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神様と悪霊出会う

 あたしの名前は伊藤未来。十七歳の高校二年生です。どこにでもいる普通の女子高せ…。


「あわ」


 自己紹介中に失礼。民家から飛び出ていた木の葉っぱにおでこをぶつけてしまいました。しかも今朝方まで雨が降っていたから水玉が顔に。あー。もう。渡ろうとしていた横断歩道の信号が点滅し始め、歩行者が切れたものだから慌てて左折していったトラックが通り過ぎていく。これで信号一回待ち。ふむ。仕方ないか。こういう些細な残念は慣れっこ。慌てても良い事がない事を分かっているあたしは次の青信号を待つことにした。急いでいないし、大丈夫大丈夫。






「あれー? また失敗かよ。くっそー。全然死なねぇなぁ」


 それを遥か上の方から見ていた一人が呟いた。何で死なねぇんだ? さっさと死んでもらわにゃ困るんだが。


 っていうか、こんな成功率の低い事してないで、あいつの後ろに下りて背中を押せば一発じゃね? おっとっと、キー! どん! でお終いだわさ。そう思ってすいーっと未来の後ろに下りてきた。そしてその背中を押そうとしたその瞬間。


「ちょっと」


 その手首を捕まれ「はい?」と思って振り向いたらこっちを睨みつけている女と目が合った。え? 何で? 何で俺の姿が見えて手首をつかめる訳? そう思っていたら女は般若のような顔で言う。


「あんた何しようとしてんの?」


「こいつの背中を押して車に轢いてもらおうと思っていますが?」


「あ?」


 そう呟いた女は、次の瞬間俺に馬乗りになって胸ぐらを掴んでぶんぶん上下に振り回した。ごんごん頭が地面にぶつかる。痛い痛い。


「人殺し!! この人殺し!! 最近死にそうになる事がやたら多いと思ったらお前のせいか!!」


「ぐえっぐえっ。止め…」


 っていうか、死にそうに…? って事は、お前が邪魔してたんだな!? あの手この手で自然なお亡くなりを狙っていたのに道理でおかしいと思ったわ。さてはさっきの木の枝もお前が…。という心の内は何一つ口から出す事はできませんでした。


「お前のような不届き者は始末する!! おらぁー!」


 ぎゅー!!


「ぐええー」


 俺の言葉は何一つ届かず、女はいきなり俺の首を絞めた。止めろ。本当に死ぬ。


「この変態が!! 殺人鬼が!! 死んで詫びろ!!」


「ぐえーっ。ちょ、ちょ…っと!! ま…話を聞けーーー!!!」


 俺は死に物狂いで暴れてその手から逃れた。そして立ち上がるも姿勢低く、二人で一触即発の体勢で睨みあう。こいつ、ただものじゃないな。俺の首を絞めるなんて。


 それは向こうも同じだったらしい。鼻息荒く俺を睨みつけていたが、やがてレスリングの組み手の様にしゅっしゅと手を出して牽制し始めた。マジで俺の首を狙ってやがる。大した度胸じゃねーか。このアマ。


「やんのか? こら」


「あ? そっちこそやんのか? 大体そっちから手を出してきたくせに何なの?」


「手を出した? お前に用なんかこれっぽっちもねーよ」


「だったらさっさと帰れ。こっちだってお前の顔なんか二度と見たくないわ」


「用が済んだらさっさと帰るっての。こんな下界に長居していられるか」


 と、身を翻して未来の背中を押そうとしたら首に腕がしゅっと絡んでぎゅっと絞められた。迂闊。俺。何であの女に背中を向けたの? いくら焦っていたからとは言え馬鹿じゃないの俺。


「ぐええーっ」


「死ね!! この人殺しが!! 死ねぇえーー!!」


 その目前で信号は青に変わり、何も知らない未来はゆっくりと歩き出した。


「未来ちゃん。おはようー」


「あ、おはようー」


「さっき、あそこで木の枝に引っかかったでしょ」


「え? 見てたの?」


「見てた見てた! 未来ちゃんらしいなーって」


「ちょっとー」


 そんな事を話しながら友達と二人で学校に歩いていく。その枝さえなければ未来が青信号で横断歩道に入り、点滅をしたタイミングでトラックが曲がってきて轢かれていたもう一つの未来を彼女経は知らない。そして横断歩道脇でレスリングをしていた男女の存在も。


 あああー。行っちゃったー。さすがに学校じゃ手が出せない。そう思って薄れゆく視界の中で手を伸ばしてみたものの、その手すら気に入らなかったのか、再度俺をひっくり返し地面に後頭部をぶつけた俺に女は言った。


「で? 一体どういうつもり? この変態が」


「うっせー。この暴力女が。初対面で首を絞めるとか、お前の方が殺人鬼だろうが」


「正当防衛って言葉を知らないんですかー」


 馬乗りになった女は俺の頬を両側にむぎゅーっと引っ張る。横断歩道には再び人が集まり始めている。そこでマウント取られている俺。霊感が強いかもしれない人間がこっちを二度見していた気がしないでもないが、こっちもこっちで修羅場なのでそんな事に構う余裕はない。


「そもそも、あんた何なの?」


「ふがふが」


「日本語で答えろ」


「お前のせいで話せないんだろうが!!」


 ぶるぶるぶるっと水を払う犬の様に首を回してやっと手が離れた。そして俺は女が怯むであろう決定的な一言を口にした。


「この無礼者が!! 俺は神だぞ!!!」


 …筈だった。が。


「…神ぃー?」


 顔を顰めて胡散臭そうに呟いた女は、俺の胸ぐらを掴んで至近距離で睨むとこんな事を言う。目が怖い。


「死神か? 疫病神か? 貧乏神か? どれでも良いけど殺す」


 あ。マジだ。この目はマジだ。…ぐえー!! ギブギブギブ!! バンバンと女の手を叩いた。こいつ、会って五分の相手を本気で殺そうとしている。正気かよ。まぁ、俺は着地一秒で何の罪もない女子高生を殺そうとしていた訳だが。


「違うー!! 俺は本当の神なんだー!!」


「本当の神でも何でも良いわ。殺す!」


「やめろぉー! ぐえええー!」


 本気で生命の危機を感じ、思わず力を解放した。全知全能の神な俺。本当ならこいつなんか、ちょちょいのちょいなんだぞ!!


「!!」


 その瞬間、どろり、と女の手が溶けた。俺が何者か、本能で分かる様に発令した神の力。清く尊いその力に体が溶けた? という事は。


「…お前」


 慌てて飛び退いた女は蒼白な顔色でこっちを睨みつけている。体を起こしてその腕がゆっくりと再生するのを見ながら俺は呟いた。


「…悪霊だな?」


「…」


 その言葉に女は更に強く俺を睨みつけた。が、そのまま姿を消した。

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