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神様と悪霊再会する

 一体何だったんだんだ。ありゃ。とは思ったけれども一旦忘れて俺は未来殺しに戻る事にした。とにかく未来に死んでもらわなければ話が始まらない。俺は地道な活動を再開した。トラック。通り魔。不運な事故。病死と自殺は駄目。体と心は健全でいて貰わないと今後の計画が崩れてしまう。なんかこう「え? 何が起こったの?」みたいな感じで死んでもらわないと。でも、やっぱり上手くいかない。教室で机にぶつかった五秒のずれ。後ろから友達に声をかけられた為にあと一歩足りなかった歩幅。リュックのチャックが引っ掛かって体を反らした一瞬。そんな僅かな誤差で死に導くアクシデントから未来は逃げ続けた。元々どんくさい子だとは思っていたけれども、そのせいで俺の企みが上手くいかない事には本当にやきもきする。一度それを見越して少し時間を遅くしたらその時はすんなりと行動しやがった。おいいー! 未来ー!!!


 くっそー。マジであの背中をちょいと押せばそれで済むんだけどなぁー。と、電車を待つ未来を上空から見ながら俺は爪を噛んだ。前にもよろけた感じで他の乗客に押させようとしたら靴紐結び直そうとしてしゃがんだり忘れ物思い出して列から抜けたりして上手くいかなかったんだよなぁー。今は最前列に並んでいるし、またとないチャンス!!


 よし! 行こう!


 と、俺は未来の後ろに降り立った。そして、せーの!


「またお前か。このド変態が」


 その声と共にぎゅっと首を腕で絞められて誰か悟った。あの悪霊だ。そして今日は最初から百パーセントで絞めに来ているのが分かる。「きゅ」と絞められた拍子に音が漏れた以降、言葉も出せない。腕を引っ張ろうとしても全く動かない。こいつ女の癖に力強過ぎだろ。


「うー! うー!!」


 じたばたじたばた!! と、エアウォークみたいに宙で足を動かしたけれどもびくともしねぇ。マジかよ。例によって霊感が強いかもしれない人間がこっちを二度見していた気がしないでもないが、こっちもこっちで修羅場なのでそんな事に構う余裕はない。そんな事をしている内に電車がホームに入ってきた。がたんごとん、ぷしゅー(ドアの開く音)…ぷしゅー(ドアの閉まる音)…がたんごとん。あー。行っちゃった。そしていつかの様にそこに向かって手を伸ばしたらやはりその手が気に入らなかったらしく、後頭部を地面に叩きつけられて俺はマウントを取られた。(数日ぶり三度目)いってー。


「あんた、やっぱり諦めてなかったの? このロリコン野郎」


「十七歳相手もロリコンになるのか?」


「やっぱりそういう趣味か!! この変態! 死ねー!!!!」


 単純に疑問で質問した言葉に女は激怒した。そして俺の首を二百パーセントの力で絞めてくる。前回よりも明らかに力強くなっているんですけれども!? マジでヤバい! 死ぬー!!!


 そして俺は当然神の力を解放した。が、前回溶けた手だけが溶けずに女の体が一気に薄くなる。こいつ、俺を殺す事を最優先に手だけを残す気だ。そう分かって少しだけ緩んだ手を振り解いた。その執念に少し背筋が寒くなる。自分が死ぬところだったって分からない筈がないのに何でそこまで?


 立ち上がった俺の前で女はへたり込んでいる。けれどこっちを睨みつける目にはまだ殺気がある。もしも俺未来を追ったら、こいつは消えるまで追ってくるだろう。


「…お前、何なんだ?」


「…」


 薄くなった彼女は何も言わない。多分、苦しくて何も言えないのだ。それ程、手だけに全てを集中して俺を本気で殺しにきた。こえぇー。こいつこそ本物の死神なんじゃないの?


「何でそこまでして」


「…」


「なー。昨日のドラマ見たー?」


「はい。この度はご迷惑をおかけしまして…」


「お前は」


「まだ見てない。お前絶対に言うなよ?」


「ですからその件は一度会社に持ち帰って…」


「未来の」


「えー? それって完全にフラグだよな? 昨日はマイケルとジェニファーがボブの秘密に」


「本当に申し訳ございません!!」


「やめろー!」


「うるせええー!!」


 誰も悪くはないんだが、電車待ちする人間が集まってきて会話の邪魔をしやがる。仕方がないので俺は女をひょいとつまみ上げ、静かなところに移動した。






「で? お前何なの?」


「あんたこそ何なのよ。変態」


「…」


 少し回復したと思ったら口から出てきたのは罵倒である。このアマ。自分の立場が分かってるのか? 俺は人気のないビルの屋上で顔を顰めた。


「悪霊の癖に神になんて口の利き方するんだ? 身の程を弁えろ」


「神が聞いて呆れるわ。人殺し」


「人殺しじゃねーわ!!」


「女子高生を執拗に追いかけ回して殺そうとしてる奴は変態の人殺しに決まってんだろうが!!」


 こーのーやーろー!!! 否定するところが無くてびっくりするわ!


