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入国審査

「俺は、、、

もう俺の名前なんてどうでもいいか。広い世界に何十億といる人間のうちの1人だ。俺の人生も物語もどうでもいい。なんせもう終わるんだから。」


激しい雨の降り注ぐ中、ビルの屋上に一人の男が立っている。立ち入り禁止を乗り越え、錠を壊して入ったらしい。

男はビルから飛び降りた、と同時に激しい閃光が街を覆う。雷だ。男の残像を残し、影も形もなくこの世から消えた。


気付いたものなどいなかった。男は静かに飛び降りたのだから。傘をさしていたのもある。誰も上を見る者などいなかった。


「ここは。そうか、きっと天国か。あるいは地獄か。俺は死ねたのかな。死んだ後にも意識があるのか。なんだか不思議な気分だが、あの世に逝くってこういう事なのかな。」


不思議に思っていると、仄かな光とともに声がする。


「あなたは世界に不満を持っていた。悲しいかな、だから命を捨ててしまった。あなたの人生には刺激も娯楽もなかった。ならば、不満のないよう、別の世界で刺激と娯楽に満ちた人生を送らせてあげましょう。」


(ッ、声が出ない。なんなんだこの声は、頭の中に直接響いてくる。そもそも頭とか耳とか、今の俺にあるのか?何も分からない、視界を動かせない。な、なんの光?光が広がってゆく)


「ここは?ハッ、今俺、声を発したのか。視界も動かせる。ということは」


男は辺りを一瞥し、自分の両手を見つめる。そして自分の状態を確認する。たしかに体がある。五体満足だ。なぜだか服も着ている。ポケットをまさぐるがなにもない。斜めがけのカバンを持っているようだが、何も入っていない。手ぶらと言って差し支えないだろう。辺りを見渡すと、見知らぬ草原が広がり、遠くには見知らぬ町がある。


「町だ、文明がある。ということは人がいるのか?言葉が通じるといいが、とにかく行ってみないことには何も変わらない。ここで待ってても野垂れ死ぬだけだ、行ってみよう」


町へ行くと、入口には木でできたゲートがある。不思議なことに日本語で書いてあった。


「やしろまち?ここの町の名前かな?」


ゲートの下には案内と書かれた、出店のようなテントがある。


「あの〜、すみません。」


防人「あぁ、見ない顔だね。しかもこっちから入ってきたその身なりだと、あなたも『入国した』人かね。」


「にゅ、入国?なんの事かは分かりませんが、私の他にも同じような人がいるのですか?」


防人「あぁ、あなたのような入国した迷い人は時々やってきてね。どうも入国した者はみなこの町の近くで入国してくるようで。」


「なんの事かさっぱり分かりませんが、他の人たちはどうしたのですか?」


防人はテントから出て、町の方へと歩き出した。


防人「着いてきなさい。道すがら話をしよう。名前は?」


天沼(あまぬま) (ゆう)です。 」


防人「天沼くん、君はギャンブルは好きかな?」


天沼「ギャンブル、ですか?」


防人「そうだ。今の君はここに来たばかりで何も持っていない。お金も食料も、寝るところも。ならば、賭けをして勝ち、それらを手にしたらいいのさ。」


天沼「しかし僕には賭けられるものがなにも、、」


防人「何を言っている、あるではないか。君の命さ。」


天沼「ッ?!」


レンガでできた、小さいビルのような建物の前に2人は立った。


防人「着いた。ここが町一番の賭場だ。まぁ、命とは言ったが、賭けられるものは様々さ。労働を賭けるのもよし、金を稼いで金を賭けるのもよし、命を賭けてもいい。ゲームによって何をベットできるかは変わるから、その都度説明を聞くといい。」


天沼「あ、ありがとうございます。」


防人「あぁそうそう、言ってなかったが私の仕事は君の入国審査をすることさ。」


天沼「入国審査ですか?」


防人「そう、入国した者はみな勝手に入国してくるのでね、審査をしないと我々の秩序が維持できないのさ」


天沼「と言っても、何をするんですか?」


防人「なぁに身構えなくていいさ、2ヶ月働いてもらうだけさ。ただし、ゲームに君が勝てば労働は免除の上、衣食住を提供する。」


天沼「働くのはここですか?」


防人「いいや違う、実は数日前にも入国してきた者がいてね、その人と君とでゲームをしてもらう。勝った方は労働免除、負ければ2ヶ月働く。つまりは、1ヶ月分の労働をベットしてギャンブルするのさ」


天沼「な、なるほどわかりました。ちなみにギャンブルせずに働くというのは」


防人「ハッ、つまらん事を言う。そんなつまらん奴はただ死ぬだけだぞ。刺激がないではないか。」


天沼「ふぅ、仕方ない、ギャンブルするしかないのか」


天沼は防人に案内されて、賭場へと入っていく。

次回【ワークマンズハンドサイン】

2024/7/12/12:00投稿予定

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