屋根裏部屋の少女は諦めていた
「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品。1000文字の超短編です。
私は魔力が強すぎた。
花も、果実も、人も。
手で触れたら腐らせてしまう。
私は生まれてすぐ手袋をされ、教会の屋根裏部屋に閉じ込められた。
恐ろしい力だから外に出てはいけないよ。
そう言われても、幼い頃は人恋しくて泣いていた。
でも、いつの日か諦めた。
どれほど願っても部屋の扉は閉ざされたまま。
開かれることはない。
私と外の繋がりは扉につけられた小窓だけになった。
窓から毎日、固いパンが皿にのって部屋の床に置かれる。
いつの頃からか、パンに一輪の花が添えられるようになった。
手袋越しに茎に触れ、花の匂いを嗅ぐ。
白い花から外の香りがした。
花は毎日、添えられた。
それが少し楽しみになってきて、パンを届ける人に言った。
「お花、ありがとう」
いいえ、と呟く男の声がした。
ある日、パンの他に土が入った壺が小窓から出てきた。
壺を見ていたら、男の声がした。
「土に触ってください。肥料ができるはずです」
意味が分からなかった。
でも肥料があるとパンがもっと作れると言われて、私は土に触れた。
腐った土を渡したら、彼は喜んでくれた。
固かったパンが柔らかいパンになり、白い花ではなく桃色の花が皿に添えられた頃、彼が言った。
「貴女のおかげで今年は小麦がたくさん実りました。餓える人が減りましたよ」
「そう。小麦畑、見たいな……でも無理ね。私が触れると皆、死んじゃう」
自分で言ったのに胸が痛い。
うつむいていたら、小窓から彼の手が出てきた。
「貴女は手袋をされていますよね? 触れても、僕は死なないのでは」
小さく息を飲んだ。
触れたい心と怖い心が両方きて、前者が勝った。
恐る恐る彼に触れると手を握られた。
びっくりして腕を引く。
手は離れてしまった。
「……やっと、触れられた」
泣きそうな声で言われて、枯れたはずの涙が瞳からこぼれた。
「私、初めて人に触れたわ……」
彼は言葉をつまらせながら、もう少しだけ待ってほしいと言った。
数日後、部屋の扉が開いた。
居たのは彼。
「教会が貴女を豊穣の女神と認めました。こちらへ」
彼に手を引かれ、外に出ると小麦畑が見えた。
「貴女が作った土で枯れた大地が回復しました。貴女の力は尊いものです」
彼は学者だった。
私の土を使い、十年以上かけて豊かな大地にしたのだ。
私は恐ろしい存在ではないと教会に訴えて解放してくれた。
初めて見た麦穂と彼。
諦めていた光景を見れて泣きそうだ。
「あなたの顔が見れて嬉しい」
そう言うと、彼は私をかき抱いた。
「僕もです」
「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」でノミネートに選ばれ、朗読して頂きました!
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https://www.youtube.com/watch?v=gmUvRA8o1EI