沼、あちらのお客様の元へ行くんだ。」


そう促された先には、客3が立っている。左手にワイングラスを持ち、優雅にワインを嗜むその姿には、どこか気品を覚える。彼が天沼に500万を賭けたということを、天沼は知らない。天沼は彼の元へと向かうため、ステージを降りて広場を歩む。


天沼「あの防人からあなたの元へ行くようにと言われました。あなたは?」


客3は答える。


客3「どうやら、私が今日のワークマンズハンドサインで『一番の勝者』みたいだな。いや、君が欲しいのはそんな情報ではないか。私の事は『(みやび)』と呼ぶといい。」


天沼「雅さん、あなたは、」


雅が話を遮る。


雅「通りすがりの遊び人さ。さあ君は勝負に勝ったんだ、これから『2ヶ月分の給料』と、労働の対価として保証される衣食住を確認しに行こうじゃないか。」


天沼と雅が話している後ろで、坂倉が連行される。坂倉は虚無と言った表情をしている。抵抗も言い訳もなく、防人が呼んだ黒い服を着た男たちに促されるがまま、賭場の奥へと消えてゆく。


天沼「あの、坂倉はこの後どんな労働を?」


雅「君がさっき言ってたではないか。『2度目の死』を迎えるのさ。あぁ、いい表情をするねぇ君は。」


天沼は驚きを隠せなかった。ハッタリのつもりでもあったが、まさか本当に命に関わる勝負だったとは思ってもみなかった。それ以上に、間接的とはいえ人を殺めた気分になっていた。天沼の心はとても複雑だった。


天沼「いや、俺はその、そんなつもりでは。」


雅「その顔が見たくて高額なベットをするもんだ。まぁ敗者のことは気にするな。いつものことさ。行くぞ。」


天沼「行くぞ、とはどこへ?」


雅「さっきも言ったろう?君の衣食住の確認、つまりは住居を見に行くのさ。」


天沼「、、、わかりました。」


天沼は暗い面持ちで雅と名乗る男についていく。賭場を出て街をしばらく歩くとそこは、木でできたコンテナハウスのような、仮設住宅のような、集合住宅が広がっていた。


雅「ええっと、君の住居はと。ここだ。この3番の家を好きに使いなさい。さあ、これが鍵だ。」


雅は手を下向きのグーにして、天沼の差し出す手のひらの上に鍵を落とす。どこか偉そうな態度だ、と天沼は感じたがそんな些末なことを気にしていられる状態ではない。


天沼「あの、坂倉は今頃どうしているのでしょう?」


雅「まだあの男が気になるかね?まぁいいさ、敗者の道を知るのも勝者の特権だ。彼は今頃、終わらぬ歩みに苦しんでいる頃だろう。」


天沼「?」


雅は笑いながら軽口を叩くように話を続ける。


雅「飲まず食わずで働いてるのさ。収穫した小麦を粉砕するために、大きな臼を回す。その動力は人力さ。歯車の上に立って、ずーっと歩き続けるのさ。加工する者達が休む夜までね。」


天沼「てっきり命を取られるものかと、、」


雅は笑う。


雅「何を言ってる?生きていられる訳ないだろう?臼を回す動力にされて飲まず食わず。いつかは限界が来るが、その時は一緒に臼に潰されるだろう。歩かされている歯車と臼のにはいくつも歯車があってね。動力源の歯車は、限界を迎えた敗者をすり潰す『人間用の臼』も兼ねている。司会の話していた敗者も衣食住の保証や休みの保証されるって話、あれは全部嘘さ。気軽に戦ってもらって、実はそれが命賭けでした、なんて最高のショーじゃないか。」


天沼はゾッとする。もしかしたら自分もそうなっていたかもしれないこと。そして、自分が勝ったために坂倉をそんな目に遭わせていること。あらゆる恐怖が天沼を襲う。


雅「まぁとにかく家に入りたまえ。君の家さ。それと、鏡を見るといい。」


天沼「鏡、ですか?」


雅「君は自分の装いは分かっていても、入国してからの自分の顔は知らないだろう?」


納得する説明を受けた気分になる。確かに天沼は入国した時、辺りを一瞥し、自分の装いを確認したが、自分の顔は知らない。入国前と変わらないと思っていた。いや、そもそも自分の顔について何か思うことすらなかった。

雅が怪しい笑みを浮かべながら話す。


雅「自分の顔を見たら、次に坂倉の顔を思い出すといい。なにか発見があるかもしれんな?」

次回【疑惑の顔面】

2024/7/22/12:00投稿予定

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