視野を広げて
天沼(そういえばここの客達は何を見に来ているんだ?こんな素人のジャンケンを見るより、自分たちでギャンブルていた方が楽しいのではないか?)
天沼は、2連敗している現状とは裏腹に、冷静に場を見て考える。
天沼(俺も坂倉も、入国したばかりだ。なのにいきなりギャンブルをして、元手がないのに勝手に労働をベットさせられている。色々と不自然だ。)
防人「チップは27VS30!坂倉リードだが大きな差はまだない!天沼、ここから勝てるかな?!」
坂倉「ツキは僕に来ている!申し訳ないけど、勝たせてもらう!」
天沼「ひょっとして、そういうことか?」
坂倉「?」
天沼「いや、こっちの話だ。続けよう!」
防人「おーっと天沼急にやる気を出した!何か変化があるといいが勝負はまだ分からない!さぁて次の勝負だ、ジャンケンポン!!」
天沼はパーを出した。
天沼(ここで何を出すかは問題ではない。坂倉にとって、リードを広げるにはチョキかパーで勝ちたいはず。だが差を縮めたい俺もそれは同じ。)
天沼「俺はグーで勝負する。君がなんと言おうと、俺はこの手を変えない。」
坂倉「?!なんの狙いかは分からないけど、僕はパーを出すよ。」
坂倉は焦った。仮に勝ってもあまり得にならないグーを押し通すという宣言。必死に言葉の裏を読むが30秒で答えは出ない。坂倉は迷った末、チョキを出す。天沼が勝ちたいであろうチョキもパーも、チョキならあいこか勝ちなのだから。
防人「今回は動きが少ないな、さてどうなることやら!2人とも手を挙げていざ勝負!」
天沼グーVS坂倉チョキ
防人「天沼ここでようやくの勝利!坂倉の流れを止めたぁぁー!」
チップは29SV27。まだまだ勝負は遠い。しかしここで天沼が口を開く。
天沼「坂倉、もしかして自殺して入国したんじゃないのか?」
坂倉「えっ、、、どうしてそれを」
防人はニヤリと笑う。
天沼「俺もだ。おかしいと思ったんだ、この世界に来ていきなりギャンブルをさせられたり、命を賭ける事もあると言われたり。それに、俺の前にも、新しく入国した者は何度も来ているという。」
坂倉「つまり入国者はみんな、自殺してここに来たと?自殺が入国の条件なのか?」
天沼「証拠はない。だが俺と坂倉がそうなら、今までもきっとそうだろう。そして」
天沼は表情をひときわ険しくして言う。
天沼「ここでの負けは、きっと『2度目の死』を意味するんじゃないか。」
観客にどっと動揺が走る。それは、賞賛にも似た感情であった。
客1「初めてだな、これに気付く奴が現れたのは。」
客3「天沼は他の入国者とは違う。あんたらも気付いてたじゃないか、彼の豪胆さに。最初のジャンケンで手を変えなかったろう?彼はキモが据わっている。」
客2「あんたはそれを見て500万も賭けたのか?」
客3「さぁ、どうかなぁ?」
客3はニヤリと笑いながら曖昧に答える。
坂倉「で、でも!1度死んだ身なんだ。それも自ら死んだんだ!今さら命を賭けたって、何も怖くない!」
天沼「そうだな、普通に死ねるならきっとそうだろう。でも客達は何を見に来た?」
坂倉「な、何が言いたいんだ?」
天沼「いや、杞憂かもしれない。勝負を続けよう。」
防人「2人の空気が変わったぞ!果たして事実かハッタリか、いずれにせよ坂倉の表情からは余裕と安堵が消えたぞ!さあ参りましょう、次の勝負だ!ジャンケンポン!!」
天沼はパーを出した。
天沼「坂倉、この勝負は俺達だけの戦いなのか?」
坂倉「何を言い出す?戦ってるのは僕たち2人だけじゃないか!」
天沼「さっきのを見たろう、賭けられているんだよ、俺達は。つまり、、、」
坂倉「つまり、何さ?」
天沼「いや、これ以上は答えを教える。あえてここで黙っておくよ。それより俺はチョキを出した。一番このルールで安心できる手だからね?今の坂倉のように。」
坂倉はドキッとした表情を浮かべる、しかしそれは、坂倉を冷静にさせる一言でもあった。
坂倉(チョキがバレているなら、彼はグーを出す。それを見越してパーを出せば。いや、さらに見越してないとこんなことは言わない。1つ見越したパーに対するチョキを見越してグーを出すだろう。ならば僕は)
坂倉「そ、その手は食わないぞ!僕は出す手を決めた!」
天沼の視界に坂倉は入っていない。天沼は顔を動かさず、辺りを見渡す。しかし坂倉はそれに気付いていない。思考に必死だからだ。
天沼「なるほどね。」
防人「さあ30秒が経過した!2人とも手を挙げて、いざ勝負!」
天沼チョキVS坂倉パー
坂倉「?!」
天沼「言ったろう、チョキが1番安心するって。」
防人「天沼が追いついた!チップは27SV27!勝負は分からなくなってきたぞ!」
天沼「ジャンケンは時の運もあるから、絶対とは言えない。ここから俺が何度か負けるかもしれない。けどね」
坂倉「けど何だ!さっきからもったいぶって、何を言いたい!」
天沼「俺は勝つよ。坂倉、悪いけど勝たせてもらう。」
再び賭場に動揺が走る。
客1「勝つって?2連敗したのに、2連勝して並んだだけで大層な口を。」
客2「動揺させるハッタリだろう。機転は認めるがまだ分からんな。」
客3「アンタら、後悔するぜ?」
客1「あなたまでそんなことを?第1誰なんだ?あなたは。」
客3「さぁな、通りすがりの遊び人ってとこかな。」
防人「天沼に場の雰囲気を持っていかれたか?同点だからまだ分からない、坂倉連勝をストップできるか?さあ行こう、ジャンケンポン!!」
天沼「坂倉がどんな人物だったのか、俺は知らないし坂倉も俺の事は知らない。だけどこれだけは言える。」
坂倉「?」
天沼「この勝負は運なんかじゃない。俺達のどっちが優秀かを見せつけるものだ。」
坂倉「そ、そんなこと言われなくても今までの説明で分かるよ!」
天沼「視野を広げて観察し、よく考えれば分かる事さ。」
坂倉「訳の分からないことを言わないでくれ!俺はチョキで勝負する!」
天沼「そうか、なら俺の出す手は1つだな。」
防人「おーっと不穏な空気が流れてきた!2人とも手を挙げていざ勝負!」
天沼パーVS坂倉グー
坂倉「なっ!!!!」
天沼「よし!差をつけさせてもらう!」
防人「天沼がパーで勝ってチップは22VS27!一気に0へと近付けた!」
坂倉「っっ、、、、次こそは僕が!」
天沼「改めて言うけど、恨みっこはなしだからね。」
次回【勝負の行方】
2024/7/20/12:00投稿予定