「こっちにも事情がある」


「事情が人殺しを許すなら警察は要らないんだよ」


 そう言われるとぐうの音も出ねえ。だから違うんだって!!


「そうじゃなくて!! 未来には使命があるんだ!!」


「…使命?」


 仕方なく舞台裏の事情を口にした俺に、女は怪訝そうな顔を向けた。


「あいつはこれから異世界に転生して世界を救うの。そういう運命なの!!」


「…」


 そういった俺を女は不快そうな顔で見る。そしてやがて、心底嫌悪した様子で呟いた。


「現実と仮想の世界の区別がつかなくなってるみたいだから病院に行け」


「お前神馬鹿にすんな」


「自分を神だと思ってるところもヤバいぞ。病院行け」


 最早神と言うことも否定され始めた俺。


「お前、また溶かしてやろうか」


「今度は脅迫? 神様怖いわー。自分勝手だわー」


 ぐぬぬ。このアマ。本当に生意気が過ぎるんですけど。


「とにかくそういう事情だから二度と邪魔するな。次は本気で浄化するからな」


 成仏と浄化はものが違う。成仏すれば魂は転生し、再び人の世を生きることができる。しかし浄化すれば魂は消える。二度と生まれ変わることはできない。


 生まれ変わればゼロからリセット。前世の記憶が残るでも無しに、そのまま消えようが生まれ変わろうが分からないんだから一緒でしょ? と、思う事無かれ。魂が転生するということは生き物にとってとても尊い事なのだ。どうしてそう言い切れるかって? 「神がそう作ったから」その有限の人生に感じる喜び悲しみ嬉しさ悔しさ。欲も希望も夢も絶望も、全部に愛おしさを感じる本能を付けたから。これに抗える筈がないのだ。もう理屈とかじゃなく、そう作られちゃってるの。だから無理なの。


 が。


「ならばここでお前を殺す」


 そう言って彼女はまたしても俺に馬乗りになった。おおい? ちょっと嘘でしょ? この人次の人生に全然未練が無いんだけど。そんな事ある? 本能ってそういうものじゃないんだけど。


 彼女は俺の喉仏に親指を置いて言った。


「お前が私を浄化するのが先か、私が死ぬのが先か」


 あ。こいつ本気で無くなっても良いと思ってる。その覚悟で俺を殺す気だ。と、目を見て悟る。全く迷いがない。リミッターが外れた人間の目。人が神の「創造」を越えていくこの瞬間が俺は嫌いじゃないんだよね。どうしよう。


 あと、マジで死ぬかもしれん。その位油断がない。俺が抵抗した瞬間にこいつは親指に全身全霊の力を込めるだろう。コンマ何秒かの戦いで下手したら二人とも死ぬ。


 …俺が無力な人間ならね。


「その前に、俺だけが話してお前の事を話さないのはフェアじゃないんじゃないの?」


「…」


 しかし女は口を開かない。指に全神経を集中したままぴくりとも動かない。下らない話は脳に届かないのかもしれない。面白いもんだねぇ。人間ってやつは。ここまで集中ができるのか。五感全てを操作して。


「お前が俺を神じゃないと信じるのならそれでも良い。けれど実際には何でもできる神様なんだわ。今、この瞬間に未来を死なせることもできる。やってみせようか?」


 ぴくり、と僅かに指が動いた。彼女は駆け引きをしている。この瞬間に指に力を込めてしまうか。どうしようか。上手くいけば良いけれど、そうじゃなかったら犬死にだ。その後未来を守る者はいない。こいつに殺されてしまう。かと言ってこいつの話に乗るのも危険だ。いつ何時何をするか。本当の神なら、こいつが言う通りあっさり未来は殺されてしまうだろう。しかし嘘かもしれないこいつの話に乗る必要があるか。


「お前が俺の提案を飲むなら、今日一日はお前にも未来にも手を出さないことを約束する。未来の寿命は確実に一日伸びる。それだけでも俺の話に乗る価値はあるんじゃないか?」


 一日の安全は、どこから来るか分からない俺の攻撃に神経を尖らせる必要がないだけでどんなに魅力のあるものか。絶え間なく未来を殺そうとあの手この手を打ってきた俺だから分かる。それくらいしつこく未来の命狙ってたからな。こっちも形振り構っていられない訳よ。それが、今日が終わるまで完全に解放される。その時間、未来から集中を解いて考える時間にも使える。


「…お前の話を信じる根拠は?」


「神様は嘘つかない」


「神という証拠がない」


「お前を溶かすことができる」


「…」


「お前を治すことも自由自在」


 そう言って、俺はまだ薄い彼女を元に戻した。その感覚に目を丸くした彼女は、ため息をついて俺から降りた。

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[良い点] とてもパワフル! [気になる点] より強力な主役と敵を見ることができることを期待していま [一言] 全能宇宙からの好評!
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