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クロウディア  作者: 綾奈
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第七話 世界の崩壊

次回最終回、その前日譚のようなものなので今回は短めです。

第七話 世界の崩壊


11月20日(月) 後藤(ごとう)家宅 朝


 〈それでは、次のニュースです。現在、各地で突発的に起きている謎の地震ですが、原因は解明されておらず、一部の専門家によると、いまだかつてない超常現象だと言われています。また、世界各地の火山が、急速に活動を始めた件ですが……〉


テレビからは、世界中の異常事態を知らせるニュースが流れ続けていた。

全ては5日前にどこかの国で起きた大地震に始まり、そこから、火山噴火、伝染病の蔓延、異常気象……などなど、ニュースで言っていた通り、いまだかつてないような事態となった。

そのため、世界の終わりを謳う宗教や思想が尋常でないほどに広まっていた。テレビに町角でのインタビューが映し出される。


〈なんだか、怖いですよね……。ここはまだ、何の被害にもあってないですけど、知り合いが何人か伝染病にかかって、総合病院に運ばれましたし、次は私なのかなって考えると、とても不安です…………〉

〈ああ? インタビューだと? あのなあ、世界はもうすぐ終わるんだよ! 俺たちも、もうすぐ死ぬんだ‼ 政治家とか、国のお偉方は、大丈夫みたいに振る舞ってるけどよ、実際そうなんだろ⁉ なあ⁉〉

〈あのっ‼ ちょっと……⁉〉

〈……えー、以上、ニュースをお伝えしました。このあとは――――〉


そこで俺はテレビの電源を切り、リュックを背負った。


「いってきます」

「おお。気を付けてけよ」


親父は特に気にした素振りも見せず、いつも通りに俺に声をかけた。それが今は、少し嬉しかった。

俺がやるべきことは、解っている。パンゲアの言っていたことの意味も、この事態で理解することが出来た。あとは、行動するのみだ。家の戸を勢いよく開き、俺は学校へと向かった。


こんなことがあっても、学校はいつも通り……とは、ほど遠い状況だった。

終末思想が広まったせいで、生徒には欠席者がちらほらといて、教師の中にも欠員が出たほどだった。


「おはよ、日奈太ひなた。調子はどう? って、良いわけないか……」


いつも元気が取り柄の有川ありかわも、さすがに明るさを失っていた。


「どうなっちゃうんだろうね、私たち……。まさか、本当に死んじゃうのかな……。予言者みたいな人たちが、おそらく、もう来年は迎えられないだろうって、テレビで言ってたけど…………」


有川は下を向いて、涙ぐみ始めた。

たぶん、俺はそれを見ていられなかったんだと思う。

「有川。世界は、終ったりなんかしない。いや、俺たちが終らせたりなんかしない。だから、大丈夫だ」

「え? 日奈太?」


世界の崩壊とパンゲアの言っていたことについては、クロウディアやクロウとして関係のある、あいつらにしか言うつもりはなかったが、有川なら、話してもいいだろうと思った。


「実は俺、今年の春に、ちょっとした不思議体験に巻き込まれてさ。信じられないかもしれないけど、それから、ちょっと変わった奴らと仲間になって、それでいろいろあって……。この間、みんなで闘うって、決めたんだ。世界を変えるって、決めたんだ。だから、世界を終わらせたりはしない。世界が終わる前に、俺たちが世界を変えるから、それまで待っててくれ」


