空をあおげば ~図画工作でのひとまく~
ちぎり絵は色紙をちぎって絵を描きます。
白紙の状態でも作れる他、線画にぬりえのように色をつけるやりかたもあります。
霜月透子様主催の『びりびりな話』参加作品です。
……びりびりびり……
あたしはチラシをちぎって、おさらにおいた。
ちぎった紙は、おなじ色でまとめている。
小さな紙きれにノリをつけて、絵がかかれた白い紙にはっていく。
「お、ソヨカちゃん。上手にできたね。きれいなカメさんだ」
ランコさんはあたしの『ちぎり絵』を見て、そういった。
『ちぎり絵』は、ちぎった紙をはりつけて絵をかくものだ。
あたしたちはイベントで『ちぎり絵』と『切り絵』をやっている。
大学生のランコさんが先生になって、やり方を教えてくれてるんだ。
このイベントでは『ちぎり絵』も『切り絵も』、黒い線でどうぶつの紙がかかれた下絵がよういされていた。
なんしゅるいかあって、すきなものをえらんでよい。
あたしはカメの下絵をとった。
今回は新聞のチラシを使う。
手でちぎって、色をそろえて、はっていくのだ。
「あ、ソヨカちゃんもできたんだな。けっこううまいじゃん」
別のテーブルで『切り絵』をやってたミキオくんがきた。
ミキオくんは小学校であたしと同じクラスだ。
「ミキオくんの『切り絵』のウサギさんもできたんだね。うん、じょうずにできてるよ」
あたしがほめてあげたけど、ミキオくんはあまりうれしくなさそうだった。
なんだか物足りないみたいだ。
「オレのは初めからできてる絵で、線を切るだけだからな。自分で作った気がしないんだよ」
『切り絵』の方も、何まいかの絵が用意されている。
ミキオくんはウサギの絵をえらんでいた。
その絵を黒画用紙の上において、白と黒のさかい目をカッターで切っていくのだ。
切りおわった黒画用紙を白い紙の上におくと、かんせいだ。
不満そうなミキオくんに、ランコさんが声をかけた。
「そのままで切るものだけじゃなくて、エンピツで書き足すこともできるよ」
それをきいたミキオくんはニヤッとわらった。
「それでも人のかいた絵だろ? オレ、はじめから自分でかいてみたぜ」
ミキオくんは、べつの黒い紙を出した。
黒紙にエンピツで自分で絵をかいて、カッターで切ったみたいだ。
切れたぶぶんを、ミキオくんは手で外していった。
アニメのキャラクターかな。
あ、でもこのかき方だとマズいかも……
ミキオくんは白い紙に黒画用紙をのせた。
そのとたん、キャラクターの目のパーツがおちた。
「あれ?」
ふしぎそうな顔をするミキオくんに、ランコさんが言った。
「ミキオくん。切り絵の黒のところは、黒わくのどれかにつながっていないと、おちちゃうよ」
「あ、そうだった。これはしっぱいだな。ノリではろうかな」
「こういうやりかたもあるよ。かしてごらん」
ランコさんは、ゆびにゴムのカバーをつけた手で、目のパーツをひろった。
それをミキオくんの切り絵のキャラクターの顔にこすりつけた。
そっとパーツから手をはなして、切り絵をたてにもち上げる。
パーツは絵にくっついてて、おちなかった。
「あれれ? ランコちゃん。これ、どうやってくっつけたの?」
「ミキオくんとソヨカちゃん。静電気って知ってる?」
静電気?
さむい時にセーターがビリビリッてなる、あれのことかな?
「オレ知ってる。下じきで頭をこすったら、髪の毛がくっつくやつだろ? そうか、それでくっついたんだ」
「ランコさん、これっていつまでもくっついてるの?」
あたしがきくと、ランコさんは首をよこにふった。
「いや、時間がたてばおちるよ。ずっとつけとくなら、ノリでつけるしかないかな」
「ランコちゃん。静電気って、すぐ消えるんだろ? 電気っていうけど、やくに立たない電気だな」
「ミキオくん。たとえばこれも、静電気をつかうきかいでコピーされたんだよ」
ランコさんは切り絵やちぎり絵の、元の紙をとり上げた。
「コピーのそうちでは、こなのインクをローラーにつけるんだ。ローラーにレーザー光線を当てると、そこに静電気が起きる。そうするとコピーする絵や文字の形に、インクをつくんだよ」
「へぇ……『コピーき』って静電気をつかっているんだ。静電気をつかうものって、ほかにない?」
ミキオくんがきくと、ランコさんは白い小さい紙きれをひろい上げた。
「ミキオくん。ソヨカちゃん。ちょっと『じっけん』をしてみようか。紙を2センチくらいの正方形に切ってみて」
「うん、わかったよ。ランコちゃん」
「ここでいいの? ランコさん」
ミキオくんとあたしは、紙を小さく四角に切った。
「そうそう。それを半分におって、九十どになるように広げる。ひらいた方を自分にむけて、つくえにおいてみて」
そう言いながら、ランコさんは紙きれをつくえの上に立てた。
あたしたちもおなじように、紙きれをつくえにおいた。
「じゃあ、右手で自分の右のほっぺをかるくこする。つぎに左のほっぺもこすって、その手を紙に近づけてみて」
「あ、たおれた?」
ランコさんの手の先で、紙きれがたおれた。
あたしのも、同じようにたおれた。
「オレの紙はたおれないよ。なんで?」
「ミキオくん、右と左がぎゃくだったね。あまり強くこすらないでね。右手でやるときは、さいしょに右のほっぺ。それから左のほっぺをこすって、すぐに手を紙に近づけるんだ。なるべく紙の上のほうに近づけるといいよ」
「あ、こんどはたおれた。すごーい。ランコちゃん。静電気ってすごいんだね。明日、クラスのやつらにも教えてやろう」
「ははは……。ちょっとした『てじな』になるかもね。・・・・・・・・」
さいごにランコさんが何かつぶやいたみたいだけど、よく聞こえなかった。
あたしも、クラスの子に教えてあげよう。
明日が楽しみだな。
ランコさんは、まどの外を見ていた。
あたしもそっちを見ると、雲一つない青空が広がっていた。