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ワークマンズハンドサイン

賭場の入口にある暖簾をくぐると、そこには学校の体育館にカジノを置いたかのような場が広がっていた。前方にはステージと幕があり、メインとなる場では博打に勤しむ人々とそれを取り仕切るディーラーの姿があった。ディラーはみな同じ格好をしていたが、ギャンブラーたちの服装は様々であった。まるで身なりから階級が想像できそうなくらい、小汚い格好から貴族のような振る舞いの者までいた。


防人「私の実の仕事はここの賭場へ入国した者を案内すること、そして最初のギャンブルの手続きを行うことだ。防人として門番をするのも仕事なんだが、そっちは商売あがったりな程に安全そのもの。なにか危険が起これば仕事が増えるのだが、災害も獣害も何も起こらない平和そのものでね。」


天沼「つまり、入国者はみなギャンブルをしなくてはいけないということですか?」


防人「ハハッ、察しが良い。その通り。入国者はひっきりなしにやってくる。優秀な人材を見つけるには、彼らに選別させるのが手っ取り早くてね。」


天沼「だから命賭けのギャンブルもさせるのですか?」


防人「いいや、そこまで来るのは狂人の趣味か他に何も賭けるものがない、哀れなギャンブラーさ。最初は『労働』をベットしてもらう。なんせ、入国したばかりで右も左も分からない者同士。労働力としては1人も2人も大差ないからね。」


天沼「ここに来た以上、賭けには興じないといけないのですね。仕様がない、分かりました。ギャンブルに臨みます。」


防人「そうこなくては!前方のステージ横に待機所がある。狭いけどすぐの辛抱だから、そこで待っててね。」


ステージ横の待機所に入ると、そこには「ご自由に」と書かれた、蛇口のついた樽がある。ウォーターサーバーのようなものだろうか。横には「未使用」と「使用済み」と書かれたトレーがあり、未使用のトレーにはコップがいくつかある。緊張のせいか、喉が渇く。天沼は水を一杯入れて飲んだ。


天沼「入国して始めて口にする。ただの水で特に冷えてる訳でもないが、なんだかとても美味しい。これからどうなるんだろう。」


そう言いながらもう一杯水を飲んで待っていると、防人の声がした。


防人「さあさあ入国者のお二人さん、最初のゲームを始めよう。ステージに出てきてくれ!」


天沼「呼ばれたか。もうどうにでもなれ。」


天沼は待機所から直接ステージに上がる。中央には防人が立っている。ステージの向こうからは一人の男が出てきた。自分と似たような特徴のない服装に、斜めがけのカバン。男も緊張した様子だった。


防人「2人には1ヶ月の労働を賭けてジャンケンをしてもらう!今日のゲームはとてもシンプル!ワークマンズハンドサイン、開幕だー!」


ステージから広場を見ると、ギャンブルをしながらこちらを見る人たちがいる。なんの見世物だ?と思いつつ天沼はステージの向かいからきた男と対面する。


男「初めまして、坂倉です。」


天沼「天沼です。何が何だか、、、何か聞いてますか?これから何が始まるとかですけど、、」


坂倉「いいえ、何も。あなたも、特に聞かされてないんですね。僕もです。」


防人が2人を見て話す。


防人「2人とも入国したばかりだからね。今回のゲームも初めてだし。ま、ルール説明といきましょうや」


そう言って防人は、ステージから広場の方へ向いて話を始める。


防人「ご来場の皆さんはご存知、『ワークマンズハンドサイン』、今回も初挑戦の2人のためルールを説明します!

今回賭けるのは1ヶ月分の労働!勝者は1ヶ月分労働免除で衣食住を保証されます!もちろん敗者になっても衣食住は保証されますが、2ヶ月間きっちり労働してもらいます!あ、休みは週1から2なので安心してね?」


休みがあるのはありがたいと思ってしまった2人は、入国前辛い仕事生活だったのだろう。だが、相手も同じ気持ちだとは思いもしなかった。しかし不安もある。労働とは一体、、、?

2人の不安をよそに、ルール説明は続く。


防人「このゲームでは30枚のチップを減らしていき、先に0にした方の勝ちです!先に断っておきますが、このゲームはシンプルながらとても難解なゲームです」


天沼「ジャンケンと言ってたのに難解?ゲームに名前もついてるし、どういうことでしょう?」


坂倉「僕も意味が分かりませんが、とりあえず聞いてみましょう。」


防人「このゲームは至ってシンプル、ジャンケンをして勝った方がチップを減らせます!しかし、ただ勝ってただチップを減らすんじゃ読み合いも何もありませんよね?てことでゲームを面白くする2つのスパイスを加えたのがワークマンズハンドサインです!」


ステージ後方の幕が開かれる。机が1つと、向かい合って椅子が2つ置かれている。広場から見て左右から中央を向くように机に椅子が備わっており、机の上には低い仕切り板がある。


防人「2人にはまず仕切り板で相手に見えないようにグーかチョキかパーを出してもらいます。その後、30秒のシンキングタイムを設け、その間は好きに手を変えられます。シンキングタイム中は相手との会話で相手の出す手を予想してください!もちろん駆け引きですので嘘ついてOK!シンキングタイム終了時には合図をしますので、その時出したままの手を上に挙げて勝負です!」


なるほど、話が見えてきた。2人はそんな表情を浮べる。


防人「そして、もう1つのスパイスが、勝者のチップ数です。減らせるチップ数は勝った時自分が出した手によって変動します。チョキで勝てば2枚、パーで勝てば5枚減らせます。グーで勝った時になにもないのは面白くないので、グーは1枚減らせます。当然、負けた方は何も減らせません。ジャンケンって、全ての手が同じ強さで平等だから三竦みが上手く機能するのですが、それじゃあ運否天賦。この2つのスパイスで、ジャンケンを高度な心理戦へと昇華させていきます!」


坂倉「恨みっこなしですよ」


天沼「もちろんです、恨み言も何もなしでいきましょう」

次回【嘘か誠か】

2024/7/15/12:00投稿予定

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