有川は、俺の眼をぼうっと見つめたままだったが、やがて瞳を閉じて、ゆっくりと頷いた。

「日奈太は、何かと闘うんだね。その何かがなんなのか、私にはわからないけど、でも、日奈太が頑張るのなら、私も応援するし、やれることはやるよ」

有川は少しいつもの元気を取り戻すと、いつものように俺に笑いかけた。

「私が、日奈太に励まされちゃったね。なんか、日奈太がいつの間にか大人びちゃって、少し悔しいな~。昔は、しょっちゅう私の方が日奈太を励ましてたのにさ!」

口をとがらせながら、それでも嬉しそうに笑う有川に、俺も同じように有川に笑いかけた。



11月30日(木) カフェ「かしわもち」 放課後


「明日世界が終わるかもしれないって時に、こんなところに集まってるなんて、君らも随分呑気だよね……」

テーブルに肘をついて、ジュースをすするとクラウドはため息を吐いた。そこへすかさず、「そう言うオマエも集まってるんだけどな」と連夜(れんや)が突っ込みを入れる。

「今日集まったのは、明日のための作戦確認が主よ。だから、別に呑気に過ごしているわけじゃないわ、クラウド」

「そんなことはわかってるよ、えりさ」

クラウドはそうぼやいて、椅子に座り直した。もしかして、今のがクラウドなりのボケなのか? そうだったら、わかりにく過ぎるだろ……。

「日奈太さんの話によると、世界が崩壊するときに現れる塔の頂上に行き、パンゲアさんという人に会えば、この世界のことが全てわかるんですよね?」

アンがかいつまんで、俺の話の概要を確認する。その話に、珍しくヤタが反応を示した。

「そこで世界のことを知れば、世界を変えられる方法が知れて、世界の崩壊を止められるかもしれないってことだよね? でも、そんなにうまくいくの? 全ての秘密を知っても、世界を変える方法がわからないかもしれないし、わかっても時間が無くて、先に世界が、崩壊しちゃうかも……。それに、そのぱんげあが、わたしたちに本当のことを教えてくれるとは限らないと思う……。ぱんげあは、ロンリネスの人、なんでしょ?」

こんな状況で水を差したくないのか、ヤタの口調はおずおずとした感じだったが、その点について、俺は何も考えていないわけではなかった。

「そのことに関しては、大丈夫だ。まず、パンゲアは、間違いなく俺たちに協力してくれてる。この間も話したが、パンゲアはロンリネスを裏切って俺に協力してくれた。それに、ロンリネス、赤城あかぎの目的は、世界の崩壊だとも言っていたから、それを達成したいのなら、わざわざ塔に呼ぶ必要は無い。逆に、世界崩壊の日にその塔が現れるのなら、その塔は、世界崩壊と何か関係してるってことだよな? そんな場所に、俺たちを呼びつけるのは、危険でしかないはずだ。だから、この呼び出しはパンゲアの独断行動。裏切るふりをしたとは考えにくいと思うんだ」

「どうせ、後藤のことだから、そっちはこじ付けで、本当はそのパンゲアって奴を、信じたいだけなんでしょ? まあ、納得したから僕はいいけどさ」

呆れ気味にクラウドが俺を見る。否定できないな……。実際、みんなにパンゲアを信じてもらいたいっていう理由で、こんな探偵みたいな説明が出てきたんだし……。

「……で、次に、パンゲアが俺たちの味方だとすると、一つの仮説が浮かび上がるんだ。パンゲアの能力は、全知全能者マスター。全ての能力が使えるらしい。なんでパンゲアが、そんなすごい能力を持っているのかはわからないけど、それだけ万能の力があるのに、何もしないで俺たちを呼んだってことは、パンゲアは、世界を変える方法、少なくとも、この世界を滅亡させないで済む方法を、知ってるんだと思う。そのために、俺たちの力が必要ってことなんじゃないか?」

一通り話し終えてから、俺は自分自身に少し驚いていた。何かの為に、ここまで頑張れるものなんだな。ヤタも納得して頷くと、「じゃあ、大丈夫」と安心したように呟いた。

「じゃあ、私たちはとにかく、塔が出現したら頂上を目指せばいいのね。おそらく、途中にロンリネスのメンバーが控えてる可能性が高いわ。その場合は、誰かがそいつを食い止めて、日奈太君を頂上に向かわせるようにしようと思うのだけど、どう思う?」

「え? 俺を?」

みんなを見回すと、俺以外の全員が、それに納得した様子だった。

「最終的に誰か一人に行ってもらった方が早いし、だとしたら、それは日奈太の役目だろ?」

「前にも、言いましたよね? 日奈太さんのおかげで、みんな変われたんです。日奈太さんを中心に、みんなまとまれたんですよ」

「そもそも、パンゲアって奴と面識があるのは、後藤だけなんだから、当たり前でしょ」

「ひなたなら、全部任せられる。わたしも、そう思えるよ」

まだ、こいつらとは半年くらいしか過ごしていないのに、なんだか、すごく長い間一緒にいたように感じた。いや、過去形で終わったら駄目だよな。このつながりを、未来につなげるために、俺たちは、明日闘うんだ。

「それじゃあ、明日に備えて、このカフェで最後の晩餐をしましょうか!」

「かなり、こじんまりした晩餐だな……。ってか、最後にしちゃ駄目だろ⁉」

「後藤は、いちいちうるさいよ……。あ、僕、コーラ一つ。頼んどいて、烏丸からすま

「オマエも相変わらずだな……。ん? 相変わらず……? ああ、そうだ!」

連夜は何か思い出したように手を打つと、クラウドの方を指差した。

「そういえば、クラウド! オマエ、夏にみんなで出かけた時に、オレらに相談でもする時が来たら、オレらのこと名前呼びにするって言ってたよな!」

それを聞いたクラウドは、明らかに目を逸らした。

「あの約束がまだ果たされてないぜ? 自分の言ったことには、ちゃんと責任持ってくれないといけないよな?」

「……別に今さら名前でも、名字でもどっちでもいいでしょうが……」

「だったら、名前で呼んでくれれば、いーじゃねーか」

しばらく、連夜とクラウドが言いあっていたが、そこにアンが便乗したことにより決着がついた。

「そうだったんですね! あ、じゃあ、あたしのことも、名前で呼んでください!」

「なんで、アンまで名前で呼ばなきゃ……あっ‼」

撃沈したクラウドを、連夜がしばらくからかっていたが、「うるさいよ、連夜?」と、後半、クラウドがキレて、デスサイズを出しかけていたので慌てて止めた。

各々、自分たちの食べたいものを頼み、あまり人の多くない店の中で、戦いの前の最後の時を過ごした。




「…………すぅ…………ぅ……」

「……起こさないように、ですよ? 連夜さん……」

「ああ、そうだな。さっきまではしゃいでたし、ヤタも疲れたんだろうな」

向かい側の席で、連夜に寄りかかって眠ってしまったヤタを起こしてしまわないように、アンと連夜はヤタを見て話をしていた。

それを見て横からえりさが小声で話しかけてきた。

「ねえ、日奈太君。私、まだ、あなたに隠していることがあるの」

「ん?」

「勝手かもしれないけど、まだ、言う気にはなれない。本当にごめんなさい……。でも、あなたを信用していないわけじゃないの。ただ、まだ、私があなたに言えていないことがあるってことを、憶えていてほしくて……。私も、このままあやふやにして終わらせるつもりはないから、それだけは、わかってもらえる?」

ゆっくりと言葉を紡ぎ出すえりさから、俺は目が逸らせなかった。最初は、俺も少し動揺していたが、えりさの思いが伝わってきて、自然といつも通りでいられた。

「……それで、いいんだね? えりさ」

「ええ。これ以上、人にも、自分自身にも、嘘は吐きたくないから。これが、私の本当の気持ちだって、わかったから」

横で話を聞いていたのか、クラウドがえりさの方を見ていた。

「そう。えりさがそう言うのなら、それでいいんじゃないかな」

「……うん。ありがとう、クラウド」

クラウドは、知っているんだろうか? クラウドは俺の方に目をやると、テーブルに肘をついて、満足そうに言った。

「まあ、心配しなくても、日奈太もそのうち知ることになると思うから。えりさの隠し事。えりさが、タイミングを考えて、それを君に話してきたのなら、その時は、ちゃんと話を受け止めてあげてよ」

「ああ、わかってる」

えりさが隠していることというのは、おそらく、えりさの過去のことなんだろう。でも、えりさが話したいと思ってくれてからでも、知るのは遅くないよな。


明日、世界は終わりを告げる――。世間では、そう言われている。

明日の為か、店の中に店員はもういなくなっていた。そもそも、閉店時刻を過ぎたにもかかわらず、まだここにいるのは、この店に俺たち以外にもう人がいないからだった。

明日の朝まで、もう少しここで休んでいくか。



12月1日(金) カフェ「かしわもち」前 午前4時頃


 早朝。俺たちは、店から出ると、これから繰り出していく町を眺めていた。

断続的な地震が、今も地面を揺らしている。


やがて、一段と大きな揺れが始まり、凄まじい地響きとともに、それは現れた。


巨大すぎるその塔に、俺は言葉を失った。


「あれが、パンゲアの言っていた塔、なのね……」

「まさか、ここまでデカいとは思ってなかったぜ……。頂上まで行くのは、ちょっと骨が折れそうだな」

俺たちは、道に横一列になって並ぶと、塔の方を見据えた。

「あの位置は、前に侵入した、研究所のあたりじゃないですか?」

「どちらにせよ、僕らのやることは変わらないよ。難易度が上がっただけで、不可能になったわけじゃないから」

「うん。急いだ方がいいかもしれないよ、みんな。だって、ほら…………」

ヤタが指差した先には、朝であるにも関わらず、わんさと地面から現れるレストがいた。

「蹴散らしながら、駆け抜けるしかないか……」

俺たちは武器を構えると、真っ直ぐと道の先を見据えた。俺は、そこで一度、みんなの顔を見回してみた。

今年の春ごろ、俺はこんなことになるなんて想像できただろうか?

俺が澤野に連れられて、連夜に会って、その後クロウディアのことを知って、そのせいで、えりさに殺されかけて、一緒に行動することになって……。

全てが偶然の重なりみたいになっているけど、でも、そのおかげで今の俺がここにいるんだな。

目線を戻し、俺はこれから戦うべき相手を見る。朝日が昇ってきて、俺たちを照らしていた。


「さあ、行こう、みんな! この世界を変えて、みんなで帰るために!」


俺のその言葉を合図に、みんなレストの群れへと飛び込んでいった。



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